ライラは翼を羽ばたかせ、アディナと空中で戦いを繰り広げていた。激しくぶつかり合い、その度に剣と剣が交差する。合流したアズール達は、飛びかかってくる魔物や、アディナが召還した幻影の四天王と戦っていた。
「くっそー!キリがねえっ!!」
魔物や四天王は倒しても倒してもどこからともなく沸いて出てくる。
「僕達を足止めして、ライラを孤立させるつもりみたいだね」
「ちっ、一々やることが姑息だっての!!」
ライラはアディナの一撃一撃を受け止め、時にいなし、時には回避して防戦一方の戦いを強いられていた。
「くっ!」
「どうした、光の剣神。そんな状態では私に勝つことなど出来ぬぞ!!」
斬りつけられ、蹴落とされたライラは落下する。
「うわぁあああっ!!」
「神技・ロザリオダークネス!」
ライラに向かって急降下するアディナ。黒い剣が闇を纏う。
「死ねっ!!」
「こんなところでっ、死ねるかぁあああっ!!」
闇の十字斬の初撃は受けるも、次の攻撃は防いで斬り返す。アディナも翼を羽ばたかせて退き、剣を構え直した。
「っ…」
血が服を染める。相手は闇の剣神だ。今まで戦ってきたどの敵より強い。しかし、だからといって負けるわけにはいかない。ライラも剣を構え直し、翼を羽ばたかせてアディナへ攻撃をかける。
「食らえ!クロスインペールッ!!」
「甘いわ、ロザリオダークネス!!」
光と闇の神技がぶつかり合い、その下でソーサがアディナに向かって神聖魔法を発動させる。
「神よ、悪しき者へ大いなる裁きをっ!アンジェル・ジャッジメント!!」
異空間から飛来した天使が閃光の雨を降らせる。巻き込まれた魔物が次々倒れ、ライラは巻き添えを食わないよう、大慌てで物陰に隠れた。
「おのれ、巫女の娘め…!」
立ち込める砂埃の中から、アディナが立ち上がる。その双眸には、怒りとも憎しみともつかない炎が宿っていた。翼を羽ばたかせて飛び、次の詠唱に入っているソーサを攻撃しようと剣を振り上げる。
「死ぬがよい、巫女よ!!」
「ソーサには手出しさせねえ!!」
アズールが割り込み、振り下ろされたアディナの剣を受け止める。その隙を突いて、キラがなぎ払う。
「くっ!!リーディアを見くびっていたか」
受け身を取り、着地するアディナ。ライラは翼をしまい、ダッシュして横からアディナを斬りつける。
「キラ!行くぜ!」
「ああ、アズール!」
「神よ、時を奪う力、我に与えよ!タイムストップ!!」
ソーサの発動した魔法がアディナの動きを止め、キラとアズールが同時に走り出し、ライラは光を纏う剣を振り下ろす。
『双・十字・インペール!!』
三つの十字架が炸裂し、また砂埃が舞い上がる。
「やったか…うわあっ!」
アズールが吹き飛ばされ、壁に激突する。
「その程度の技で、私を倒そうなど…」
攻撃しようとしたキラを剣の一振りで弾き飛ばし、ソーサを守るライラに剣を突きつける。
「受けるがいい、死を誘う闇の刃を!」
黒い鎌鼬がライラを襲った。血が花を散らしたように飛び散る。
「く…っ!」
「全て消え去れ!ブラックホール!!」
空間が歪み、大きな裂け目が現れた。四天王の幻影や魔物が飲み込まれていく。
「ふふふ、これに飲まれれば最後、永遠に闇の中をさまよい続ける!」
ソーサが詠唱を始める。ライラは傷ついた体を押し、ソーサを守るためにアディナと刃を交えた。
「ダメっ、あれを打ち消す魔法がないわ!」
キラとアズールは気を失っている。ライラは唇を噛みしめ、アディナの攻撃に耐えた。待てば必ずチャンスがくる。諦めるわけにはいかない。
「はぁっ!!」
突如、聞き慣れない声が空間に響き、アディナの発動したブラックホールがかき消された。
「何っ…!?」
銀色の髪の青年が、アズールとキラを抱え、ソーサの元に運ぶ。
「おのれ!裏切るつもりか!シャン!」
アディナがソーサとシャンに向かって闇の衝撃波を放った。
「ライラ・ローマン。お前の仲間は俺が守る!存分に奴と戦え!」
大剣を構えてシールドを展開し、衝撃波を打ち消すシャン。シールドに守られながら、ソーサはシャンを見上げた。
「シャン…どうして?」
「守るべきモノを見つける前に、まずやらねばならないことがある。それだけだ。早く二人を回復させろ。闇の剣神に勝つには、仲間の力が必要不可欠だ」
ライラはアディナと再び剣を交えた。シャンという心強い味方が増えた。さらに、ブラックホールという大技を出したアディナは、明らかに疲弊していた。相変わらず威力は高いが、剣の振りに鋭さが失われている。
「いっけぇえ!クロスインペールッ!!」
「くっ、ロザリオダークネス!!」
ぶつかり合う光と闇。しかし、闇が打ち勝ち、ライラは神技をまともに受ける。
「ぐ…っぁ…!」
翼が消え、墜落したライラ。アディナは肩で息をしており、しばらくライラが起き上がってこないか警戒していた。
「ライラ!」
ソーサの回復魔法で意識を取り戻したアズールは居ても立ってもいられず、ライラの元へ駆け出す。
「ふふ、シャンの張ったシールド内にいれば安全なものを。愚かな奴だ」
アディナがアズールに飛びかかる。剣を槍で受け止め、アズールは押し返した。
「うっせー!ライラは仲間だ!チビでぼんやりしてて、頼りねえとこもあるけどな!あいつは何時だって俺たちを守ろうと必死に戦ってくれてたんだよ!!」
「小賢しい。仲間など、必要ないものだ!」
アズールに向かって振り下ろした剣が、別の槍で止められる。
「仲間が必要か否かは人それぞれだけどね、勝手に僕の仲間を殺そうとするのは我慢ならないよ」
復活したキラがアディナの剣を押し戻し、隙をついてアズールが一撃を加える。
「私だって、ライラの仲間よ!仲間が生きるこの世界を壊されるなんて真っ平ゴメンだわ!」
ソーサの蹴りがアディナの脇腹に入った。アディナは咳き込みながら翼を羽ばたかせて舞い上がり、神技を使おうと構える。
「それほど、奴と一緒にいたいのなら、望み通りあの世に送ってやろう!神技・ロザリオダークネス!!」
「ダークネスシールド!」
シャンが襲い来る神技の前に立ち、闇のシールドを展開、キラ達を守る。
「く…っ、長くは保たん…!」
「神よ、我らを闇から守りたまえ!ホーリーシールド!!」
ダークネスシールドのすぐ後ろに光の盾を展開させるソーサ。キラはライラが落ちた箇所を見つめていた。
「ライラ…!」
ライラは目を覚ました。辺りは見渡す限り真っ白で、風景は何一つない。ふらりと立ち上がり、出口はないものかと歩く。
「…ライラ」
突然かかった声に振り返ると、シエルが立っていた。一緒に戦っていた時に見せたあの真剣な眼差しで、ライラを見つめる。
「ここで、終わるつもりかい?」
「…仲間を守れなかった俺に…世界なんて…守れるわけないんだ」
シエルを見たとたん、込み上げる想いが胸を満たし、涙が溢れてきた。シエルを殺した、自分の手で殺したのだ。仲間も世界も両方守りたいと言いながら、彼を…守れなかったのだ。
「ライラ、君の仲間は俺一人だけか?」
真っ白な空間が突然、アディナと必死に戦う仲間の姿を映し出した。傷ついても倒れそうになっても、世界を守るために、ライラを守るために戦っている。
「…みんな…」
「仲間も、世界も、両方守る。そう言ってくれた君なら、闇の剣神に勝てるだろう…さあ、行くんだ」
シエルがトンとライラの体を押す。空間から弾き出され、ライラは闇の中を落ちながら目を閉じた。
「死ね、光の剣神!!」
ライラは目を開け、すぐに剣を掴み、振り下ろされたアディナの剣を受け止める。
「な…」
「ライラ!!」
ソーサが飛び蹴りを食らわせ、アディナは横っ飛びに吹き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。
「俺は…仲間も、世界も、両方守る…!」
消えていた翼が再び現れた。剣にも光が戻る。ソーサが祈るような姿勢で詠唱を唱え始めた。それに呼応するように、ライラの持つ光がさらに輝きを増す。
「くっ…いくら仲間を持とうとも、私には勝てぬぞ!」
アディナがライラ目掛けて飛び込んでくるが、ライラが剣を振るった衝撃波で弾かれる。
「あ…」
キラの槍、アズールの槍も、ソーサの詠唱に合わせて光を纏う。シャンは満足げに頷き、アズールとキラも顔を見合わせて頷き合う。
「なんだ、この光は!?」
空間を満たす神々しい輝きに戸惑っているアディナ。ライラは仲間の元に降り、アディナを見上げる。
「行くぞ、キラ、アズール、ソーサ!!」
ああ!と皆が頷き、ライラは飛び上がり、キラ、アズール、ソーサはアディナに向かって駆け出す。
「アディナ!これで終わりよ!!」
「食らえ、俺たちの力をっ!」
「ダブルクロス・インペェエエエルッ!!」
アズールを踏み台にしてキラとソーサが華麗に跳躍。アズールも飛び上がり、キラが左上から、アズールが右上から槍を振って斜めに十字を刻みつけ、その後ろからさらに、ライラが十字を刻み、最後に四人揃って一斉に交点を突く。溢れる光の中で、ライラは自分を支えてくれる仲間の中に、彼を見た…気がした。
「この私が…負ける…だと…」
断末魔の悲鳴を上げて、落ちていくアディナ。その体は闇と化して消え去り、持ち主のいなくなった剣が突き刺さる。一瞬の静寂。やがて、着地していた三人から歓声が上がる。
「やったぜ、ライラ!闇の剣神、倒したぜ!!」
アズールのその言葉に安堵した途端、ライラの翼が消えた。
「わっ、うわぁああ!」
落ちたライラを受け止めるアズールとキラ。
「びっくりさせやがって…」
「ごめん…」
何故だか涙がこみ上げてきた。父の敵を討てた。世界を守れた。目的は果たせたのに。
キラリと胸元で揺れるシエルのペンダントが輝いた。