ぐるっぽでの課題小説、またやらせていただきます。
課題は[また会えたなら]というタイトル縛り、[雨のシーンからスタート]、[計算する]という単語を使う、となっています。
「また会えたなら」
ざぁっと、ひっくり返したように降る雨が、屋根から落ちて滝を作る。
その滝に行く手を阻まれ、私はため息をつかざるを得なかった。
もう12時も過ぎたというのに、こんなにも激しい雨の中、どの店も行列が途切れることはない。
手近なカフェでさえ、店先で不機嫌に待つOLばかりだ。
無駄に肩ばかり濡らしてゆく水滴に、苛立ちだけが積もってゆく。
白いワイシャツが湿気を含み、ぐったりと重い。
透けるのが嫌でわざわざ綿100%のものをいつも着ているけれど、こういう時には半分役に立つ。
狙い通り、よほど濡れない限り透けない。
その代わり、恐ろしく水分を含むし、乾きにくい。
バッグが革製だったおかげで、心配するのは服だけで済んだけれど、皮肉なことにこのバッグは“彼”のプレゼントでもある。
“・・・持ってくるんじゃなかった”
普段使うと約束したけれど、やはり嫌だ。
どんな目的で渡されたにせよ、彼のプレゼントなのだ。
最初は少し硬いようなデザインが嫌だと言ったけれど、プレゼントされたものを心から嫌うはずもない。
それを、こんな形で濡らしてしまうのは、私にはどうしても許せなかった。
“もう少し大切にしたかったのに”
彼の言うことなんて無視して、もしくは聞いたフリをして、クローゼットに保管しておけばよかった。
けれど、もう遅い。
いくら水をはじくとはいっても、もう濡れてしまったという事実が、私には許せなかったのだ。
それをあざ笑うかのように目の前の“滝”は、相変わらず私の肩を濡らす。
勢いの衰えない雨に比例するように、私の不機嫌は溜まりにたまり、もうすぐ悲しさに変わろうとしていた。
と、その時。
まるで計算したかのようなタイミングで、携帯が鳴った。
「・・・ハイもしもし」
平然を装ったつもりが、結局失敗し、鉄板を叩いて延ばしたような声になってしまった。
「あぁ、やっぱり!」
「?」
電波が悪いうえに、雨の音で余計に誰の声か分からなかった。
「前!前っ!!」
そう言われて眉をひそめて前を見てみる。
私と同じように、店先で雨宿りしている人が何人か見える。
その中に携帯を耳に当てたまま、もう片方の腕をこっちにむけて
「・・・・・あ」
振っていたのは“彼”だった。
「今そっち、行くから!」
そう言うと一方的に通話を切り、車の途切れるのを見計らって、鞄を頭に道路を走ってくる。
服装からして、たぶん買い物にでも来てたのであろうその彼は、私の隣に立つ頃にはずぶ濡れに近い状態に様変わりしていた。
それでも何もなかったかのような調子で「アレ?仕事は?」等と言ってくる。
「お昼、どこも空いてなくて。少し遠くまで探してたら、雨降ってきちゃって」
「あー、そっか。俺は買い物」
やっぱり。
「あっ!バッグ使ってくれてる!!」
そう言うと子供のようにうれしそうに彼は笑った。
まるで雨上がりに虹を見つけて喜ぶ子供のように。
「仕事は?」
「今日はもう。お昼食べたら帰ろうと思って」
「あぁそこで降られちゃったのか。どう?一緒に帰んない?」
「い、いいよ。少し買い物してから帰りたいし」
「遠慮しなくてもいいじゃん~」
「いいってば!」
「え~?」
「そのままアパート行くからっ!」
そう言うと、彼は一瞬キョトンとしてから、ニンマリとして「分かった」とだけ言うと、上着を私の肩にかけた。
「じゃー待ってるからー!!」
雨の中そう言いながら走っていく彼に、私は小さく手を振るしかなかった。
本当になんというか、子供っぽい。
彼が見えなくなってしばらくして、そう感想を抱くしかなかった。
肩にかかった上着は内側も少し濡れているし、下手をすれば私が行くころには彼は風邪をひいているかもしれない。
そういったことを微塵も考えず、彼はいつも笑うのだ。
本当はそのまま帰ったほうがむしろよかったのだけれど、なんだか気恥ずかしくて、うじうじといろいろ考えていた自分が馬鹿みたいで、余計に帰りずらかった。
ただ、とっさに彼のアパートに行く約束をしてしまったことに、私は内心、ゆっくりと喜んでいた。
さっきまで悩んでいたことさえ、笑えてしまえそうだった。
安心に似たような感覚のため息をついて、去りそうのない厚い雲を見上げる。
きっともう、今日のようにまた、偶然にも会えるなんてことはないだろう。
だけどもしまたどこかで偶然に会えた時のために、もうこのバッグは肌身離さず持ち歩こうと、こっそり心の中で誓ったのだった。
そしてまた会えたねとバッグを見せる自分を、なんとなく頭の中で思い浮かべ、赤面しつつも少しニヤけてしまった。
雨は、まだまだ止みそうにない。