FreedomWing ~カミモノガタリ~ 19.見つけるべき答え | 蒼穹騎士の隠れ家

蒼穹騎士の隠れ家

全力妄想投球場。ロボと戦闘機大好きすぎて、それしか書かない多分。
そんなブログ。
詳細はfirst&aboutで。


 朝の酒場は夜とはまた違う騒がしさがある、とライラは改めて思った。忙しなく客が入れ替わり、目まぐるしく状況が変わる。飛び交う言葉。行き交う情報。刻々と変化していくその様は世間と同じだ。
 人も同じだと、ライラは自分の幼い時の写真に視線を落とした。赤ん坊の自分と、同じく赤ん坊のソーサ。15年という年月を重ね、双子は成長し出逢い、刻々と変わる時の中に身をおいて、時と共に変化していく。その流れに逆らえる者は誰一人としていない。自分の中の時が止まらない限りは。
「はい、お待ち遠さん」
ライラは写真をズボンのポケットにしまい、いただきますと一礼してから、店主から出された朝食のオムレツを食べ始める。
「昨日は遅くまで起きてたみたいだが、なんかヒントは見つかったのかよ」
オレンジジュースが入ったグラスを傾けて、アズールがキラに訊ねる。
「占いの通り、洗いざらい文献やメモを読んだけど…手がかりになりそうなのは…」
首を横に振り、肩を落とすキラ。寝不足気味なのか、目の下にクマが出来ている。
「シエル、何か知ってることないかな…闇の剣神の居場所に繋がる手がかりになりそうな情報とか」
ライラの右隣に座るシエルは黙ったまま、手付かずのお冷やが入ったグラスに手をかざし、すぐにキラの前へそれを差し出す。
「…?」
行動の意図が読めず、首を傾げるキラ。キラの隣に座るアズールがグラスを覗き込み、あ、と声を上げた。ライラもキラと一緒にグラスを覗き込む。
 水鏡に映り込むのは、覗き込んでいるライラ達や酒場の天井ではなく、何もない空間だった。無機質だが異様に歪んでいると思われるそれが、この世界のどこかにある空間とは思えず、ライラは少し気分が悪くなるのを感じた。
「これは?」
キラの問いにシエルは黙ってグラスを引き寄せ、酒場の扉を見る。
 丁度酒場の扉が開き、見慣れた黒髪の少女が入ってくる。ソーサはしばらくキョロキョロしていたが、ライラ達に気づくと真っ直ぐ駆け寄ってきた。
「おはよう、ソーサ」
キラが微笑んで挨拶すると、ソーサもおはようと笑い、ライラの左隣に座る。
「あのね、昨日の晩、本棚を整理してたらこんなものがあったの」
ソーサが持ってきたものをテーブルの上に置く。質素な皮表紙の、まあまあ厚めの書物。タイトルはかすれており読めず、ライラは本の表紙を捲る。記載された文字は全て古代文字で、紙はところどころ傷んでいる。
「なんなんだ、この本?」
ライラが捲るページを眺め、アズールがソーサに訊ねる。
「分からないの。古代文字で書かれてるし…」
キラが眼鏡をかけ直し、本を手に取り、パラパラと捲る。
「…物語のようだね。今は昔…善き神と彼に協力する人間対悪しき神との戦争があった…」
冒頭部を音読するキラ。ソーサもアズールも、その音読に耳を傾ける。
「神々の決戦は、混沌と秩序の境で行われた…あれ…?」
キラは慌てて本を閉じ、ごそごそとメモを広げた。
「どうしたの?」
本を大事そうに抱えたソーサが首を傾ける。
「約900年前の資料に、当時の歴史研究者が世界崩壊のことを調べた文献があったんだ。彼は100年以上生きていた老人に聞き取り調査をしてる。これがその記録を抜粋したメモ…」
キラが出してきたメモを受け取り、ライラは目を通す。
『世界崩壊は神々の最終戦争により引き起こされた。神々は秩序と混沌の狭間で戦いを行った。多大な犠牲があった』
走り書きで書かれたメモをキラに返し、ライラはかつて見せられた世界崩壊のシーンを思い出してますます気分が悪くなった。
「…物語の決戦の地と、文献の戦地は同じ、『秩序と混沌の間』…」
「それってどういう…」
アズールの疑問を遮って、シエルが漸くしゃべり出した。
「その混沌と秩序の間がさっき見せた空間だ」
「ということは、闇の剣神の居場所は異界、ってことかな?」
ライラの言葉にアズールがなるほど!と膝を叩く。シエルはそうだと頷く。
「でも、異界なんて…どうやっていくの?」
「そこまでは分からない…アトレアの図書館で調べてみよう」
ソーサの疑問にキラは横に首を振る。ライラは朝の爽やかな日差しのもと、活気づいていく窓の外の街並みを眺めた。

 学問の街・アトレアに到着したのは、徒歩だったこともあり、日が傾き始めた頃だった。
 ライラ達はすぐにアトレアの中心地にある王立図書館へ入る。図書館内部は相変わらず静かで、ページの捲る音、筆記する音だけが響いていた。キラとシエル、ソーサが古代文献がある地下フロアに行き、ライラとアズールは窓側に設けられた読書コーナーで一息つく。
「疲れたぁ…」
ライラはテーブルに突っ伏した。目を閉じてしまえば眠れそうなくらい眠い。疲労からの眠気だろうか。
「なぁ、ライラ」
「ん、なぁに、アズール」
顔をあげると、いつになく真剣な眼差しのアズールと目が合う。珍しいなと思い、ライラは居住まいを正した。
「…お前、父親の敵討ちしようとしてるんだよな。どうしてだ?」
「…父さんの無念を晴らしたいから…」
アズールはそっかと呟き、哀しげな表情を見せた。
「俺な、故郷をなくした時に好きだった女の子も亡くしたんだ。どうしようもなく優しい奴で…復讐なんかするな、犯人を見つけても生かしてくれって…最期に言い残してさ」
ライラは黙って聞いていた。フェイニアスの前で見せた怒りと憎しみと悲しみが混じったあの横顔が思い出される。
「やっと彼女を殺した犯人を見つけたんだ…。だが、彼女は俺が復讐することを望んでない…俺はどうすればいいんだろうな…」
ライラは黙ったまま逡巡した。今でも、亡くした少女のことを想っていることがヒシヒシと伝わってくる。故に、彼女の最期の願いを聞き入れたいと思う気持ちと、自身の中でくすぶる殺意がせめぎ合っているのだと容易に察することができた。だからこそ、明確な答えは、ライラから出すことは出来ない。
「…自ら答えを出さなければ、業に勝つことは出来ない、って占いのおばあさん言ってたでしょ?」
アズールはああと頷き、いつもの表情に戻る。
「ありがとな。話して良かったぜ」
ライラはにっこり微笑み、またテーブルに突っ伏した。

 薄暗い森の中をライラはさまよっていた。たくさんの木々の間を縫うように走る細いうねった道を歩く。目的地は分からないけれど、道の先に何かあると勘が告げていた。
 急に辺りが開け、明るくなった。ライラは目を細め、その先にあるものを見据える。森の中にぽっかりと空いた土地。その中央には大人一人が入れそうな割れ目を太い幹に持つ、楠の巨木が葉を茂らせていた。巨木に近づき、ライラはそれを見上げる。風に葉を揺らすさぁっという音が心地よい。ふと足下に視線を落とすと、降り積もった枯れ葉の上に真新しい黒い羽根が落ちていた。カラスの羽根かと思い、それを拾い上げたとたん、羽根は煙となって消え失せる。その瞬間、ライラはここにアディナが来たことを悟った。そして、この大木の役目も同時に悟り、ライラは幹に手を添える。巨木はライラの存在など気にも止めず、静かに木の葉を舞い散らせていたーー。

 目覚めると、ふかふかのベッドの中だった。宿の部屋のようだ。部屋の中はランプの淡い光でほんのり明るいが、いつの間にか外は真っ暗で、隣のベッドで眠るアズールの規則正しいいびきが聞こえる。ライラは目をこすり、ベッドから降りた。
「起こした?」
少し離れたところに設置してあるテーブルでキラとシエルが何か話し込んでいた。ライラの足音に気がついたのか、キラが顔をあげ、ライラに訊ねる。
「ううん…。俺、眠ってたんだね…」
「起こすのも悪いと思って寝かせておいたんだ。お腹すいてるだろう?夜食作っておいたよ」
ライラはありがとうとお礼を伝え、空いている椅子に座ってテーブルの上に置かれたおにぎりを食べ始める。
「異界への行き方、分かった?」
「それが…記載されていなかったんだ」
キラは残念そうに首を横に振り、シエルとの間に置いた地図をライラに見せる。
「シエルがこの世界のどこかにある森に異界の入口があるって精霊から聞いたらしいんだけど、どの森か全く分からないんだ…」
精霊もアバウトだよね、と苦笑いするキラと、精霊ははっきりしたことは言わないから、と同じように苦笑するシエル。
「森…」
ライラは首を捻った。先ほど見た夢はもう思い出せなくなっている。
「もう休もうか」
「俺、シャワー浴びてくるから先に休んでて」
ライラは着ていた服を脱いでシャワールームに入り、シャワーを浴びる。歪んだ空間に舞う黒い羽根。心臓を射抜くような赤い双眸。ライラは身震いし、シャワーの栓を止めた。戦いの時は刻一刻と迫っていることを嫌でも自覚する。
 アディナを倒して世界を救うと改めて決意し、ライラは鏡を見つめた。