雪が鈍色の空からフワフワと舞い降りる。
そして身を切るような冷たい空気、春はまだまだ遠いようだ。
街中の人手が一気に減った、日没の薄暗い通り。
その中を走る黒いクルーザー型の単車。
そして、ヘルメットから銀髪をなびかせる運転手の男。
低く唸るようなエンジン音を響かせ、スピード違反とは縁遠い速さで石畳の道を抜ける。
昔、保養地として賑わっていた歴史を感じる街並みや道を曲がり、更に暗い裏通りへ。
裏通りを入ってしばらく走れば、色街の目に痛い蛍光色のネオンがちらほら。
そして、その通りの突き当たりに、一際大きな看板が目に入る。
エンプーサ、そんな名前の酒場。
男は店の裏に黒い愛車を停めると、ヘルメットとゴーグルを外した。
オリーブ色と黒のチェック柄のスカーフをグイと下ろす。
透けるような白い肌、そして氷のような銀色の瞳。
男は白い息を吐きながら、酒場の中へ。
「よお、アーリャ」
いつものテーブル席に座る、いつもの男が二人。
男、手を振って挨拶を返したアーリャは、空いた木製の椅子に腰掛けた。
今日も他の客席はまばらだ。
「…珍しい、ジャンが酒を飲まないなんて」
アーリャは座っている男の手元を見た。
ジャンの手に握られているのは、どうやらジュースのグラスのようだ。
「昨日悪酔いしたんだと、そんで二日酔いだってさ」
隣に座っている黒髪のタイキは、やれやれと笑いながら状況をアーリャに説明。
気持ち悪そうにジャンはテーブルにベタンと突っ伏している。
「…年なのに自重しないから」
「ジャンだからしゃーない」
「……るせえぞ、お前ら」
相変わらず、気怠い雰囲気を振り撒く三人組。
そんなダラダラとした中、アーリャはそう言えば、と口を開いた。
「今日…だったよな、アイツ来るの」
その言葉に、伏せて体を丸めていたジャンが顔を上げる。
「んあー…ライバーか、お前何を注文したんだよ?」
「ナイトビジョン、あと前にお釈迦にしたライフルと弾薬」
「やっと買ったか、ナイトビジョン…ま、下手な軍放出品よか、アイツの口車に乗せられる方がマシだわな」
だな、と首肯を交わす二人。
「ライバー、相変わらず煙草臭いんだろうなあ…」
。