「間に合うかな。」
俺は携帯の時計を気にしていた。
「今日、カラオケだっけ?」
「あぁ。友達と前行く約束してさ。お前に言ったっけ?」
「前食堂で聞いたよ。久しぶりだって言ってたじゃん。」
「そうだっけ?」
「でも気をつけたほうがいいよ?さっきの小テストで点悪かったら居残りっぽいから。」
「おいおいマジかよ・・・。」
もうどうにもならんではないか。そう感じるばかりである。居残りしなければならない人は、講義の最後に黒板に学籍番号が書かれる。
この物理学の講義中は、ペンを動かしはするけどほとんどは高校の復習。だから友達とも少し話しに花が咲いてしまうのだ。パソコンがそろそろ直るだとか、新しいiPodが欲しいだとか。
「そろそろ書かれるんじゃない?居残り。」
「お・・・おう。」
黒板に書かれていく学籍番号は、俺の番号を過ぎていった。
俺は急ぎ足で駅に向かう。うまくいけば、予定より一本はやい電車に乗れるかもしれない。
「あっつ。」
急いで歩いているのだ。無理もなかった。
駅から大学の間にあるたい焼き屋さんがいつも気になってしまう。たい焼きのなんともいえない甘い匂いが俺のからっぽのお腹を刺激するからだ。でも今財布の中もお腹が減っていることだろう。からっぽだ。
「我慢、我慢・・・」
電車には間に合った。汗は、すごかったけれど。
一体何曲歌っただろうか。2人で4時間。単純計算で一人2時間歌いっぱなし、ということになる。今考えればかなりハードだな、と思う。どうりで喉に激痛が走るわけだった。
その友達とのカラオケは久しぶりで楽しかった。行きに買った梅のサイダーがすごく美味しかった、といってしまえば俺は何をしにいったんだと言われてしまうかな。
友達と別れてから、俺は自転車をこぐスピードが少し遅くなっていたと思う。
雨の予報だったのに、雨は降らなかった。傘を持っていかなかった。よかった。
こんなことばかり、一人だと考えてしまう。暇なのか。たぶんそうだ。
昼ごはんをあまり食べていないからお腹が減っているのに、自転車のスピードは上がることなく家の近くまで来てしまった。
自転車を、ふと止めてしまった。
「・・・すげぇ。」
空が燃えているようだった。
雲のうろこ、ひとつひとつに丁寧な色が付いている。絵で描いたような色が、空の一部にキャンパスを作り上げていた。しばらく俺は、空から目が離せなかった。
「あいつに、見せてやりてぇな。」
俺は自転車を、ゆっくりとマンションの中へと進めた。
