スペインサッカー 監督と練習法


今回は練習を組む上で私が気を付けている「時間の流れ」について。

サッカーチームを指導する場合、担当しているチームのレベルや状況に合わせ練習メニューを用意することが一番重要な作業だと思われがちですが、それと同等に重要なことがあります。それは練習を指揮しているコーチが「時間の流れを正しく把握できているかどうか」ということ。

スペインでは20~25人の選手を1~2人のコーチが受け持って指導するわけですが、1回の練習時間が1時間半、週に3回の練習が普通なので週末の試合に向けてその条件の中で円滑に練習を行う必要があります。

外からあるチームの練習を見ていて練習の流れが遅いと感じる時がありますが、この時、コーチの脳はトレーニングを指揮するためにフル稼働しているので「体感時間」が速い状態にあります。要するに自分で感じているスピードよりも実際のトレーニングの流れは遅いという状態です。ただこれは自分で気づくのは意外と難しくその事実に気付かないうちは改善が難しい要素でもあります。

コーチの「体感時間」と実際の時間の流れに差があると、どういう現象が起きるのでしょうか。

そういう状態になると実際に指導を受けている選手はトレーニングの流れを遅く感じ、またコーチの指示、修正が均等に行き渡っていないという印象を持つでしょう。そのようなトレーニングでは仮に練習の事前設定が良かったとしても結果として消化不良のトレーニングになります。一定のレベル以上になると選手はコーチを品定めする基準を持つようになるので、消化不良のトレーニングを行っていると選手を掌握しきれなくなりシーズンを通してのチーム管理が難しくなります。

私が自分の指導の「時間の流れ」の遅さに気付いたのは偶然でした。今では多くのサッカー指導者がビデオで試合の撮影をしていると思いますが、数年前に私は自分が作った練習メニューを検証する目的で「練習」を撮影したのです。そのビデオを見た時、明らかに自分の体感時間と実際の練習の流れに違いがあることに気付き、それ以降、私はこの点の向上を目指し練習の仕切り方を変え結果的に練習の質も向上しました。

するとある変化が起こりました。少しでも長い時間サッカーをしたいと思っているある選手はそれまで練習の終盤に「練習時間はあと何分残っているの?」と聞いてきて残り時間が少ないことを知ると残念がりましたが、私がやり方を変えた後は練習時間の半分が過ぎたあたりに同様の質問をしてきて「まだそんなにあるの?」と驚いたのです。要するにそれまでよりも練習内容が濃くなり良い意味で選手が満足感を得るようになったのです。

コーチの「体感時間」が速くなる現象はコーチの脳が限界に近い情報を扱っている時、もしくは「場馴れ」していない時に起きます。これを克服するためには「場馴れ」することはもちろんですが、加えて脳が処理する情報の「交通整理」を行う必要があります。トレーニングを指揮する上でどこに重点を置くか、どのような指示を出すかを事前に準備し、加えてそのような指示を可能な限り「簡潔」に「的確なタイミング」で出せるようになることがコーチングにおける洗練で、そうなるとトレーニングの機能性は大分向上します。

当たり前のようなことを書きましたが、実際に客観的に自分の練習を見ると思わぬ発見があったりします。特に体感時間は実際のスピードより速く感じがちなので、ビデオを持っている方は試しに試合を撮影する前に自分が指揮する練習を撮影してみてはいかがでしょうか。