時は満ちてアフタヌーン。
 彼は待っていた。
 この時を───



 そっとボトルに手をかける。
 利き腕に持った手に伝わる感覚は冷たい。ボトルの周りに付いた水滴は外気との温度差によって結露したもの。
 良く冷やされている証拠だ。


 ボトルは無色透明の容器。
 中に入っている液体は赤褐色で、光に透かせば上品な橙色に透けて見える。


 そしてボトルのキャップを回す。

カリ、カチッ――

 彼にとって、その音はまるで安全装置が外されるかの様。

 そのままボトルを口元に近付け傾ける。
勿体ぶる必要などない。
 一気に口の中へと流し込む。

 冷たい。
 適度に冷やされた液体は、味覚を一瞬麻痺させる。

 その味覚を追い越してやってきたのは甘い薔薇の香りにも似た、茶葉“ディンブラ”の香り。

 それに遅れて程よい甘さと爽やかな渋みを纏った上品な味わいが喉を駆け抜ける。


トク、トク、トク──

ゴク、ゴク、ゴク──


 ボトルの鼓動と喉の鼓動が呼応する。

 甘い、女神の口付けに酔いしれるように呼吸することさえ忘れる。
 彼は止まらない。
 ボトルを更に傾ける。

ゴク、ゴク、ゴック──

ぷはぁっ!

 ようやくその行為を止めたのは、肺が酸素を求めて強制的に意識を現実世界に引き戻された時だった。
 ボトル内の残量は1/3程だろうか。


 一呼吸して再びボトルを傾ける。
 今度は少しずつ。
 ほんの少し口の中に運び、舌の上で転がすように戯れる。

 なんとも言えない、心地よい香料が口から鼻へと抜けていく。

 たまらない。
 思わず口元が緩む。


 ボトルに貼られたラベルを見て、もう一度微笑んだ。


 それは彼の至福の一時。
 それは女神が与えし午後の事。