手術の日のこと(1) | 39歳 癌になったママ女医 〜Cancer Gift〜

39歳 癌になったママ女医 〜Cancer Gift〜

消化器内科医 緩和ケア医 2児の母 
39歳で子宮頸癌と診断されました。
それからの経験がどこかで何かの役に立てられればと思い、綴ります。
癌の手術や化学療法などの治療に挑む方。
小さな子どものママで癌を患った方。
医師としての自分、母としての自分に。

いよいよ手術日がやってきた。

 

前日に入院して当日の朝を迎えるまでは手術してみないとわからないよね、なんとかなるさという気持ちでいた。

 

 

ところが、いざ出発ですよと言われ手術室へ向かう時になると異様に緊張してきてしまった。

 

 

 

”この手術で自分の体が変わってしまうんだ”という感覚

 

”お腹を開けてみたら癌が播種してしまっていて、手術で取れない状況が判明してしまうかもしれない”という不安。

 

 

 

この二つが緊張の要因だったと思う。

 

 

病棟からは看護師(Eさん)と夫の3人で向かった。

夫は、病棟から手術室の前まで行く間のほんのわずかな時間のみ付き添いを許されていた。その間、「大丈夫だよ、治してもらっておいで」と必死に言ってくれた。

夫もやや興奮気味で緊張しているようだった。

 

 

道すがら、私も「あーなんでだろう、緊張する」

 

と気休めに言葉に出してみたが、緊張がほぐれるはずもない。

 

 

あっという間に手術室の入り口に着く。

そこで夫と最後に手を握りあいお別れをした。

 

 

いよいよ心細い。

 

 

手術は癌を治してもらうための第一歩であり、先生やスタッフ、みんな私の病気を治すためにやってくれること。

だから、この瞬間を迎えたのはいいことのはず。

 

 

なのに、緊張して仕方がない。

何に怯えているのかわからないくらいだった。

いくら「自分がよくなるためにすることだ」と心で唱えてもダメだった。

 

 

Eさんと共に手術室へ入ると、入口のドアは閉まった。

どこまでも無機質な世界だ。

手術室看護師へ私を引き渡すエリアまできた。

同じ看護師ではあるが、手術室の方は格好がもう 

ザ・手術 という感じ。

 

 

そしてEさんとも離れる時が来た。

奥へ向かう私に向かって、Eさんは両手で拳を作り

 

 

「うまくいくよう祈ってますからー!」

 

と叫んだ。

優しくかつ一生懸命な表情。

 

 

病棟から一緒に来たEさん

その日初めて会う看護師さんなのだ。

それなのに、前からの友人のように心のこもった力のある応援。

 

 

あの姿は一生忘れないと思う。

 

 

いよいよ手術台に乗った。

これがよくいう「まな板の上の鯉」か。

 

 

もはや緊張というのを通り越して呼吸がしづらいような感覚になって来た。

モニター上は呼吸に問題ないらしいが、息を吸っても吸えてないような感じ。

 

 

そこへ担当医の先生がやって来た。

手術台の脇に腰掛けて、私の手を握り

「頑張りましょう」

とにこやかに言って、去っていった。

 

 

ほんの1mmくらいだけ、気が休まった。

だけど、やはり息がしづらい。

どんどん肺が膨らまないような感覚がしていった。

 

 

もはや、早く麻酔で眠らせてくれーー!

 

 

と我慢もギリギリになっていたところで

 

 

眠った。