9月の模試は必ず受けてください。


首都圏には中学受験生向けの模擬試験が大きく4つ。中学受験生首都圏四大模試が存在しています。それぞれに主催会社の特徴が反映された模試になっていて、二月の勝者の黒木先生のおっしゃる通り、使い分けが必要になって来ます。

中学受験生首都圏四大模試


作者の高瀬氏の取材力の高さが光る一コマです。

渋谷大崎合格不合格判定テスト
四谷大塚合不合判定テスト

毎日研の全国統一模試
日能研の合格力シリーズの模試

帝都模試センターの帝都圏模試
首都圏模試センターの合判模試

フェニックスオープン
サピックスオープン

といった読み替えをすればだいたい実際と一致します。ちなみに全国統一小学生テストを彷彿とさせる毎日研の全国統一模試ですが、実際に全国統一小学生テストを運営しているのは四谷大塚です。

首都圏の塾事情

首都圏の中学受験塾は1954年開校の歴史を持つ四谷大塚大塚とほぼ同時期の1953年開校の老舗、日能研の2頭体制で進んできました。

塾の歴史という主題はおもしろそうなので別の記事で扱おうと思いますが、1970年になると塾ブームが到来、それに伴い徐々に熱を帯び始めた中学受験を追い風にこの2塾は躍進していきます。サピックスの前身であるTAP進学塾も塾ブームを背景に産声をあげます。ただ、この塾ブームは学習塾の乱立を招き、有象無象のベンチャー起業家達が「塾を開けば儲かる」と次々に塾ができました。1975年に早稲田アカデミーが設立されますが、当時は高校受験塾で、中学受験は扱っていませんでした。

1980年に入ると公立中学校の荒廃(校内暴力、落ちこぼれ問題など)を心配した富裕層が本格的に中学受験をするようになります。ラ・サール石井さんの世代ですね。こうした流れを追い風に、日能研は巨大化、独自路線化してゆき、四谷大塚はシステムの公開と提携塾の拡大の路線に進みます。1979年に不透明な経営を続けるTAPの経営陣と対立を深めた講師陣が独立する格好でサピックスが受験界と華々しく登場します。独立初年度から開成中46名合格ですからね。サピックスは前身のTAP時代から「四谷大塚のカリキュラムより早いカリキュラム」で「四谷大塚のテストで有利になる」を売りに優秀生を集める手法で台頭してきた塾です。優秀な講師陣がTAPから抜け、その講師陣を追って優秀な生徒たちがサピックスに移った結果、50名以上の開成中合格者を出していたTAPの合格実績が一桁台に激減。その後は凋落していき、サピックスに継承されているハイスピードカリキュラムに見合う優秀生が集められずに業界から消えていきました。(紆余曲折ののち栄光ゼミナールに吸収)

TAPや山田義塾もそうですが、この時代は儲かってくると利益を職員に還元せずに不動産投資に回したり、会社名義で借金をして不動産投資、といったことをする経営者と講師陣が対立するという形で消えていった塾は枚挙に暇がありません。

1980年代後半から1990年代には、塾ブームによって高校入試分野で力をつけてきた学習塾が中学受験分野に参入し始めます。早稲田アカデミーが中学受験に参入したのもこの時期です。これら中学受験分野新規参入組の学習塾が「安心して受けさせられる模擬試験」を作るためにお金を出し合って設立したのが首都圏模試センターです。首都圏模試センターが設立される前は中学受験の模試は四谷大塚かサピックスか日能研のいずれかの学習塾主催の模試に自塾の生徒を送らねばならず、同時開催される保護者会に参加した保護者が転塾を決めてしまうということが多々あったようです。



模擬試験の使い分け

二月の勝者の作者、高瀬さんはよく調べてますね。

首都圏の塾の開校、設立の経緯が模擬試験にも多分に影響を与えていますので、模試は使い分けが必須です。同じ偏差値50の意味や価値が模試によって変わります。


●四谷大塚合不合判定テスト

システムの公開で提携塾を多く集めてきた経緯から首都圏の受験生にとっては基準となる模試です。データも豊富なので、志望校を決める際の目安偏差値は四谷大塚の偏差値を基準に考えるというのが一般的です。


●日能研の模試

日能研で実施されている合格力〇〇テストなどの模試ですが、色合いは「塾生向けの模試を一般にも公開している」という色が強いです。そもそも首都圏の中学受験塾は四谷大塚と提携したり、四谷大塚のカリキュラムに自塾の進度を合わせたりする塾が多いです。合不合判定テストや組分けテストを利用するためには四谷大塚の縛りを受けざるを得ないという実情です。

ところが日能研は中学受験塾最大手ですから独自路線を行きます。カリキュラムは四谷大塚より遅めです。言い換えれば、四谷大塚のスピードに合わない子は日能研でゆっくり学ぶことができます。

日能研の模試偏差値に0.95をかけるとおおよそ四谷大塚の偏差値に換算できます。


●サピックスオープン

超ハイレベル模試です。四谷大塚準拠塾の塾生は四谷大塚のテストで偏差値60以上を取れていないと受けても意味がないと思います。また、受けたとしても素人が安易に「模試の解き直し」を指示してはいけない模試でもあります。難問揃いなので四谷大塚の偏差値60を越えていない子は試験時間中、無力感に苛まれ続けほとんど白紙ということも珍しくありません。時間のムダです。


という試験なんで、大学受験生が駿台模試を受けるのとは次元が三段階ぐらい違います。お父さんが大学受験のときの経験則から、ものは試しにとサピックスオープンを受けさせたがる例が毎年発生します。私の子供ではないので、止めることはできませんが、それで失速する子は多いですし、再浮上もしないケースが多いです。個人的な感想ですが「数年間でそこそこの新車を買えるぐらいの費用をかけておいて、気まぐれと思い込みで、かけたお金を溝に捨てるなんて馬鹿だな、せっかく偏差値58まできているに」と思う場面です。サピックスオープンを受ける学力層は四谷大塚で偏差値60を超えていること、志望校が御三家またはそれに準じる超難関校であることの2つを満たしている場合です。桜花ゼミナールの最上位クラスであるΩクラスに在籍している生徒でも難関校を受験しないのであればフェニックスオープンは受験しません。

サピックスオープンの偏差値に1.15をかけるとおおよその四谷大塚の偏差値に換算できます。サピックスオープンの偏差値50の子は四谷大塚で57という計算です。ただ、出題の仕方が難しい問題が多いので四谷大塚で57の子は偏差値50は取れないでしょう。解けなすぎて諦めてしまうとすぐに偏差値30台に突入します。


●首都圏模試センターの合格判定模試

原則は中学受験のライトユーザー向けの位置づけの模試です。中学受験参入後発組の高校受験塾が複数出資してできている会社の模試なのでサピックス生はまず受けません。四谷大塚提携塾の生徒も早稲アカ生以外はほとんど受けないでしょう。早稲アカは四谷大塚最大規模の提携塾ですが、首都圏模試センターにも出資をしていますので、塾側から案内が配られます。

一見、「中堅高狙いの生徒向けの模試か」と思っていまいますが、なかなか良い問題が出題されます。基本事項が抜けていると上位の子でも足元をすくわれるので、既習事項の確認に最適です。

私は夏に過去問をやるよりは合判模試の過去問をやったほうが効果は高いと思います。

合判模試の偏差値に0.85をかけるとおおよその四谷大塚偏差値に換算できます。