1/21の土曜日。

 

今日も午前中は出勤して仕事、午後から透析。

 

だが、今日はいつもとは違う。

 

今日は人生初の6時間透析なのだ。

 

6時間!

 

こうして改めて文字にしてみると、長い。

 

90分の映画なら4本も見られる。

 

のぞみに乗れば東京から博多まで5時間かからずに行けるし、親不孝通りや中州に行ってラーメンを食べてもまだ時間が余る。

 

逆方向、羽田から新千歳へ飛び、快速エアポートで札幌へ入っても3時間は掛からず、二条市場でゆっくり買い物をして狸小路でラーメンを食べてもまだ時間が余る。

 

(どうやらラーメン食べたい病を発症中)

 

国際線に乗ればバンコクあたりまで行ける。

 

(知人に聞いたら「6時間ならシンガポールまでかなー。バンコクは7時間」と教えてもらったので、ここで訂正しておく)

 

LowLevelFormatToolで物理フォーマットすると、3TBのハードディスクなら全セクタをゼロクリアできる。

 

浦沢直樹のYawara!(全29巻)を読み切って、柔を追う松田耕作のひたむきな生きざまと、その一途な想いに10回は泣くことができる。

 

それにしても長い。

 

長すぎる。

 

そして思い出すのは、少年時代に読んだ漫画『銀河鉄道999』の一節。

 

退屈も度が過ぎると

人はみなおかしくならない方が

どうかしているのだという人もいる。

宇宙の海には、その退屈が山ほどあるのだ……

 

銀河鉄道に乗って宇宙を旅する鉄郎とメーテル。

 

だが、ある場所で赤信号で停車したところ、機関車が客車を置いてどこかへ去ってしまい、残された鉄郎たちはどうしようもなく、時間を潰すために車内にあるものを利用してあれこれ暇つぶしの工夫を始める、という物語。

 

何日か過ぎたところで機関車が戻ってきて、信号も青に変わり、列車は次の停車駅を目指して走り出すのだが、ラストシーンに以下のような会話がある。

 

メーテル「とにかく鉄郎はテストに合格したわ」

 

鉄郎「テスト?」

 

メーテル「そう、時間を食べるテスト」

 

鉄郎「時間を食べるテスト? だとしたら退屈でおもしろくないテストだなあ」

 

メーテル「そう、宇宙で一番退屈なテスト……」

 

この「時間を食べるテスト」「宇宙で一番退屈なテスト」という言葉は少年の俺の心の中にずっと残り続けたまま、今に至っている。

 

前回のエントリで一炊の夢のことを書いたが、この概念は真逆であり、人生は全体で見ると一瞬に過ぎ去るものでありながらも、その場その場では永劫の苦しみに悶えるような長丁場として感じるシーンが必ずある。

 

前回にも書いた、下らないセミナーや、校長先生の朝礼での訓示、来賓のクソみたいな挨拶、老害の自己語りなどは、基本的に全てこの類に入る。

 

透析を嫌がっている患者の多くも同じかもしれない。

 

彼らは透析そのものを、メーテルが言っていた「時間を食べるテスト」だと思っているに違いない。

 

透析時間を「何時間もの間、ベッドに縛られて自由を奪われる時間」「やりたいことを我慢して過ごさなければいけない時間」とネガティブに受け取るから、つらくて、気が狂いそうになるのだろう。

 

こればっかりは個人の受け取り方の問題なので、いくらクリニック側が改善案を出しても、どんなに楽しく過ごせる工夫をしても、転院しても、何も変わらない。

 

本人が「嫌だ」「苦痛だ」と思っている限り、それは地獄の我慢タイムのまま。

 

だが物は考えようで、客車ごと機関車に置き去りにされた鉄郎がポジティブシンキングを発動して車内で遊びまくった様子を見倣えば、もう少しましな過ごし方ができるはずである。

 

実際、俺が5時間透析を苦もなく過ごせるのは、一人になって、誰にも邪魔されず、趣味に没頭できる絶好の時間としてそれらを活用したから。

 

この三か月で何をしたかをまとめてみると、

 

・映画を見た

・音楽を聴いた

・原稿を書いた

・ゲームを作った

・ゲームをした(ピグパズル)

・読書をした(青空文庫)

・ネットサーフィンをした

・仕事をした

・妄想した

・寝た

 

上記のアクションを組み合わせれば、5時間など余裕である。

 

ということは、改めて思えば今回の6時間も大したことない。

 

たかが1時間増えたくらい、どうってことない。

 

最初に「文字にすると長い」と書いたが、それは文字面から受ける印象であり、事実は違う。

 

現実にはただの誤差である。

 

たった1時間の。

 

先ほど嫁ちゃんにクリニックに確認の電話をしてもらったところ、いつもより30分早く入館してほしいと言われたらしい。

 

ということは、30分前倒しで始まるので、後ろに伸びるのも30分で済みそうだ。

 

後は、6時間を安定して過ごすことができればオーバーナイト透析は目前である。

 

今日の過ごし方の予想としては、前半は爆睡し、後半は音楽を聴きながらシナリオ原稿でも書き、飽きたらアメーバピグの落ち物パズルでもやるのだろう。

 

(落ち物じゃないけど、これ↓は大得意だった。本物の台がほしい)

 

 

 

 

(ここまでは透析に行く前に書いて、ここからは透析後に書いた)

 

今日の技師は稲妻いなっち。

 

俺「今日は6じか~ん」

 

い「聞いてます。よかったですね」

 

俺「特に注意することは?」

 

い「いえ。ありません。あえて言うなら、血圧が下がりすぎないといいですね」

 

俺「そうかー。下がることもあるのかー」

 

い「ま、やってみて考えましょう」

 

そんなことを言いながら穿刺してくれたのだが、何だかチクチクして痛い。

 

俺「ちょっと針先を引いてもらっていいですか?」

 

い「あ、痛いです?」

 

俺「ちょっと」

 

い「新しい場所を開拓したんですが」

 

俺「おいこら! 6時間の長丁場でそれする!?」

 

なんて怒鳴ったりできるわけがない。

 

俺「痛いのは運だからなー」

 

い「すみませんが、そうなんです。同じ技師が同じ場所に刺しても、痛い時と痛くない時があるんです。患者さんの体調や、メンタルの状態でも感じ方は変わるので」

 

俺「知ってます。なのでこれはいなっちさんの挑戦状として受け取りましょう。悲鳴を上げるほど痛いわけじゃないし、耐えてみせます」

 

い「無理しないで呼んでくださいよ。追いエムラもできますから」

 

俺「うい」

 

とまあ、いなっちの挑戦によって、よりによって6時間透析の今回に穿刺場所を少しずらされたが、結論から言うと耐えきった。

 

時々ズキンと痛んだのでおちおち眠れなかったが、それでも1時間半は仰向けで、その後の1時間半はシャント肢を下にして横向きで寝た。

 

電気あんかと布団があたたかく、まあまあ快適な3時間だった。

 

(↓いつもより扇型の数が1つ多い)

 

 

 

目覚めた後、音楽を聴きながらピグパズルをやっていると、大きな機械を押した看護師さっしーがやってきた。

 

さ「心電図撮らせてくださーい」

 

俺「あいよ。三か月に一度のチェックよろー」

 

さ「楽にしててー」

 

俺「あいよー」

 

5分ほどで完了。

 

さ「ついでに足見せてくれる?」

 

俺「どうぞどうぞ」

 

さ「あれ? タコがないなー」

 

俺「タコ?」

 

さ「前回の記録だと、ここにタコがあるはずなんだけど」

 

俺「なくなってますか?」

 

さ「うん。触っても硬いところがないのよ」

 

俺「では、やつは海に帰ったということで」

 

さ「そうだね。そういうことにしとこうか」

 

その他に、足先の乾燥、痺れ、痛みなどの有無を聞かれて回答。

 

さっしーが去った後は誰も来なかったので、その後はだらだらとシナリオを書いて過ごし、何の苦も無く6時間を走り切った。

 

(↓バイタルは大安定)

 

 

 

今日の抜針はニッキー。

 

俺「あ、ニッキーさん、久しぶり」

 

二「オーバーナイト透析に入れるんですってね。よかったですね」

 

俺「皆さんのプッシュのおかげです」

 

ニ「ところで(俺)さん、胸部大動脈瘤解離の既往があるって本当ですか?」

 

俺「細かい部分がいろいろ違いますね。まず動脈瘤は無くて、ただの動脈解離です。あと、胸部じゃなくて、腹部です。スタンフォードBです」

 

二「え? そうなんですか? 資料には胸部って書いてあったけど」

 

俺「どっかのドクターが適当に書いたようですね。上方性じゃなくて下方性です」

 

二「あー、そうだったんですか。いやー、みんなで心配してたんですよ。胸部と腹部じゃえらい違いますし、オーバーナイト透析中に急変されて、救急車で運ばれても困るし」

 

俺「皆さん勘違いしていますが、もう大動脈解離は済んだことです。1か月の間、ベッドに縛り付けられて降圧剤を流し込まれ続けたお陰で、血管自体は修復されました。CRPも、もう10年以上標準値です」

 

二「そうだったんですか。いや、それを聞けて良かったです。資料を修正する必要がありますから」

 

俺「よろしく修正お願いします」

 

などと言って、無事に6時間透析終了。

 

いつもよりオンラインHDFに使用した補液の量もかなり多かったし、kt/vの値も良くなっていたので嬉しい。

 

もう一度火曜日に挑戦してクリアできたら、いよいよ憧れの睡眠中透析だ!