欧州選手権でスペイン代表は無事にグループリーグを1位通過しましたが、本国ではデル・ボスケ監督の采配に批判が集まっています。主な批判は以下のようなもの。

・フォワードを置かない布陣
・ダブルボランチの採用
・トーレスの重用とペドロ、ネグレードの不起用


スペイン代表は以下のように2勝1分けで首位通過を果たしています。

第1戦  スペイン 1-1 イタリア
第2戦  スペイン 4-0 アイルランド
第3戦 クロアチア 0-1 スペイン


2戦目のアイルランド戦が大量4得点での勝利ということもあって一時は今後に楽観的な見方も出ましたが、クロアチア戦は初戦と同様に苦戦し終盤に何とか勝利をもぎ取った展開だったので批判が再び出ているという状況です。

スペイン代表に向けられている批判が的を得ているかどうかはともかく、批判がでる背景には他国を圧倒するスペインの選手層があります。多くの国民が「こんなに戦力で上回っているのに何を手こずっているのだ」と感じているのでしょう。

前回、触れたようにデル・ボスケ監督は今季のバルセロナの戦法をスペイン代表に応用させようとしているようです。


ただバルセロナのプレーモデルが未完成だったことや、代表チームではメッシがおらずバルセロナ以外の選手も加わるため必然的に実際のパフォーマンスの質はバルセロナよりも落ちることになります。

最終ラインはキーパーを含めた5選手の内、バルセロナ所属はピケのみ。このため、イタリア戦のように激しいプレスを掛けられた場合の後方からの攻め上がりの質はバルセロナよりも落ちます。

中盤はチャビ、ブスケッツ、イニエスタとバルセロナ所属選手が多く、これがスペイン代表のボール保持率の根幹をなしています。ここではチャビ・アロンソ(レアル・マドリード)も遜色ないプレーを見せていますが、議論の焦点は守備的MFのブスケッツとアロンソを同時起用する必要があるのか?という点。高いボール保持率で試合を支配しているのだから、その分、攻撃的MFやフォワードに人員を割いたら良いではないかという考えです。

また、攻撃面でブスケッツはパスミスも多く足を引っ張っているように見える場面もありますが、相手チームにとって数少ない活路となるセットプレーでの守備では小柄な選手が多いスペイン代表の中で持ち前の体躯を生かし貢献しており、このあたりが監督に評価されているのかと思わせます。

イニエスタを中盤の選手とカウントしましたが実際には中盤と前線を行き来しており、ここにシルバとトーレス(もしくはセスク)を絡めるのが監督の基本構想のようです。

ここ3試合のスペインはバルセロナ流の中央突破を軸にしていますが、それが通じないとナバスを右サイドに投入しサイドを使う戦法に切り替えています。試合を見ていて違和感を感じるのは、ナバスは仲間とのコンビネーションを使わずにスピードで単独突破するタイプなので、パス回しによりボール保持率を高めているスペイン代表の中では非効率なプレーを選択することが多く、また仮に彼の狙い通りに縦に突破できてもゴール前にフォワードがおらずチャンスが潰れる場面が多いように思えます。

一方でスペインが採用しているバルセロナ流の中央突破にも可能性はあります。バルセロナもそうでしたが相手の守備のレベルが僅かに落ちる場合は大量得点コースになり、事実スペインもアイルランド戦では4ゴールを決めています。これはスペインのプレーが良かったというよりも、対戦相手のレベルに左右された結果ではないでしょうか。

高いボール保持率を実現できるチームにとって、次の課題はそのアドバンテージに見合った数の決定機を生み出せるかということですが、この点で今大会のスペイン代表は「ベストな戦い方」を選択できていないように見えます。そのため、(他国から見れば多いですが)少ない決定機でのシュートミスは自らの首を絞めることになります。クロアチア戦はカシージャスのファインセーブがなければ0-2で敗れていた可能性もありましたが、準々決勝以降でもスペインは同じように苦しむのではないでしょうか。