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♪ニコニコlife そう、そんな日常♪

その日一日のことをつぶやく感じのブログです♪

皆さん、いつでもコメントお待ちしてますよ♪

「こんなとこで」

そうつぶやいて俺は走った。ガラスの割れたドアをくぐって走り出す。

傘だ。傘が使える。

「こんのぉ」

先はプラスチックだけど、刺せるかもしれない。

「もっと近くにいかないと」

父親の背中を追いかけているうちに、なぜだか涙がでてくる。なんで親を追いかけて殺そうとしなきゃいけないのか、俺にはさっぱりわからない。


父さんと母さんに、会いたい。


「弟を放せ!」

俺は傘の先端で、偽者の父親の背中を思い切り突き刺した。涙が止まらず、地面にぽたぽた落ちていく。

「あぁぁあああああ」

背中から血がでている、服ににじんでいく。俺は容赦なく、傘をぐりぐりと差し込んでいく。手は震えて仕方なかった。

転がった弟は頭を打ったのに、幼い泣き声をあげもせず俺に寄ってきた。

俺はすぐさま弟を抱えて逃げ出した。後ろを振り返ると、どす黒い目を大きく開いて顔を上げる偽者の父親が見える。焦りが手にでて、手汗は尋常ではなかった。

背負ったおもちゃの入ったバックがガチャガチャ音を立てている。俺は食品売り場に走りこんだ。

目に入った油を右手で掴む。

「待てぇ待てぇ」

走り方もおかしいそいつは、だんだんと近づいていた。

「お兄ちゃん、何とってるの」

俺の右腕を見ながら弟がつぶやく。弟を持つ左腕がつらい、重たい。

「しょうた!そこのライター掴め!」

レジに突っ込む俺は、弟に叫んだ。弟はうなづいて、レジの左側にあるライターを一瞬で掴んだ。

息があがってきた。もうすぐそこまで「あいつ」が来ている。心臓が爆発しそうだった。

そうすると、俺は油の瓶の口を弟にあけさせた。油の瓶を手の前で傾ける。とぽとぽと音を立てながら油が床に流れ出ていく。

べしゃん。

後ろで何かに足を滑らせた音が聞こえた。

「よし」

そいつは油で足を滑らせた、狙い通り。ばたばたと足や手を動かしているが、一向に起き上がれそうにない。ここぞとばかりにトイレに逃げ込もうと考えた俺の視界に、トイレに入る寸前、何かと目が合った。

少し戸惑ったが、すぐにしまったと思った。

余裕は消え、俺はトイレにすぐさま入り込んで鍵を閉めた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

汗と息がやばい。

「お兄ちゃんどうして」

「静かにっ。口を閉じとけ、絶対」

弟はびっくりした顔をしたが、察したのか静かにしてくれた。見た目は子供でも、中身は賢い大人な面がある。昔の弟もこうだったのか、そう思えてくる。

息を殺して、トイレのドアの隙間から外を見る。

「どぉ~こぉかなぁ」

トイレに入る寸前に見えた顔が、隙間から見え隠れする。

母だ。入る寸前に遠くで笑っていたのが見えて助かった、母さんはあんな気持ち悪いにやけ方はしない。どうやってここから抜けるのかを考えるのでいっぱいいっぱいっだ。

偽者がくる。

背にあるバックの中のおもちゃに使えそうなものはないか見て考えたいが、音を立てれば見つかる。

弟がライターを握り締めたまま、じっとしていた。

「なぁんちゃってぇ」

バンッ!!!

「なっ!!!」

隙間から見えていた顔が、突然突っ込んできたのにびっくりして声を上げてしまった。俺が入っているトイレのドアにいきなり張り付いてきた。にやけた顔がほんの数センチ先にある。

なぜわかった、と心底思った。また心臓が高鳴る。

「どうやったらあくかなぁこのドアぁ」

ドアをガチャガチャと激しく揺らし始めた。

「くそ・・・」

俺は狭いスペースでできるだけ後ろに下がり、急いでバックをさぐりだしたその時だった。

ギギギギギギィ!!!!!!!

大きなナイフのようなものがドアの隙間から突き出してきた。恐怖が押し寄せる。

「さがってなかったら、死んでたのか」

自然と足が震え始めた。

すると、弟がおいた油の瓶を持って上へ投げた。

「おいしょうた・・・っ」

天井に当たった瓶は砕け散った。油がドアの向こう一面に飛び散っていく。

「なぁにぃこれぇ」

もう隙間から外を見る勇気はなかった。声からして油が体にかかっているらしい。

「・・・そうか」

俺はすぐさまおもちゃのバックからルービックキューブを取り出した。そして次の瞬間、俺は思い切ってドアを開けて飛び出す。油まみれ「そいつ」はドアに突き飛ばされて倒れこんだ。

「でてきたぁ」

そう言いながら立ち上がろうとする。後ろを見ると、鏡に映ったそいつの目は真っ黒だった。

カチッと音を立てて、右手にあったものを投げ入れる。

次の瞬間、地面から音を立てて炎が広がっていく。油のこげるにおいが一気に鼻を突いてきた。

「あぁぁぁあああああぁあぁ」

炎の向こう側で、叫び声があがっている。炎と共に、皮膚の焼ける匂いも巻き散っていた。

「ベタに焼け焦げろ」

そう言い放って俺は弟を抱き上げてトイレから逃げた。後ろから聞こえる叫び声が痛く、俺は泣かずにはいられなかった。


逃げ終えて、俺は服屋にいた。相変わらず、客も店員もこちらには見向きもしない。服と服の間に体を入れて、隠れていた。

「お兄ちゃん泣かないで」

弟にそういわれて何度も涙を止めようと思ったが、無理だった。偽者とわかっていても、仮にも見た目は母さんで。心は素直に、母さんを殺したような気持ちでいっぱいだった。

「母さん、母さん」

そう連呼しながら泣くしかなかった。姿が親でなければこんなに泣きはしないし、悔しさもないのに。Tシャツが涙でびしょびしょだった。

「見た目は父さんと母さんそっくりの、偽者の両親から・・・しょうたを守らなきゃ。でもどうやって見分ければいい・・・。いっそ父さんと母さんを見ても逃げれるしかないか。どうにか本物と偽者を見分けなきゃ始まんねぇ」

鼻声でそうつぶやいたとき、ふと思いつくことがあった。

話を少し戻す。

俺は弟が偽父に取られて殴られたときのことを思い出した。ガラスドアの向こうの父さんに似た偽者の父さん。目が真っ黒の偽者の父さん。

「待てよ」

俺はあたりを見回して、それを探した。

「ガラス越しの偽の父さんは目が真っ黒だった・・・。ってことは」

弟はきょとんとした顔でこちらを見つめていた。

「ずっとガラス越しに見て入ればいいんだ」

俺は店の中にあった眼鏡を手に取った。

「あの時ガラス越しの偽の父さんは目が真っ黒だった。俺が常にガラス越しに見ていれば、常に偽者と本物を区別できる・・・」

謎を解いたようで、少しテンションがあがった自分が馬鹿らしかったが、これはかなり役に立つ。

俺はゆっくりと眼鏡をかけてあたりを見回した。

しかしその瞬間、俺はまたゆっくりとひざまずいた。

ゆっくりと、ゆっくりと。

「どうしたのお兄ちゃん」

「・・・。」

弟の声もかすれてしまって耳には入ってこなかった。言いようのない苛立ちと、新しい恐怖感が体を支配し始めた。

体が震える。

店員、客、係員。

「みんな目が真っ黒じゃねぇか・・・」

服を手にとって見ている女性も、レジを売っている店員も、廊下を掃除するおばさんも、皆の目が偽の父さんや母さんと同じく、白目のない真っ黒な目をしていた。目がつぶれている。


おかしい。この世界はもう何もかもおかしい、そう思った。


「だから・・・なんだ」

そう言い聞かせて、まず汚れた服を着替えることにした。ものをとっても追いかけてくるやつがいないことに慣れた俺は、盗みの意識なんてすっ飛んでいた。というより、考える余裕はもとよりなかったのだけれど。

店にある使えそうな服を片っ端から手にとって行く。

案の定、店員も客も全く見向きもしない。ただ普段と違うのは、目が黒くつぶれていることだけ。

「こ・・・ふくぅ・・・い・・・ね」

この服いいね、と言っているのだろう、なぜか想像できる。今まで気づかなかったが、ここにいる人間たちの声は少しおかしい。何故かこもったような声で皆会話している。気味が悪い。眼鏡をしていると、常にあたりに目のつぶれたお化けがいるようなものだ。

「ごめんだよこんなの」

弟の手を掴んで、一応試着室で着替えることにした。どうやら一番手前の試着室しか開いていないらしい、そこだけドアノブが青印だ。

試着室を目の前にして、弟がすっと足を止めた。

「ど、どうした早く入るぞ」

はやくこの場から立ち去りたい一心な俺は、とても早口だ。

「いやだ入らない」

「こういう時だけ子供っぽいのか」

そういって試着室のドアを開けたその時だった。

「おぉ・・・うれ・・・わぁうぉ・・・れぇおぅれぇわ・・・うぉ」

不気味な声の元は、試着室の中にいた気色の悪いものの大群の声だった。

「う・・・うわぁぁああ!!!」

俺はその場に派手に尻餅をついた。

「・・・れぇわぁおぅ・・・れぇおうれぇ・・・」

体の震えが止まることを知らない。試着室の中は真っ黒で、中には何百人もの「俺」が気持ち悪い声をあげながら裸でこっちに出ようとしてきていた。髪の長さもバラバラ、体も決して綺麗ではなく、汚れている。手がないものや足のないやつまでいる。あまりの気持ち悪さに、吐き気まで押し寄せてきた。

「なんだよこれ・・・っ!くっそ・・・っ」

俺は勢いよくドアを閉め、弟を抱きかかえてその場から逃げ出した。

すると弟が口を開いた。

「さっき偽者のお父さんが、駐車場に車があるっていってたね」

そうか、そうだった。駐車場に車があるからそれで帰る、そう言っていた。

「よし、それで逃げよう。いや、鍵がない」

「さっき落としてた」

弟がポケットからゆっくりと黒い鍵を取り出した。

「まじかよ・・・よし。俺の家の車なら・・・」

ナンバーはわかる。違うかもしれないけど、見た目がわかればなんとかなる。俺はようやく走るのをやめて歩き始めた。

「鍵も俺の家の車の鍵と同じ。よし、逃げれる・・・。父さん母さんごめん、俺はしょうたを連れてここから逃げるよ」

俺は弟を抱きかかえたまま、駐車場へとまた走り出した。