蒼穹騎士の隠れ家

蒼穹騎士の隠れ家

全力妄想投球場。ロボと戦闘機大好きすぎて、それしか書かない多分。
そんなブログ。
詳細はfirst&aboutで。

Amebaでブログを始めよう!

『シエルーーーーッ!!』
自身の叫び声が響く中、飛び散る真紅の花びら。手に伝わる最期の鼓動。満足げな微笑みを浮かべたまま、彼は、積もりゆく花弁の海に身を沈める…。

「…っ!!」
ライラは王城の中の、自室の床の上で目を覚ました。いつの間にか、ベッドから落ちていたらしい。
「……」
ライラの護衛としてそばにいるシャンが、右目をぱちくりさせていた。落ちたことに驚いた、と顔に出ている。だが、すぐに駆け寄り、ライラを抱き起こした。
「…大丈夫か?」
「うん…」
ライラの浮かない表情に、シャンは溜め息をついて、またかと呟いた。
 三年前のあの日以来、ライラは表向きは明るく振る舞っていたが、心の内では、罪の意識に苛まされていた。世界を守るという使命の元、ライラは仲間の一人・シエルを殺した。彼はその身に邪神を封じ込めた、千年前の人間だったのだ。
「…精霊使の犠牲はなくてはならないものだった。それは分かっているんだろう?」
「…そうだけどっ、でも…!もしあの時、俺がもっと強かったら…シエルを救えたかも、しれないのに…っ」
口元を押さえるも、嗚咽が漏れる。力不足だったがために、大切な仲間を犠牲にしたのだ。
「悔やんでも仕方がないだろう。またエリーザ様に心配されるぞ」
ライラはシャンに背をゆっくりさすられながら、シャンの溜め息混じりの言葉に頷く。胸元で、シエルの形見のペンダントが揺れた。

 ライラは情報収集も兼ねて、王都を歩いていた。つかず離れずの距離でシャンが、ライラの隣には、この国を治める王家の一人娘であり、婚約者であるエリーザが付き添う。
「シャンはいいけど、どうしてエリーザまで…」
「ライラのこと心配なの!」
ライラの手を握りしめるエリーザ。豊かな栗色の髪がふわふわと風に揺れる。
「だって…いなくなっちゃいそうで…」
不安げに見つめられ、ライラは心配ないと首を横に振った。彼女にはシエルの件は一切伝えていないのだが、何かあったというのは悟っているようだった。
「ほら、最近魔物も凶暴化してて…危ないし…」
城に戻った方がいいよ、と言いかけたが、それに被さるように、甲高い悲鳴が響いた。
「!」
その声の方へ、体が勝手に動いていた。シャンとエリーザも追いかけてくる。
「エリーザ、ダメだ!」
「いやっ!ライラと一緒に戦う!」
ライラは困り果て、シャンに視線を送った。エリーザは少々頑固なところがあり、こうなると一歩も引かない。
「姫君。敵はただの魔物ではありません…」
都民たちが走って避難していく。早く行かねば被害が広がってしまう。ライラは押し問答している場合じゃないと考え、エリーザの手を引いて走り出しながら、シャンに指示を出す。
「シャン、俺には構わず、エリーザを守ってくれ。エリーザはシャンから離れるな」
「御意」
猪のような姿の魔物が暴れ回る現場では、国家戦士たちが果敢に攻撃していた。だが、魔物は大半の攻撃を跳ね返し、人間達に襲いかかる。ライラはすぐ近くで倒れている国家戦士を起こし、事情を確認した。
「ローマン殿、敵は強化型です!我々の攻撃が殆ど通用しません…!」
「そうか。動ける国家戦士は負傷者を運べ!手のあいている者は避難している都民の誘導に当たるんだ!」
ライラの一声に、その場にいた国家戦士全員が従う。魔物はライラに気付くと、他の国家戦士は無視してライラに向かって走り出した。
「狙いはやはり俺か」
〈キサマ、ワレラノケイカクニ、フヨウ!マッサツ!〉
ライラは敵の体当たりを軽々とかわし、その隙をついてエリーザが魔物の目に矢を射る。猪のような独特のいななきを上げ、魔物はエリーザへ突進するも、シャンが間合いに入り、シールドを展開した。魔物は派手にシールドに弾かれ、方向転換してライラの方へ駆け出す。
「お前達の計画って何だ!」
牙を剣でへし折り、空中に飛び上がって斬りつける。
〈セカイノヤミ、テニイレル!キサマ、ココデシヌ!〉
「世界の、闇…ぐっ!」
魔物が吐いた炎を間一髪でかわして一気に踏み込み、魔物の突進のスピードを活かして水平に両断した。
〈ミコ、スデニミツケテイル…ジキニ、フッカツスル…〉
不気味な声を響かせて、血生臭い臭いを辺りに撒き散らしながら、魔物は跡形もなく消滅した。ライラは剣についた血を払って、鞘に収める。シャンとエリーザが浮かない顔で、ライラを見つめていた。
「…邪神…」
どこまでも高い青空を見上げる。不気味な風が、空へ駆け抜けていった。