肝試し -響いた声は誰の声?- | 蒼穹騎士の隠れ家

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全力妄想投球場。ロボと戦闘機大好きすぎて、それしか書かない多分。
そんなブログ。
詳細はfirst&aboutで。

擬人化注意!






 夏恒例・肝試し!とかいうイベントが開催された。
 イカロスはフェアを引っ張って、見物気分でその参加者の群れに混じる。
 ルールは至って簡単。二人一組で墓地の最奥の蝋燭を持ち帰ること。
「面白そう!なぁなぁ、フェア、俺達も参加しようよ!」
「好きにしろ…」
「じゃあ、参加!フェアと俺でペアだ!」
意気揚々とイカロスは順番のくじを引いてくる。
「何事もなければいいがな…」
フェアの意味深い呟きは、闇夜に溶け込んでいった。

 前の一組が戻ってきて、次の組が行くという流れで、肝試しは行われた。何もなくてつまらねーとか言いながら帰ってくる組、リタイアして戻ってくる組、はたまた、片方が気絶して、もう片方がやっとの思いで連れ帰ってくる組…と色々ある。
 イカロスはまだかなまだかな、とそわそわしていた。フェアはつまらなさそうな顔をしている。
 で、ついに二人の番。
「いくぞー!」
闇に足を踏み入れていくイカロスの後ろを、少し離れてついていくフェア。
 道を照らす懐中電灯がなければ真っ暗闇。その中を歩いていく二人。一本道の脇に、なにやら白い人影がちらほら見える。
「なあ、フェア」
「なんだ?」
「あれ、何だろ?人かな」
指さそうとしたイカロスの手を掴んで、フェアは横目でそれを確認し、ため息をついた。
「ほっとけ…。あと、気づかれたらまずいから指でさすな」
「うん…」
その後は、黙々と道を歩く。肝試しって、こんなにつまらないものなのかと、イカロスは少しがっかりしていた。
 想像では、もっとびっくりするものだと思っていたのだが…。もしかすると、自分たちは何も起こらない組なのかもしれない。などと、イカロスは考えを巡らせていると、突然、懐中電灯を持っていない、フェアの側の手に、温もりが滑り込んだ。
「フェア?」
いつの間にか横に来ていたフェアが、イカロスの手を握っている。懐中電灯で照らすと、ちらりとイカロスを見て、そっと呟いた。
「池は見るな。お前も見える類だから…」
確かに、右側から水の音が聞こえる。フェアは池に何を見たというのだろう。心なしか、吹き抜ける風も夏の熱気を帯びた風から、ひんやりとした風に変わっている。
「…フェア?」
手を握る力が強い。そして、カタカタと少し震えている。
 フェアの異変を気にしながら、イカロスは最奥へ足を進めた。

「寒い…」
池を過ぎ、もう少しで最奥だというときに、フェアの足が止まった。それどころかしゃがみ込み、寒そうに震えている。
「フェア!大丈夫か…?」
懐中電灯の光の中に浮かび上がったフェアの横顔は、血の気が引いているのか、いつもより白く、緑の瞳もやや虚ろだった。
「俺、一人で蝋燭取ってくるから、フェアはここで休んで…」
「大丈夫…一人は危険だ…」
ふらっと立ち上がるフェア。イカロスは彼を支え、最奥へゆっくりと歩みを進める。
 もうそろそろ、次の組が探索を兼ねて出発する。次の組は確か、クライアウトさんとアウル君だったなとイカロスは考えながら、最奥の蝋燭を取った。
 フェアはますます衰弱しているようで、体は冷え、冷や汗を流している。
「フェア…本当に大丈夫か?休むか?」
「池を過ぎてからだ…早く…」
イカロスは彼を背負い、足早に道を引き返す。
 そして、池にさしかかった。
「…何も見るな、何も聞くな…いいな」
フェアが弱々しい声で呟いた。イカロスはこくりと頷き、うつむき加減で池の前を通る。
『おいで』
『こっちへ』
そんな声が、イカロスの耳に届く。
 背中に感じるフェアの温もりと重みがなければ、気が狂いそうになる。
『こっちへおいで』
「…ノウマク・サマンダ・バザラ ダン・センダマカロ・シャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン…」
弱々しい声で、何か呪文のようなものを唱えているフェア。
 イカロスはその異様な声合戦に泣きそうになりながら、フェアを背負って、池の前を通過した。
 しばらく来た道をたどり、墓地の出入り口付近で、イカロスはようやく息をつく。
「フェア…大丈夫か?」
「ああ、だいぶマシになった」
イカロスの背から、フェアが降りる。まだふらついているようだが、顔色は良くなってはいる。
 良かったと安堵し、イカロスはフェアの手を引いて、墓地の闇から皆が待つ場所へ、足を踏み出した。

 翌日、イカロスは改めて昨晩のことを思い出し、ふと疑問に思った事を口にした。
「なあ、あの呪文は何だったんだ?」
「呪文?」
フェアが首を傾げる。
「ああ、帰り道で池の前を通ったとき、なんたらウンなんたらとか言ってただろ?」
「…いや…?帰り道はほとんど気絶してたが…」
話を聞くと、イカロスに負ぶわれたあと、しばらくしてから、あまりの気分の悪さに気を失ったらしい。
「気がついたのは、お前が大丈夫かと聞いてくる前くらいだな…」
「じゃあ…」
池にさしかかる時に聞いた警告の声や、池の前で唱えられた呪文は一体…。
 イカロスは、初めて背筋がぞわぞわするのを感じたのだった---。














(※作中に出てくる呪文は不動明王の真言ですが、作者は宗教には疎いです)