誕生石に興味を持ったのは母のアメジストの指輪が最初だった。

小学校3年生くらいのとき。

北品川の商店街に「玉晶堂」という、メガネと時計と宝飾品を扱う店があった。

白を基調にした内装に、ガラスのショーケースがたくさんあって、照明が反射して眩しい。

そのときは母の誕生日が近かったのだろうか。

日曜日の午後に三人で出かけた。

 

 

「指輪なら誕生石のアメジストがいいわ」

 

母の希望で、いくつかの指輪が、臙脂色のふかふかの布でできたお盆に載せられた。

ぶどうのドロップのような綺麗な石がついている。

母は一つずつ指にはめてみていたが、そのうちに、ごろんとした楕円形の大きな石のものが気に入ったようだった。

 

 

わたしは銀だと思っていたが、あとで聞いたら「プラチナ」という金属だということがわかった。

プラチナのほうがアメジストの色が映える、と母はいっていた。

色の白い母の手に紫はよく似合った。

 

 

 

母の誕生日は2月14日。

誕生石というのは誕生月にちなんだ宝石であるということも知った。

 

 

そのつぎは父の誕生日。

玉晶堂にカフスボタンを買いにいった。

10月の誕生石はオパールだという。

出てきた石は、オレンジ色や緑がかった乳白色、琥珀色に近い色もあった。

またその中に違う色が入ったり、濁った部分があったり、複雑だった。

綺麗といえば綺麗なのだけれど、地味な印象だ。

 

 

父の誕生日は10月26日、わたしは10月31日だから、わたしもオパールなのか、と少しがっかりした。

母がその日もつけていたアメジストのほうが綺麗。

でもわたしならもっと赤やピンクのかわいい色がいいな。

オパールはほんとに地味だなあ。

 

 

 

父は、オレンジ色のオパールのカフスボタンとネクタイピンのセットを買った。

台はシルバーだった。

いまから思うと、昭和の男性はお洒落だった。

スーツに色石の装身具を合わせていたのだから。

ライターも使い捨てはまだなかった。

父は銀のデュポンを使っていたものだ。

 

 

わたしは大人になってもオパールは身につけなかった。

4月生まれはいいな、誕生石がダイヤモンドだもん、と羨んだ。

いま調べると10月の誕生石にはトルマリンもあるようだ。

「電気的な性質が強く、日本名は電気石」だとか。

 

 

 

 

 

オパールのとらえどころのなさと、トルマリンの「石なのに電気」という奇妙な感じは、自分に通じるような気がしなくもない。

それでもやっぱり、透明で綺麗な色のかわいらしい石のほうがよかったなあ。

たとえばトパーズとか。

まだいっている。