(4)
それでも進まないことにはゴールはやってこない。
俺は脚を引きずりながら、とぼとぼと歩いた。
いっこうに脚は回復しない。
身体はまるでしんどくはない。心肺機能は快調そのものだ。
なのに脚だけが思うように動かない。
35キロ地点を行くランナーたちは、ほとんどがゆっくりと走っているか、あるいは俺と同じように歩いていた。
歩いている俺は、どんなにゆっくりでも走っているランナーには、どんどん抜かれて行く。
とぼとぼと走る白髪のおじいちゃんランナーやおばちゃんランナーにも抜かれる。
DやCのランナーを目指して走っていた俺を気づけばFやGのランナーが抜いていくのだ。
ものすごい敗北感。
まるでウサギと亀のウサギになった気分だ。
俺は「走りたい、走りたい」と思いながら、ただただゴールを目指し歩いた。
たぶん1000人ぐらいには抜かれたのではないだろうか?いやそれ以上かもしれない。
それはそれは、ものすごい敗北感に覆われながら2時間以上歩き続ける結果となってしまった。
最後の給水所、スタッフが「塩分取りや~塩分取らな脚つるで~!」と言っていた。
「もうつってます。。。」心の中でそうつぶやきながら塩タブレットを3個、口の中に頬張った。
41キロ地点、残り1.195キロ。
何故だか走れる気がした。
突然、走れる気がしたのだ。
俺はやっと走れた。ゆっくりだが歩いているのではなく走っていた。
とにかく走れたことがうれしかった。
ゴールに近づくにつれて応援の人も増え始める。
「足が痛いのは気のせいだ!」と書いたボードをかざす人がいた。
そう「気のせい」だったかのように俺は走れた。
塩タブレットのおかげか応援のおかげなのかはわからない。
けど、ゴールを目前にして、とにかくあれほど動かなかった脚が動くようになったのだ。
「がんばれー!」「もうすぐよー!」
まるで俺の苦しかったカクンカクンの10キロを知っているかのように応援してくれる人々。
俺はちょっと目頭が熱くなった。
しかし泣くわけにはいかない。
だって俺、歩いたんだから、10キロを2時間以上かけて歩いて5時間20分もかかったんだから。
応援の人々の間を走る。
最後のカーブを曲がるとゴールだ!
カーブを曲がり切る。
そこには、前から見て、まあまあかわいいQちゃんが手を上げて待っていてくれた。
「カユカワさん!お帰りなさい!」Qちゃんはそう言って手を上げた。
ハイタッチ!
俺は思った。
ゼッケンの名前をニックネームにせずに苗字にして良かったー!
こうして俺の初マラソンは終わった。
着替えのテントの中で二人組みのランナーが話していた。
ランナーA:「10キロも歩いたん始めてや」
ランナーB:「暑かったもんなー」
ランナーA:「あの時の絶望感ったらなかったわ!」
俺の心:わかるーわかるーむっちゃわかるー!きっとそんなランナーがいっぱいいたのだろうな。
俺は自分が案外サクッと4時間ぐらいで走るんじゃないかと思っていた。
「チョーシのんなよ!」なのだ。
そんな調子に乗ってた俺には「絶望感」と「敗北感」を味わうことが必要だったのだ。
けどね。俺はね。挑戦すれば失敗するかも知れんけど、挑戦しなければ成功は無いと思うねん。
次の日、俺はヤホーで検索した(ヤフーね)
「マラソン サブフォー」で検索した。
そこには俺のような状態が典型的な失敗例だと書いてあった。
もうちょっとトレーニング方法とか調べといたらよかったな。
来年ガンバロ。
おしまい。