うちの父、食堂をやっていたんです。

出前で成り立つくらいの小さな食堂。

 

そんな父が10年ほど前に、

心臓が破裂して、

緊急手術を受けました。

 

10中8、9、は助からないほどの

症状だったそうです。

 

12時間に及ぶ手術。

3週間意識なし。

誰もが覚悟しました。

 

でも助かったんです。奇跡的に。

主治医の先生(執刀医っていうのかな?)

は30代かなぁ?40代くらい?

とっても穏やかで物静かな方、

でもゴッドハンドなことだけは確かでした。

 

蚊の鳴くような声で話し、

ICUの看護師さんには敬語で指示し、

でも看護師や患者家族の冗談には完全スルー(笑)

 

そして父が急変する度、

呼び出され、寝ぐせで現れ、テキパキと指示を出し処置をしてくれた

毎日、わたしの頭の中でプロフェッショナル~仕事の流儀~のあの曲

がエンドレスチューンしてた(笑)

 

3週間ほどして意識が戻った父に、

「あんたが3週間寝てる間に『命のたれ』がダメになっちゃったよ、

あれ、捨てていい?」と言いました。

 

「命のたれ」とはかつ丼や親子丼で使う「かえし」のようなもので、

継ぎ足し継ぎ足し何年物の「たれ」でした。

 

私がそう言うやいなや、

「えっっ!?」

「命のたれが?」

私たちの会話や看護師の冗談にピクリとも反応しなかった先生が、

と反応しました。

父より早かった(笑)

 

いやいや、その反応にこっちがビックリだわよ。

まぁまぁ大っきい声だっわよ今ニヤニヤ

 

「えっ?」って思ってる私に、

先生は続けて言いました。

「わ~!お父さんの店のかつ丼好きだったんですよ子供のころ」

「マジかぁ早く良くなって帰らないとね○○さん!」

 

いやいや、こっちがマジかぁ~ですって、先生!

 

先生、うちのかつ丼食べたの~?

子供のころ?

え~どこで~?

 

もう聞きたいことはいっぱいあったけれど、

聞けなかった。そんな雰囲気の先生じゃなくてねぇえー?

 

退院して後日、

先生、うちのかつ丼食べたって言ってたよね?

って父に言ったら、

 

「いや覚えていない」「そんなこと言ったんか?先生?」

と何とも、モヤモヤする答え。

あの時のことは「術後せん妄」で覚えてないとの事。

 

多分「下駄屋」さんのお孫さんじゃないのかぁ?

孫がうちのかつ丼好きで、孫が来るから…

ってよくうちのかつ丼出前とってくれてたから。

っていうんです。

 

いつ先生が、この人かつ丼屋のおやじだ!って気づいたのか?

分からないけれど、知ってたんですねぇ。

ビックリしました。

 

父はうちのかつ丼食べた子が心臓外科のゴッドハンドかぁ…

とまんざらでもなさそうでした。

ほとんど後遺症もなく、あれから10年以上がたちました。

 

いつも神秘十字が手のひらにあることを常に自慢していた父の

神秘十字はいま薄~くなっているらしい。運をあの時使い果たしたな。