「あら、今日も朝ごはん食べて行かんのん?」
俺は靴のかかとを指で広げる。人差し指が少し痛い。
「あぁ。腹、減ってねぇし。」
「そう。いってらっしゃい。」
ばこっ・・・。
足がやっと靴に入った。靴べらを使うのは、昔から面倒だ。指でやる。
「いってきます。」
シャー・・・。
朝なだけにまだ肌寒い。自転車に乗っていると風が直にあたる。
もう体が覚えてしまっている道を、ただただ自転車で進んでいく。
「さみぃ・・・」
今日は友達と途中の駅まで行く予定だった。遅刻はしていられない。
自然と、自転車のスピードは上がっていった。
「はいどうもぉ~」
「あ・・・どうも。」
駐輪場のおじちゃんと、毎日こうやって挨拶をする。優しい声で挨拶される。
駐輪場の、俺は二階に止めることになっている。押して上がるのだ。「男の子だから、いいよね?」と言われて二階になった。まぁ断る理由も無いのだが・・・。1ヶ月たってみると、以外に朝二階まで自転車を押して上がるのは辛いってことに気がついた。
「・・・しんど。」
「あ・・・」
「・・・ん?」
二階に先にいたのは、友達だった。
ホームに来てみると、電車が遅れていた。10分程度だ。友達は十分講義には間に合うし、余裕がある。
だけど俺は地味に時間が危なかった。大学に講義が始まる5分くらい前について宿題を終わらせるつもりだったのに・・・これじゃ講義に間に合うかすらギリギリのラインだった。
「まじかよ・・・」
「まぁよくあることだから。」
友達はけろっとした顔で言う。
「ったく誰が・・・」
でも悔やめなかった。駅の放送を聴く限り、なんでも車両に乗っていた病気の人が原因らしい。
「・・・」
「そういうことかぁ。」
「じゃあしょうがない!俺が大学の講義遅れたほうがえぇわ。」
俺はバインダーの中の宿題を取り出した。
「お、いたいた。」
「おう。こっちこっち。」
教室は、もうほとんどの席が埋まっていた。無理も無い。講義が始まる時間ギリギリだ。皆、もう教材も出し終わっているみたいだった。ま、教材出さずに携帯いじってるヤツもいるわけだが。
「今日は遅かったね。電車、遅れたの?」
「あぁ。二線ともね。ダブルパンチって訳よ。」
「だからか。」
友達はうなずいてくれた。
「んでさ・・・」
「ん?」
「宿題・・・見せて?」
講義が終わるなり、皆いっせいに散らばる。食堂の席が心配なのだ。急げ急げと、少しざわめき始める。
「どうする?」
「今から食堂行っても席空いてなさそうだし。俺は図書館に行くよ。」
「そっか。じゃあ俺はそのまま帰るな。」
「いいねぇ~この後に講義が無い人は。」
「まぁそう言うなって。」
「じゃあな。」
友達に、俺は手を振り返した。
「はぁ・・・。」
駅までの道は、地味に遠い。歩いてざっと15分はかかる。携帯をいじり、音楽を聴こうとイヤホンを右手でバックからだそうとする。
「あ・・・。」
ふと空が目に入った。
気づけば、空には雲がひとつもなかった。
バケツに入っていた真っ青な絵の具をこぼしたような、透き通った色。どこまでも続く青。
「・・・。帰るか。」
イヤホンを探していた右手は、いつの間にか空に向いていた。
俺はまた足を前に出しす。
足取りは、さっきよりも軽かった。
