トライアスロン~プロローグ | 知念だしんいちろう「THE ぴっちゃがま」Powered by Ameba

トライアスロン~プロローグ




「イケる!今日絶好調!」


長堂ゆうしはクロールをしながら心の中でそう叫んでいた。

宮古島トライアスロン大会。毎年宮古島で行われる別名『鉄人レース』。
その過酷な競技にゆうしは初挑戦しているのである。






半年前、大学生の頃から付き合っている仲宗根ななえに言われた一言がきっかけだった。

「あんたさ、いつも口だけだよね。もっと男らしくなったら?」

いつものようにゆうしだけがしゃべり続け運転し続けるという、なんとも盛り上がらないドライブデートの帰り際、ななえはそう言い残して車を降りて行った。

「お、男らしく・・・男らしく・・・男らしさ?・・・・・あ!トライアスロンか!」

元来、思いつきで行動するタイプのゆうしである。
翌日には大会に申込み、トレーニングを始めた。

「オレはトライアスロンを完走する。そしてななえにプロポーズをする!」

ゆうしとななえは付き合い始めて3年。大学卒業後、ななえは地元である宮古島の空港に就職が決まり、ゆうしも那覇の大手建設会社に内定が決まっていたが、入社直前にその会社の巨額脱税が発覚。
沖縄県内をゆるがす事件となり、その騒動の中で内定もうやむやになってしまった。現在はユニオンで深夜アルバイトをしている身である。


ーーー大事な時に上手くいかない。


ゆうしはいつだってそうだった。

小学校2年生の時、楽しみにしていたパン工場見学の前の日におたふく風邪にかかり、参加が出来なかった…。

中学3年生の時の校内マラソンでは、学年トップで学校に戻って来たのに、ゴールテープを切る直前、校門に面した国道で自動車18台が巻き込まれた玉突き事故が起こり、マラソンどころではなくなった…。


とにかく大事なところで上手くいかないのだ。



「だけど、今回こそは…。」


ゆうしは遠距離恋愛中のななえとの幸せを勝ち取るため、そして今までの不運な自分の人生を変えるため、この宮古島トライアスロンに挑戦しているのである。






最初の種目、スイムは絶好調。
かなりの好タイムで3Kmを泳ぎ終えた。

次はゆうしが得意のバイクだ。

練習でも自己ベストを更新し続けてきた。


「イケる!これはイケるぞ!」


海から上がり、バイク置き場に向かうゆうしの頭の中には、ななえとの幸せな結婚生活が3D映画のように浮かび上がっていた。




が、しかし…




バイク置き場に辿り着いたゆうしをまたもや痛切なる不運が待ち構えていたのであった…。







※このお話しは『知念だしんいちろう』がお笑い劇場で演じたコントのプロローグです。続きはどこかしらでまたこのコントを演る時に。