※これは、おちびの夢を基にした短編小説です。登場する人物などは、現実に一切関係ありません。
「あぁ~・・・疲れた」
バックを方から下げ、部屋に放り投げた。
「ゆうき。あんた、飲んだんじゃなかろうね?」
母さんが腕を組んで俺に言ってきた。今日は花見で、バイトの先輩たちと集まっていたのだ。時計の針は、もう1時を刺している。
「しょうたは?もう寝た?」
「明日部活なんじゃけぇもう寝とるよね」
俺はゆっくりとリビングに向かった。
風呂から出た。もう春だから、裸で風呂場からでても寒くない。冷蔵庫を開ける。
「牛乳きれてんじゃねぇか」
とは言いつつ、いつも飲んでいるわけではない。リビングのソファーにかけてある着替えを拾い上げ、着る。
もういつの間にか、父さんも母さんも寝ていた。
部屋に戻るとき、ふと廊下の壁の写真が目に留まった。それはだいぶ前の写真。小さな俺と弟、そして父さんと母さんが公園で一緒に絵を書いてる写真。
「俺、小さっ」
部屋に入ってすぐに、電気を消した。
気づいたら、俺は大きなデパートにいた。
家の近くにあるデパートに少し似ていて、デパートと駐車場が離れている構造になってるらしい。あたりを見回して、すぐにそれくらいわかった。
「お兄ちゃん」
そう呼ばれて振り返ると、弟がいた。
俺は驚いた。
普通に弟が後ろにいたのなら驚きはしないが、弟は完全に幼い。
今、弟は俺のことを「兄貴」と呼んでいるのに。後々になって考えると、弟がまだ小さかったときは確かに俺のことをまだ「お兄ちゃん」と呼んでいたっけ。
「お兄ちゃんおもちゃ買って」
そう言われたので財布を服から探そうとすると、でてきたのは携帯。でも、これも今の携帯ではなく1つ前の携帯。青の開くタイプの携帯。
「お父さんが買ってあげよう」
気づけば父親が横にいた。ニコニコして。
すると弟はゆっくりと父親を指差した。
「お兄ちゃん、それお父さんじゃない」
「え?」
するとその父親は、笑顔をすぐやめて弟に襲い掛かかった。
俺は弟をすぐさま抱きかかえてショッピングモールを駆け出した。
だいぶ息が切れてきた。俺はゆっくりと弟を床におろす。
「なんだったんだ一体・・・お父さんじゃないってどういうことだ」
「あれはね、違うの。おとうさんじゃないの」
弟は俺を見上げてそう言うけど、俺にはさっぱりわからない。
ここでふと思った。
俺も小さいのか?弟がこんなに小さいなら・・・
「はっ・・・ッ!!!」
俺はバッと窓ガラスを見た。
「・・・なんだ、よかった・・・」
ガラスに映った俺はちゃんと大学2年生の俺だった。
でも、映ったのは「俺」だけじゃなくて。ガラスには弟を抱き上げようとするお母さん。目が、黒い。
「ゲットぉ~・・・。」
「・・・!!!しまった・・・ッ」
気づくのが遅かった。冷や汗が流れ出る。そのお母さんは弟を抱きかかえてすぐさま走り始めた。
偽者は父さんだけじゃない。
俺もすぐさま走り始めた。走る後ろ姿も、髪も、母さんそっくりなのに。
「はぁ・・・はぁ」
全然追いつけない。
おかしなことにショッピングモールの客たちは俺たちに振り向きもしない。走り回るやつがいたらおかしな目で見てくるはずなのに。
ふと、花瓶が目に止まった。俺はがっしりと花瓶をつかんで、思い切り女に投げつけた。
「ぐえぇ・・・」
声を上げて女が倒れこんだ。
「今のうちに」
急いで、転がった弟を抱いて走ろうと立ち上がる。弟だけはなんとしても守らなきゃ、その義務感が心を駆け巡っていた。
「私の・・・私のよ」
どういう意味だこの女。
すると女は俺の足を右手で掴み、離さない。足が痛い。動けない。
「ぎゃぁぁぁぁあああ」
「・・・?」
女は突然、俺の足から手を引いた。目をおろすと、弟が女の手に噛み付いている。
離れた女の手を振り切り、俺はまた弟を抱えて走った。
走りこんだ先のおもちゃコーナー。ガラス張りのその端で、弟と身を潜めて色々と考えた。おもちゃコーナーのおもちゃで使えるもの、刺せる物や鈍器になりそうなものを、片っ端からおもちゃの袋につめながら。
疲れなんてなかった。今のところ、「本物の親」を見ていない。小さな弟がいるなら、小さな「俺」がいるとも限らない。もしいたとすれば、その小さな俺も探さないといけない。
「小さな俺も、いるのかな」
知らないとわかっていても、俺はおもちゃで遊ぶ弟に聞いてみた。
「いないよ」
すぐ、弟は返事をくれた。自信に満ちた声で。
「なんでわかるんだ?」
弟は手を止めて、俺を見上げてきた。
「だってお兄ちゃんは1人だけだもん」
「・・・そっか」
父親のほうは見ていなかったが、ガラスに映った偽母のほうは目が真っ黒だった。おそらくは偽父も黒かったんだろう。
「偽者は目が黒いってことか・・・しょうた、怖くないか?」
「お兄ちゃんがいるもん」
守らなきゃいけない。あんな怪物みたいな偽親に、弟なんて渡しゃしない。普通の大学生でひ弱なのはわかってるけど、やるしかない。
カチャと音がして、俺はそれを見つけた。
「携帯?」
それは紛れもなく弟の携帯だった。
「あ、僕のポケットにあったやつだ」
弟がそう言った。無論、この頃の弟は携帯なんて持っていなかった。この携帯は、そろそろ高3になる弟が持っているものだ。ややこしいが。
「・・・そうだ」
俺は、携帯のメールを開いた。画面に文字を打ち込んでいく。弟はそれをじっと見つめていた。
「こうすれば・・・よし。しょうた?あの怪物・・・いや、偽者の父さんと母さんにつかまって俺が偽者だとわかっていなかったら、このボタンを押すんだ、いいな?後姿だけじゃ、本物か偽者かわからない時もあるかもしんねぇ」
メールには、「そいつは偽者」とだけ打った。
「うん、わかった」
弟のポケットに、その携帯を入れた。声が出せず偽者に捕まったとき、俺がもしそれが偽者だと認知できていないときに役に立つ。弟には、何故か見ただけで本物と偽者の判断がつくらしい。偽父に襲われたとき、弟はとっさに偽者と見抜いたんだ。
周りを見つつ、俺は弟に話しかけた。
「本物はどこにいったんだ?ここでじっとしていてもあれだ、どうにかここから逃げて父さんと母さん見つけないと・・・そうだ、車できたのか?ここに」
見れば弟は寝ていた。すーすーと寝息を立てて、それがすごく可愛かった。
「ったく、のんきに寝たか」
指でほっぺたをすりすりした。
「よかったここにいたのか・・・」
俺はすぐさま顔を上げた。横のガラスに、コンと頭をぶつけてしまった。
「父・・・さん?」
父さんがゆっくりとおもちゃ売り場に入ってくる。手を差し伸べて色々言っているが、俺は弟を抱いて立ち上がった。
「貴様・・・なんのつもりだ」
手に力が入る。どっちだ、偽者か本物か。
「ど、どうしたんだゆうき。身構えて・・・ほら車で帰るぞ」
「どっちだ・・・本物か、偽者か・・・ッ!まぁ聞いても無駄だろうがな」
そうだ目を見ろ。偽者は目に白い部分はない、真っ黒なはずだ。
「・・・白が、ある」
「何を言ってるんだお前は」
父さんがゆっくりと近づいてくる。目は普通で、黒くない。
「本物・・・か」
肩の力がゆっくりと抜けていく。終わった。
「ほら行くぞ。しょうた、寝てるのか」
父さんがゆっくりと弟を抱き上げる。
「ったくまじ勘弁だよここ。早く帰ろうぜ・・・ってか、母さんはどこ行ったんだ?」
ゆっくりと、なぜかガラスに目がいった。弟を抱く父さんと抱かれる弟。
ドスッ
「!?!?」
ガラスを向いたまま、俺の腹に激痛が走って倒れこんでいく。ガラスに映った父さんの目は、真っ黒。
「そういうことかクソッ」
腹を押さえながら、なんとか踏みとどまった。殴られたらしいが、そんなことはすぐに頭から消し飛んでいた。
現実では目は普通なんだ。
ガラスや鏡に映った時だけ、目が黒く映るだけ。気づくのが遅かった。最初にあった偽父は顔を見てない、そして偽母はガラスに映ったときにしか顔を見ていない。まさか映らなければ目が黒くならないとは想像もしていなかった。
ガラスのドア越しに、偽父が弟を抱えてこっちを見た。どす黒い目が、こっちを見て去っていく。
「しょう・・・た」
花瓶をガラスに投げつけ、大きな音を立ててガラスは砕け散った。
それでも、客も店員もぴくりとも動かなかった。
第2話へ続く。