『論理的思考の技法Ⅰ~「ならば」をめぐって~』鈴木美佐子著
を今週読み終えたので、この本について、少し書こうと思う。
書評ではない。
単に、後で見直すための僕なりのまとめだ。
僕が必要だと思うことをまとめ、僕が知らなかった事を記し、僕が興味あることを書く。
なるべく、本書の主旨からズレたまとめにはしたくないが、限界はあるだろう。
第1章第1節
問題①
『動物の生活集団の大きさは、その動物がとる食事と強い相関関係にある。食事は動物の歯と顔のサイズと形に大部分依存している。
上記の文から導出できるものとしてもっとも適当な文は次のどれか。1つだけ選べ。
⑴肉食動物は草食動物に比べ、比較的小さなグループを構成する。
⑵多様なものを食べる動物は、1、2種類の食物だけを食べる動物より体が頑丈だと考えられる。
⑶群れの中の動物が加齢や怪我で歯を失うと、群れの後部で移動するようになりがちだ。
⑷動物の顔のサイズと形に関する情報は、その動物がどの種に属するかを識別するのに必要なことのすべてである。
⑸絶滅した動物の歯と顔のサイズと形に関する情報によって、その動物が群れをなしていたかどうかがわかる。』(LSAT、1995、p16)
簡単な問題である。念のため、解答は最後に記しておく。
導入部らしく、「論理的」とは『主張を述べた文と理由を述べた文が「もっともな」「出てくる」関係にあること』と定義して、上記の問題を丁寧に解説している。
第1章第2節
論理的である、ということと、感情的であるということは、必ずしも排斥関係にあるわけではない。「私はコーラが好きだ。私は好きなものを注文する。だからコーラを注文する。」という筋道は、感情的でありながら、論理的である。
矛盾は「一方から他方が出てくる関係にない」から、「論理的」ではない。
第1章第3節
問題②
『1990年以前に、アメリカで作られた船舶エンジンは、海洋汚染の重大な原因である。しかし90年に政府は船舶用に作られるエンジンに厳しい汚染管理基準を課し、95年の初めに、90年以前の船舶エンジンをさらに厳格な汚染基準で監視するプログラムを課した。古い船舶エンジンはこの監視をパスするのが難しいので、船舶所有者は古いエンジンを廃棄し、ほとんど汚染のない新しい船舶エンジンを購入するようになった。それゆえ、海洋汚染はこれから確実に減る。
下記の文が正しいとすると、上記の論証に決定的な反論となるのはどれか。
⑴どこの国の船舶が汚染したか確定できないのは、海流が何千マイルも移動するからである。
⑵90年以降に作られた船舶エンジンは、古くなっても90年以前に作られたもののように海洋を汚染することほとんどない。
⑶船舶所有者が古いものを廃棄し新しいエンジンを求めた場合、古いエンジンは海外のあまり厳しい汚染基準のない国へ輸出されることが多い。
⑷政府の船舶エンジンの汚染基準は98年までどんどん厳格になったが、それ以降基準は同じままである。
⑸船舶の需要が増大すれば、古いエンジンが廃棄されているという事実にもかかわらず、海洋汚染は増え続けるだろう。』(LSAT、LA、2001、p276)
これも簡単である。念のため、回答は最後に記しておく。
ここで疑問に思うのは、論理トレーニングをしていない人は、この程度の問題につまずくのか、ということだ。僕は、曲がりなりにもロースクール入学の際、適性試験の勉強をした。だから、僕が難しいと思う論理テストは、論理トレーニングをしていない人にもきっと難しく感じるであろう。しかし、僕が簡単と感じる論理テストについては、論理トレーニングをしていない人にとってどのように感じるかは分からないのだ。(実際、どうなんですかね?)
第2章第1節
いよいよ、本書の主テーマである「ならば」を扱う。
まず、日本語一般の語用として「ならば」は、①原因・結果、②手段・目的、③規則…など、様々な意味や状況で用いられる多義語である。
論理学の「ならば」とは、多少意味合いが異なる。
第2章第2節
問題③
『テーブルに4枚のカードが置かれている。片面には文字、片面には数字が書かれている。あなたから見えるのは「知」、「キ」、「8」、「17」である。「漢字の裏は偶数だ」という仮説が正しいかどうか確かめるには、最低どのカードをめくる必要があるでしょうか」(三浦俊彦『論理パラドクス』p12)
これは間違えた(笑)。解答は、一番下に記す。
本節は、裏、逆、対偶の説明をする。中学で習い、適性試験で改めて学んだ、論理の基礎である。命題が真なら、対偶も真。裏・逆は必ずしも真ではない。
「おおらかな人は太っている。彼は太っているから、おおらかだ」。
「部屋が綺麗な人は、頭がいい。それゆえ部屋が綺麗じゃないお前は頭が良くない」。
この手の間違いは、僕の親父がよくする。そんな父親との会話は、僕がもっとも苦手とすることのひとつである。
第2章第3節
問題④
『牧場主はみんな長い冬を嫌う。スキー場所有者は、冬が長いと収益が上がるので長い冬を好む。スキー場所有者になるためには法律家でなければならない。法学部以外では、法律の勉強はできない。法律家を顧問にしていない牧場主はいない。
上記の文が正しいとき、次のどの結論が引き出されるか。1つ選べ。
⑴長い冬を嫌う人は牧場主である。
⑵牧場主は長い冬を好む人を顧問にしない。
⑶法学部出身者以外にスキー場所有者はいない。
⑷長い冬を嫌う人は法律の勉強をしていない。
⑸法学部出身の牧場主はいない。』(LSAT、1995、p15)
これも簡単である。答えは最後に。
推移性とは、AならばB、BならばC、ゆえにAならばCとなる関係のこと。
第2章第4節
問題⑤
『「中身と分離したときに不要にならないものは、容器包装ではない」と同じ意味になるものを次のうちから1つ選べ。
⑴中身と分離したときに不要になるものは、容器包装である。
⑵中身と分離したときに不要になるものは、容器包装だけである。
⑶中身と分離したときに不要になるもののみが、容器包装である。
⑷容器包装でないものは、中身と分離したときに不要とはならない。
⑸容器包装だけが、中身と分離したときに不要になる。』
これも…簡単…え?ちょっと待って。いやいや、違う違う。大丈夫、わかるわかる。えっと、待ってね。うん…わかんない。
この「~のみ」や「~だけ」の言葉は、適性試験の頃から、ずっと苦手だった。
本節では、この点について解説。ありがたい。
「AだけB」は「AでないならBでない」「BならばA」
「AはBのみ」は「BでないならAでない」「AならばB」と整理できる。
「事前申込者のみが入場できる」は「事前申込みしなければ入場できない」。
「僕が愛しているのは妻だけ」は「その女性が妻ならば、僕は愛している」。
また、以下の場合には、ベン図も有効である。
問題⑥
『次の2つの前提から結論を導出するのは正しいか調べなさい。
前提①大国が他国へ干渉してはならないと自覚するときのみ、世界は平和でありうる。
前提②大国同士が友好的に話し合えるときのみ、他国への干渉をしてはならないと自覚できるだろう。
結論:世界が平和でありうるのは、大国同士が友好的に話し合いを進められるときだけである。』
第2章第5節
お馴染みの「かつ」「または」とド・モルガンの法則。論理学の基礎について説明。
第2章第6節
問題⑦
『5人の容疑者A、B、C、D、Eに関して、次の1~4が知られている。この4つの情報から結論できることを⑴~⑸から選べ。
1、AとBが共犯ならば、Cは犯人ではない。
2、AとDが共犯ならば、Cは犯人ではない。
3、BもEも犯人でないならば、Aは犯人ではない。
4、Eが犯人ならば、Dも犯人である。
⑴AとDは共犯ではない。
⑵AとCは共犯ではない。
⑶CとDは共犯ではない。
⑷CとEは共犯ではない。
⑸BとEは共犯ではない。』
これは、32通りの真理表を書けば解けるので、簡単ではあるのだが、出題者の意図としては、対偶や背理法を用いて、解いて欲しかったようだ。
第2章第7節
問題⑧
『LSATのために1日4時間勉強すれば上位10%の成績が取れるだろう。上位10%の成績をとっている者だけが、ハーバード・ロースクールの学生である。したがって、ハーバード・ロースクールの学生であるサラは、少なくとも1日4時間以上勉強したに違いない。
上記の問題文で行われている論証の欠陥を指摘した文は次のうちどれか。
⑴ハーバードの学生の多くが1日4時間以上勉強していることを考慮していない。
⑵調査の結果、1日3時間以上同じ科目を勉強することが逆効果になりうると判明したことを考慮していない。
⑶1日4時間未満しか勉強していない人々が上位10%の成績を取れるということを考慮していない。
⑷1日3時間以下の勉強ではハーバードに入れないということを考慮していない。
⑸1週間に8時間の勉強時間を追加することはほとんどの大学生にとって不可能な重荷になるということを考慮していない。』
問題⑨
『①泣き虫ならば芯が強くない。
②短気でないなら芯が強い。
③忘れっぽいものだけが短気である。
①~③が正しいとき、以下のことは正しいか。
⑴忘れっぽくないものは泣き虫でない。
⑵芯が強い人は忘れっぽくない。』
本書を読む前なら、5分くらいかかったかもしれないが、「AだけB」は「BならばA」であることをもとに、ベン図を作成すれば30秒で解けるようになった。
第3章第1節
反論の技術についての説明がある。
友人と議論をしている時、時々「議論がかみ合わないな」「はて?なぜこの人は、ここにこだわるのだろうか?」と思うときがある。
その一つの原因がわかった。『私達はすぐに反論というとすぐに、その主張や根拠が事実なのかと考え、その謝りを指摘しがち』なのだ。
「ソースを疑う癖がないよね」「その統計、偏りがあるんじゃない?」「脳科学なんて歴史が浅いから、脳科学者の言うことなんてアテにならない」など。
確かに、誤った情報をもとに議論を構築するのは危険だが、根拠やデータの信頼性が争点になると、議論の勝敗は泥沼になりやすい。そういうときは、「仮にその根拠やデータが正しいと仮定しても」、相手の主張の論理上の問題点を指摘すれば、完封勝利にできる。だから、根拠やデータの信頼性については、最後の手段なのである。
そういうわけで、最初から根拠やデータに噛みつかれると…「全然話が先に進まない…議論しづらいな…」と感じてしまうのだ。
例えば
『クジラは知能が高く、それゆえ特に保護するに値する動物である。早急に保護政策をとらなければ絶滅の危機を招く恐れがある。それゆえ商業捕鯨は全面的に禁止すべきである。』
という主張に対し、
「本当にクジラは知能が高いのか」
「本当に絶滅しかけているのか」
という根拠やデータに関する反論は有効とはいえない。
また
「捕鯨は、文化であり、文化を禁止すべきではない」
などという相手の主張と関連性の乏しい「異論」も有効とはいえない。
あくまで相手方の主張にのっとって、相手方の土俵で戦い、きれいなカウンターを見舞い、完封勝利すべきなのだ。
すなわち
「知能が高いから保護すべきとは限らない」
「絶滅の危機にあるとしても、直ちに商業捕鯨を全面的に禁止するべきとは限らない」
と、相手方の論理の飛躍を突くわけである。
といっても、正しい反論をすることは難しいことだと感じた。正しい反論は相手の主張を正しく理解しなければならないからである。しかも、それが口頭での議論であれば、相手の主張も不正確だったり不明確だったりするはずで、相手の主張を正しく理解するのは困難を極めるだろう。
いつか、専門書を読んで「反論の技術」を学びたいと思う。
第3章第2節
「嘘つき」の否定は、「正直者」ではなく「嘘つきではない」。嘘もホントも言わない無口かもしれない。
「正しい」の否定は、「悪い」ではなく「正しくない」。正しいとも悪いとも言えないグレーの人かもしれない。
論理学では、これが重要な意味を持つ。
第3章第3節
矛盾律とは、命題pについて「p」と「pでない」の両方が真であることはない、という原則。
排中律とは、命題pについて「p」と「pでない」のいずれかは真である、という原則。
まとめのまとめ
時間を忘れて読むことに没頭した。僕は、やはり論理テストが好きなんだと再認識した。また、いい気分転換になっただけではなく、司法試験の論文にも、推移性や必要条件、十分条件、対偶などは、判例の射程を問う問題や基本概念を丁寧に説明させる問題(特に民訴)に、活用できると感じた。
本書で掲げられた、①内井惣七『いかにして推理するか いかにして証明するか』(論理パズルの練習問題)、②戸山田和久『論理学をつくる』(練習問題を解いていくだけで論理学がマスターできる分厚い教科書)、③オールウド・アンデソン・ダール『日常言語の論理学』(命題論理学と述語論理学の標準的な教科書)、④香西秀信『反論の技術』(豊富な文例を示して、反論のポイントを解説)は、是非そのうち読みたいと思う。
正解
問題①→⑸
問題②→⑶
問題③→「知」と「17」
問題④→⑶
問題⑤→⑶
問題⑥→正しい
問題⑦→⑵
問題⑧→⑶
問題⑨→⑴正しい⑵正しくない