賃貸借の保証人の責任はメチャ重い | 福岡若手弁護士のblog

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福岡県弁護士会HP委員会所属の弁護士4名によるBLOG
(ただしうち1名が圧倒的に多いですが、だんだん若手じゃなくなってるし)

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ご存知の方は今さら、と思うかも

しれませんが、私が受任した事件の

調べ物をしている際に、ぶつかった

裁判例を紹介することにします。

引っ越しシーズンでもありますし。

事例は次のとおりです。

昭和605月、賃貸人Yと賃借人

Aとの間で、期間2年・賃料月

26万円のマンション賃貸借契約が

成立しました。その際、Aの実兄

Xが連帯保証人になりました。

 その後、賃貸借契約は平成元年の

2回目の更新で賃料31万円に値上げ、

平成3年の3回目の更新で賃料33

万円に値上げになりました。

 XはAの契約更新には全く関与

せず、YからもXに更新の都度保証

意思を確認する問い合わせをする

こともありませんでした。

 ところが、平成元年からAの賃料

滞納が始まり、3回めの更新以降は

ほとんど賃料の支払いがありません

でした。平成47月になって

YはAに更新拒絶を通知し、平成

56月になってようやくXに

賃料不払累積の事実を通知しました。

 結局、Aが退去した平成56

までの間に累積した滞納賃料は

850万円(ゆうに2年分以上の

賃料に相当目)にのぼりました。

 そこでXは、2回めの更新後の

滞納賃料について、主契約の内容

(賃料額)に変更が生じている

以上主債務の同一性を欠き、従前の

保証の効力は及ばない、ならびに、

長期にわたる賃料滞納を放置して

契約解除も保証人への通知も

しないままだった賃貸人からの

保証債務の履行請求は信義則に

反する、という2つの理由で

債務不存在確認訴訟を提起した。

最高裁平成91113

判タ969126頁は次のように

判示して、Xの訴えを斥けた。

「期間の定めのある建物の

賃貸借において、賃借人の

ために保証人が賃貸人との間で

保証契約を締結した場合には、

反対の趣旨をうかがわせるような

特段の事情がない限り、保証人が

更新後の賃貸借から生じる賃借人の

債務についても保証の責任を負う

趣旨で合意されたものと解するのが

相当である。保証人は、賃貸人に

おいて保証債務の履行を請求する

ことが信義則に反すると認められる

場合を除き、更新後の賃貸借から

生じる賃借人の債務についても

保証の責任を免れない。」

 反対の趣旨をうかがわせるような

特段の事情というのは、解説によれば

「更新後は保証責任はない」とか

「更新しても保証人が異議を述べた

場合には更新後の保証責任を負う

ことはない」という特約が付されて

いる場合をあげられていました。

現実にそんな特約を見たことは

ありませんので、いったん賃貸借の

保証人になった以上は退去するまで

責任を負うのが原則となります。

 このように保証人に厳しい結論を

導く根拠として、賃貸借が更新継続

される蓋然性、及び、債務の確定性

(賃料債務は定期的に発生するから、

一般に債務が保証人の予測を超えて

一挙に増加するものではないこと)が

挙げられています。

 たしかに、そうした一面はありますが

上記最高裁事案のように、長期にわたる

滞納により延滞額が累積しているのに、

賃貸人が保証人に何らの連絡もせず、

賃貸借を解除することもせず、むしろ

更新までしてしまうという事態こそ、

賃貸人の対応としてはかなり異例で

保証人の予測を超えているという評価が

該当するのではないでしょうか。

 このような場合には、賃貸人が策を

とらず放置したことで、保証人の事後の

賃貸人への求償を困難にしていることは

否めず、賃料滞納による損害を軽減する

ための努力を放棄しているものと捉え、

その損失を保証人に被せることは権利の

濫用に該当するとみるのがむしろ適切な

ように思えてなりません。

 とはいえ、上記最高裁事案では、

賃料増額に保証人が関与していずとも、

何年も滞納賃料が知らぬ間に累積して

いても、しかも、滞納累積中に更新

した場合であっても、賃貸人は全額

保証人に請求できる(信義則には

反しない)という結論を導いています。

 一度保証人になった以上は賃料の

支払い具合に常に関心を持つべき

ですし、賃借人は保証人にくれぐれも

迷惑をかけないように心がけましょう。

一生ものの悔いを生むことになります。

ろぼっと軽ジK