カチカチ山のうさぎさんは有罪か | 福岡若手弁護士のblog

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福岡県弁護士会HP委員会所属の弁護士4名によるBLOG
(ただしうち1名が圧倒的に多いですが、だんだん若手じゃなくなってるし)

小学校でカチカチ山を題材として模擬裁判を行ったところ、うさぎさんは懲役9年となったらしい。


http://sankei.jp.msn.com/region/shikoku/kagawa/090318/kgw0903180221000-n1.htm


身近な物語を題材に社会問題を考えるということは、その社会問題を深く勉強するためには非常に役に立つと私も思っておる。


実際、私が子どもの時には、ル○ン三世が申告したら税金を納めなければならぬのか?そもそも泥棒で稼いだお金に税金を課すことができるのか(結論としてはできる)?等々友達との間でよく議論をしておった。他にも、○パン三世は生活保護を受けておるか否かなどと子どもながらに激論を交わしたものである(TVシリーズでは貧乏な描写もよくあった。赤ジャケ時代であるが)。


私が修習生時代にティーンズコートというアメリカの実際の少年達の更正保護プログラムのドキュメンタリー番組を見たが、その番組を見る限り、子ども達というのは意外に事の本質をつかんで妥当な結論を出すものだといたく感心した覚えがある。ティーンズコートについては書籍やビデオも確かでておったと思うので、興味がある人は検索でもして調べて欲しい。


さて、日本の子ども達の模擬裁判であるが、現職裁判官も子ども達の議論にいたく感心した模様で、「(被害者の)タヌキもおばあさんを殺している」、「タヌキは食べられようとしていたので正当防衛」「だましたり、やけどを負わせたりした(加害者の)ウサギの殺し方が残酷」、「仕返しはおじいさんも喜ばない」等となかなかに刑事裁判としては事の本質に迫る議論が展開されたようですある。


裁判員制度のアピールとしては、やや出来すぎ感が否めない記事であるが、ここは素直に子ども達及び関係者の皆様に敬意を表したい。


もっとも、こういった昔話を題材にするときには、当該昔話が成立した時代の価値観等もキチンとフォローしておいて欲しいものである。私もかちかち山がいつの時代に今の形になったのか調べてもおらぬが、例えば武家社会の時代であれば仇討ちは賞賛されるべき価値観の時代であったワケである。日本の昔話に限らず、イソップ童話やグリム童話なども、現在の価値観からするとその物語が述べている教訓に首をかしげるものも多々あるが、それが間違った価値観であるような浅薄な捉え方は逆に教育上良くないと危惧しておる。

アリとキリギリスのアリがけしからんといった議論が典型である。本件の場合、特に「仕返しはおじいさんも喜ばない」といった現代的価値観が「絶対」であるかのような捉え方は良くないと思う。いや、そう感じて議論することはよいのだ。ただ、昔話を現在的価値観で塗りつぶしてしまい、物語が本来持つテーマを馬鹿にするような子どもになったら逆効果と言っておるのであるから誤解せぬように。


さらに現在的価値観としても、私個人としては、第三者であるのに、故人が死後にどう思っておるかを、まるで故人と話してきたかのように口にする人間は大人でも嫌いである。んなもんフィクションだし、お前の主観的感想に過ぎぬだろ、と思ってしまう。


こういった側面をキチンと説明するには、「実はこの事件、実際に起こったのは西暦○○年だから、公訴時効が成立しておるのだよ。テヘヘっ。」とか、「実体法的に、この事件時代には現在の刑法殺人罪は成立してないのだから、罪刑法定主義の見地から殺人罪を適用することには大きな問題があるので~す。弁護人はそもそも公訴棄却を求めるべきでしたね~。」等と無粋なことをいって、子ども達をケムに巻き、法学に対するさらなる興味をかき立てるくらいの演出はして欲しいものだ。そりゃもう、「大人なめておったら承知せんぞ!」くらいの気概で。


だって、刑罰って時代的価値観に大きく左右されるもんだからね。そこら辺もきちんと考えさせることは大人側にも絶対に必要だ(断言)。


M弁護士