(1)自分たちだけで
~たぶん我々には足りない部分があったのだろう。プレッシャーの中で不運に見舞われ、それでも最後までボールを追った。この結末はそんな彼らの未来への必然だったのだろう~
オープン部門、それは最高レベルの選手が集まることを許されたカテゴリーだ。
ローソンカップのオープン部門、そこに参加することになったのはノマドの若手選手が競技志向を離れて楽しむために作ったチームDDGである。
彼らにはGDEX.FCとして勝つことを目的に練習してもらう事になる。
メンバーはFPのタカシ、ユウ、サッチン、ダイ、マエチャン、ワクチャン、マーシー、ゴレイロのデンデンの8名である。
GDEXのシミズ社長の依頼を受けて出場メンバーが決定し、決起集会をしたちょうど翌日、DDGはミドルレベルの大会に出場する事になっていた。
そのことを知ったシミズ社長は俺といっしょに観戦に行く事になった。
予選リーグを圧倒的な強さで勝ち上がり決勝リーグは俺と社長は観ることが出来なかったのだが、DDGは優勝した。
たぶんシミズ社長は彼らの強さに満足しローソンカップ優勝に期待したに違いない。
しかしこの優勝はあくまでミドルレベルである。オープンレベルのチームは出場できない大会での優勝にしか過ぎない。
ただ俺もDDGのメンバーもこの優勝で甘く考えてしまっていたのかもしれなかった。
週に1時間の練習日にGDEX.FC女子とコートの半分ずつを使って練習し、練習後半には練習試合をした。
当然、俺は両方を同時に見ることが出来なかったので男子の練習は彼ら自身に任せて俺は女子の練習を中心に見ていた。
たぶん彼らも練習は自分たちでやりたいだろと思っていた。
GDEX.FC男子はすでにDDGというチームであり監督はタカシがしている。
そこに俺が入って口を出すことに俺は躊躇した。
そして俺は常に女子の練習に力を入れ、男子と女子の練習試合でも女子の動きを中心に見て女子チームの問題点を探していた。
男子の動きについては見ていないに等しかった。
女子の練習について俺が悩んでいた頃にユウとタカシも男子チームの状態に悩んでいるようだった。
大阪1部リーグのチームに所属しオープンレベルの厳しさを知っている彼らにとって他のメンバーの意識が低いように感じられたのであろう。
「先生、なんか悩んでるみたいやし、ちょっと話しましょうよ」
タカシとユウがそう言って俺を誘ってくれたので、練習後に話をしたことがあった。
水曜日の11時までの練習後にタカシ、サッチン、ダイと、その日は自分の所属チームの練習に行っていたユウとマエチャンが合流してファミレスで2時ごろまで話をした。
俺は彼らに「練習は問題点を見つけ出して、それをクリアしていくためのものではならない」と言う持論を話した。
そして「分からない者には、辛抱強く丁寧に分かるように教えなければならない」ことも話をした。
「やってるうちに分かる」とか「自分で考えろ」ではコーチとしては責任放棄でしかない。
そんな話をうざいぐらいに話したように思う。
ただこの時にも危機感があったのはタカシとユウだけだったように思う。
そして俺の考えた女子にパスアンドムーブで抜ける動きを植え付けるためのエイトとエルの対面パスを男子も一緒にするようにしたのである。
この時点ではある程度の練習は俺が仕切ることにした。
しかしこの「ある程度」は女子が出場するエンジョイ部門が終わるまで、その対面パスのみとなってしまった。
今考えれば俺が両方の練習を見るならば女子の練習時間と男子の練習時間を分けなければ無理だった。
そして彼ら自信もやはり俺に頼らず自分たちでやりたい気持ちが強かったのだと思う。
女子のディフェンス練習が始まった頃にも彼らはその練習に参加しようとはしなかったし俺も無理に参加させることはしなかった。
そして彼らはオープンレベルの大会に出場して自分たちで問題点を見つけ出す方法をとることにしたようだった。
その大会の日、7月22日はローソンカップまで約1ヶ月である。
その大会で彼らは決勝リーグには進出したものの、今のチーム状態がオープンで優勝できるレベルにないことを思い知ることになる。
今まではただ自分たち個人のスキルだけで戦っていたことを感じたに違いない。
タカシやユウは分かっていた事だろう。
しかし、一番年下のマーシーが「これがフットサルだと思い知った」と言ったように、そのことすらメンバーには分かっていなかったのだ。
やはりオープンレベルのフットサルはチームで守り、チームで攻めないと厳しい。
それを知るための大会になったようだった。
ただ、それならどうするのか・・・。
しかしその後の練習もその問題点を修正するものにはならなかった。
練習に参加するメンバーも全員が揃うことなく大会が目前に迫った女子チームのモチベーションには遠く及ばなかった。
俺も女子チームのことで頭がいっぱいで彼らのことは彼ら自身に任せきりになってしまっていた。
そんな中でも彼らは自分たちで答えを出そうと考えていた。