毎日夕方に買い物にいく。

家を出るとすぐに道の両側が駐車場になるから空が広い。

冬から春先はもう星が見える。

星の瞬きと目を合わせるのが好きだ。

 

 

Look at me, look at me, look at me,

 

 

そんなふうに聴こえてくる。

星が「わたしを見て」といっている。

 

 

歩いている道の表面から見えている星まで、空から宇宙へ、区切るものはなにもない。

この空間全部が「そら」だ。

わたしの目と星との間にも、さえぎるものはなにもない。

なにもないから見えている。

 

 

天球の内側の一点に目を当てたらそこがいちばん遠い。

昼間もそうして空を見ているが、星が出ると天球は奥行きを無限に広げる。

何万年も遠くから星がわたしを見ている。

そして「わたしを見て」といっている。

 

 

わたしが星なのか、星がわたしなのか。

光の視線で結ばれる二人にとって、距離はなんの意味もない。

 

 

わたしは映画をたくさん見る。

宝塚歌劇にも通う。

映画にも宝塚にもスターが存在する。

 

 

スクリーンのスターとわたしとの間。

舞台上のスターとわたしとの間。

星との間と同じように、さえぎるものはなにもない。

だから見えている。

だからつながっているのだ。

一対一で。

 

 

スターではないわたしたち同士の関係には、ときとして何かがはさまる。

人だったり、できごとだったり、壁だったり、時間だったり。

それらに負けて、わたしたちはお互いを手放すことがある。

けっしてほどきたくなかったリボンの結び目をほどいてしまう。

 

 

手のひらに残るぬくもり。

リボンにはくせがついている。

それが悲しい。

お互いがどこにもいなくなったわけではないのに、放したことやほどいたことの悲しみにこだわって、なにも見えなくなる。

 

 

思い出して。

わたしと星とがどんなふうに見つめあっているか。

 

 

部屋を出て歩きはじめて最初に見える星。

金星なのかも知れない。

水星かも知れない。

天球の外側から誰かが突いて穴を開け、光をこぼしているようにも見える。

 

 

Look at me, look at me, look at me,

 

 

わたしを見て、ここにいるわ。

 

 

Look at you, look at you, look at you,

 

 

あなたを見て、そんなに素敵よ。

 

 

星はわたし。

わたしは星。

二人はここにいて、光の視線で一つになる。

 

 

 

間に誰かがいたなんて、できごとがあったなんて、壁が隔てていたなんて、時間が経っていたなんて。

悲しむための思い込みに過ぎなかったのではないかしら。

 

 

手をつないで、わたしの右手とあなたの左手。

リボンを結んで、小箱にかけて。

 

 

そしたら散歩にいきましょう。

スターが見つめるその下を、ゆっくり歩いていきましょう。

 

 

 

 

羽生さくる/パーソナルエディター

 

東京都品川区生まれ。

東京女子大学日本文学科在学中からエディターとして仕事を始める。

1988年「部長さんがサンタクロース」(はまの出版)でエッセイストとしてデビュー、「お局さま」の言葉を世に送り出す。

以来、単行本を8冊出版。

現在はエッセイストとして執筆のかたわら、文章教室を主宰。

これまでに指導した生徒の年齢は14歳から88歳までと幅広い。

「自分らしく、自由に」をモットーに、のびのびと自分の文章が書けるように見守りながらプログラムを進めていく。

 

 

 

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