東京の西に位置する国立(くにたち)に越してきてこの夏で26年になりました。

「人生でいちばん長く住んでいる町」記録をもう4年ほど更新しつづけています。

 

 

住みはじめる前から通っていたのが喫茶店のロージナ茶房。

国立のお店の紹介では必ず取り上げられる老舗です。

本格的に常連になったのは、娘が生まれてからでした。

息子を幼稚園に送りとどけた後、娘を抱っこしたまま、どうしてもコーヒーが飲みたくなり、扉を押した夏の朝からです。

 

 

わたしを見るなり、マスターが厨房の前の席から立ち上がり、お店の人に「冷房を消して」といいました。

そして、ここへおいでおいで、と自分の前の席を指さすのです。

わたしは素直にそこに座り、娘を抱っこひもから下ろしました。

 

 

マスターは、オムツを替えるなら二階はまだ誰もいないから使いなさい、おしぼりも何本でも持っていきなさい、といいます。

ありがとうございます、まだ大丈夫そうですが、替えるときにはそうさせていただきます、と答えました。

お店のおしぼりで娘のおしりを拭いていいものかどうか、迷いながら。

 

 

それが出会いで、息子も連れていくようになり、当時70代だったマスターは二人を孫のようにかわいがってくれました。

自分はもともと絵描きであり、物書きとして新聞社の仕事をしていたこともある、と教えてくれた上で、わたしにいうのでした。

 

 

「きみはハッタリが足りない。もっと物書きでございって顔をしなさい」

 

そのころにはすっかり姪かなにかのような口をきいていたわたし。

 

「えええ、それはむり」

 

 

10代から活字の世界にまさにまぎれこんだわたしには、職業意識というものが希薄でした。

プライベートと仕事で分けたら、文章を書くことがプライベートで、家事育児のほうがよほど仕事の感じがありました。

文章を書いているのがプライベートなのに、そこで「わたしは物書きです」って顔をするというのがわからない(笑)

だいたい「物書き」という言葉自体が嫌いでした。

 

 

だから、マスターにも「それはむり」と一言でいい返したわけです。

マスターは笑っていました。

 

 

それから10年ほどして知り合った人は別の意見でした。

 

「きみほど職業とルックスが一致している人は初めて見た」

 

いまは理由が少しわかります。

マスターとはいつもこどもたちといっしょに会っていた。

つまり「母親」という「仕事」の最中だった。

一致しているといった人とは、わたし一人で会った。

つまり「プライベート」であり、いわゆる物書き感が出ていた、のかも。

 

 

娘の意見も聞いてください。

小学校の5年生くらいのときだったと思います。

 

「ママは仕事しているときだけはまとも」

 

娘がいうわたしの「仕事をしているとき」とは、コンピュータの前に座って原稿を書いたりしているときのことです。

まともなときが少しでもあると認めてくれたことに安堵いたしました。

 

 

いま改めてロージナ茶房のマスター・伊藤整さんのおっしゃった「ハッタリ」と「物書き」とを考えてみると、逆にいって、気取らないで自分を出せ、ということだったのかなあ、と思います。

どこをどうしても、文章を書くことで対価をいただいてきた者であることはまちがいない。

だったら、そういう顔をして堂々と歩いていればいい。

他の人が他の仕事の顔で歩いているのと同じように。

 

 

なにげなさを気取るのをやめて、そのままの自分で書く。

それこそが、わたしの好きな「プライベートに仕事する」ということなのかも知れません。

 

 

 

 

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各回120分の対面スクーリングです。

場所は都内のカフェなど、オンライン受講も可能です。

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第3回 800字エッセイの添削・講評

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後日、ライティングセッションのフィードバックをお送りします。

 

受講料は1回の授業につき¥7,700円(税込)になります。

また1回ずつの単発の講座もお受けいたします。

受講料は同じく¥7,700円(税込)です。

 

 

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