俺は小学生時代からの旧友の小渕の家に毎日のように入り浸っていた。正直、趣味は全くと言っていいほど合わなかったのだが、旧友の家はなぜか居心地がよかった。「ドラクエの発売日だ!ヨドバシに並ぼうぜ~!」などと言われた際も、俺は買わないのだが、2時間以上の行列に付き合ったことがある。俺はよくそいつの家にファッション雑誌を持って行って一人で見ることが多かった。

 

その友人がファッションに興味がなかったからだ。ホットドックプレス、ブーン、チェックメイト、メンズノンノ、ファインボーイなどが多かったかな?毎月適当に5冊は買っていただろう。正直な話、この手の雑誌に載ってる読者モデルのスタイルはあまり気に入らなかった。ボトムのライン、上下のバランス、全体のトータルコーディネイトと言えばいいのだろうか?一体何でこれでファッション雑誌に載れるのだろうかと、常々疑問に思っていた。

 

小渕もたまに覗いては、「こいつのカッコ変だよな~」等と、たまに口をはさんでいた。正直な話、俺も変だと思っていた奴だったので、「うん、この上着にこのボトムは無い。無理やりのモッズ感が俺的にはNGかなぁ?」などと話していた。モッズコートがあまりにもテロンとしていて、肩幅に合っていないのか、ボトムはビンテージっぽいジーンズだったのだが、サイズが合っていない感じで、すごくダサく見えた。

 

「まぁ、小淵君、人の事もそうだが、自分自身のコーディネイトそろそろ気にしないとまずい時期だよ~」と俺は言ってみた。高校生だというのに、安売りのジーンズショップで全身コーディネイトしていたからだ。俺から見ると小淵の服装は、中学生までのスタイルだと思っていた。正直、ファッション雑誌のモッズさんよりダサかった。小淵とは一緒にバイトもしていた仲だったので、金銭的な余裕はあるはずだった。

 

「いや、俺ってファッション雑誌みたいなカッコ気に入らないんだよね~」と小淵は言ったので、俺は反論してみた。「いや、悪いのは読者モデルのせいだよ。読者モデルも単品アイテムで見ると、いいもの着てるんだけどね、なぜだか全体のバランスが悪い。こればっかりは本当に毎回見てて思うんだよね~」そして、俺は言った「小淵、そろそろ高校生らしい服装しよう!俺が一体何のために、毎回ファッション雑誌を持ってきてると思う?小淵にもそろそろファッションに興味持ってほしいからなんだよね」

 

と、俺が言ったのだが、小淵は正直乗り気じゃなかった。そこで俺が、説明した。「あえて言おう!今のご時世で、絶対着てはならない3種の神器がある。セカンドバック、ストーンウォッシュのスリムジーンズ、蛍光色の紐のスニーカーだ!因みに、小淵君、君は全て持っているね。悪いことは言わないから、その3種は永久に封印すべきだ。小淵君じゃなかったとしたら、俺は友人辞めようかと本気で思うレベルの品物だよ」

 

「これってかなりまずいの?」と小淵が聞いてきたので、「うん、ありえないね~。ファッション雑誌のどのダサい人間見ても、誰も持ってないでしょ」と言うと、小淵は納得してくれた。「でもどんなカッコしていいか正直分からないんだよね。ファッション雑誌の読者モデルって、服高そうなのにダサいし」と言われたので俺は「とりあえず、安値でいくなら手始めにアメカジかな?」正直、小淵は外見はカッコよくない。

 

身長も低くてやせ形だった。俺は迷ったのだが、「ニューバランスのハイテクスニーカーに、アウターにN2Bか、N3B、ここは奮発してアルファのやつね。で、ジーンズはリーバイス辺りのセカンド品のストレートのワンウォッシュ。がお勧めかな?」と言ってみた。すると、小淵は、「俺スニーカー買うなら、ナイキがいいなぁ」と言った。うん、ナイキでも悪くはないんだ。センスさえあれば・・・。

 

小淵は恐らく、ド派手などんな服にも合わないようなスニーカーを選ぶだろうと、この時点で分かっていたんだ。だから外れの無いニューバランスを勧めたのだが…。そして、小淵のファッションは若干変わったのだった。予算の都合も合ったのだろうが・・・まず、アウターにまがい物のN2B。生地が恐ろしいほど薄くて、安っぽかった。ジーンズはLEEの太目のセカンド品ワンウォッシュストレート。これは、俺的には割といい買い物だと思った。で、問題のスニーカーなのだが、メロンみたいなデザインの、俺の悪い想像を上回る一品だった。

 

身長的に、N3Bより、N2Bを選んだのは良かったかもしれない・・・。だが、安物感が半端じゃなかった。そしてスニーカーだ。俺は見た瞬間言葉を失った。俺自身、このスニーカーに合わせられる物を見つけられる自信がなかった。しかも一番の高額品とか、まぁ、3種の神器を持っていた頃に比べればマシなのだが。とりあえず、ジーンズゲットを喜ぶべきだろう。そこから派生させていけば、多少はまともになっていくはずだ。

 

「これどうかな?」と小淵に聞かれたので、「ジーンズだけは合格」と正直に説明したのだが、スニーカーに余程思い入れがあるらしく、がっかりしていた。果たして彼のセンスを向上させるにはどうするべきなのだろうか?この後、小淵のバイク仲間のさらにセンスのない人たちが集まることになったのだが、俺は、同じように皆に説明して、全員、徐々に変わっていったのだが、何故かジーンズ以外はハズレを選ぶのだった…。

 

スニーカーは、何故かナイキが好きらしく、コンバースは履きずらくて、ニューバランスは値段のわりに、地味すぎて好きじゃないらしい。革靴は当然のように履きたがらない。まぁ、個人の個性で俺の口出すことじゃないな。とは思っていたのだが、ナイキの派手な奴は本当に合わせにくくて困ったものだった。俺はこの件でナイキが大嫌いになった。アウターも高いものには手を出しずらいらしい。安めのアメカジで揃えようと思ったというのに…。

 

まぁ、全員3種の神器を捨ててくれたので、多少は進歩があったと言ってもいいだろう。俺の持ってきてるファッション雑誌を見ても、値段がありえない。と言うし、「値段抜きにして、外観を真似るだけでも多少はマシになるよ」と俺が言っても、「マネはなんか嫌だ」と言い出す始末だ…。そしてそのまま、月日だけが流れ、誰もファッションセンスが向上することはなかった。

 

そんな時に、俺は言った「今度女子高の文化祭に招待されてるんだけど、正直な話、今のままの服装だと誰も連れて行きたくないんだよね~。俺みたいな服装は高すぎて揃えられないだろうから、せめてアメカジでまともに着こなしてくれればって思ってたんだけど」と言ったら、小淵が「女子高の文化祭、行きたい!よし、服を買いに行こう」と言い出した。「で、予算はいかほどでお考えでしょうか?」

 

と、俺が聞くと、「1万円程度で」と答えた。正直、少し肌寒い10月だったのでアウターは安めでもいけるかな?と俺は考えた。スニーカーは、もうどうにもならないセンスだったので、あきらめるとして、ジーンズは前回の一件以来、マシになっていたので、「よし、その1万で薄手のアウターを買おう」と言った。俺は、正直な話、アメカジは苦手だった。手始めと言うか、小淵が、ここ以外に買いに来ない安売りジーンズショップでそれらしいものを探したが、正直ろくなものがなかった。

 

「俺がこの店でどうしても1万円で選ばなければならないとしたら・・・アルファのMA1しかないな」と言ったら、小淵は「これ?」とシルバーのMA1を持ってきた。「なんでシルバー選ぶんだよ~!グリーンだよ、グリーン」と言って、グリーンを試着させた。やはりスニーカーが浮いているが、他はアメカジっぽく整って見えた。「ん~、やはりそのスニーカーが問題だな」と俺は言ったが変える気はないらしかった。

 

俺は妥協して、「よし、そのカッコなら文化祭いってもいいかな?」と言ったら、小淵はグリーンのMA1を購入した。そして俺と小淵は2人で女子高の文化祭に行った。正直、女子高の文化祭に来るのは俺も初めてだった。同じバイトの子が「文化祭に友達誘って来てね~」と言ったのでとりあえず来てみたのだが、ちょっと緊張してしまう。

 

俺は小淵に合わせようかとも思ったのだが、普段着慣れている服を選んでいた。全身アニエス・ベーだ。俺と小淵で並んで歩くとやはり違和感があったが、俺はアメカジ姿じゃ落ち着かなかったので、正解だったかな?と自分では納得していた。そして俺には、周りの人間を気にする特技があった。周辺の人達の会話を無意識に聞いてしまうと言う特技だ。

 

2人組の女の子とすれ違った直後だった。「今の背の高いモノトーンの人、超カッコよくなかった?2人組だし、声かけてみる?」「でも、もう一人の背が低い方のMA1の人微妙だったよ~」と聞こえてしまった。俺は声をかけるべきか一瞬悩んだが、スルーすることにした。するとその2人は会話しながら先へと進んでしまった。

 

俺は「とりあえず、知り合いが喫茶店やってるらしいから、そこ行って休憩しよう」と言うと、小淵も納得して、2人でその喫茶店をやってる教室に入った。「ヤッホー、ダダさん来てくれたんだ」俺が喫茶店に入るなり、その知り合いの由紀ちゃんが声をかけてきた。「約束だからね~。友人も連れてきたよ。小学生時代からの旧友で小淵だよ」俺がそういうと、小淵も「よろしく」と一言だけあいさつした。

 

その後、由紀ちゃんが何か言うかな?と思ったのだが、特に何も言わず、注文を聞いてきた。「俺はとりあえずコーヒーで、小淵もコーヒーでいい?」と聞くと頷いたので、「じゃあ、由紀ちゃんコーヒー2つお願い」と言うと、「了解~」と答えて厨房の方へと向かった。小淵は「やばい、めっちゃ緊張するね。由紀ちゃんってかなり可愛くない?」と言った。

 

「ん~、普通じゃないかなぁ?ウェイトレススタイルで2割増しくらいになってるのかもね~」と、他に聞こえないように呟いた。「っていうか、小淵が女子に免疫なさすぎなんだよ」と俺が言うと、「それはある。正直、女の子みんな可愛く見えるし」と認めた。俺はいつもの癖で、周囲の会話を聞いていたのだが、俺に対してのいい噂と、小淵に対しての微妙な噂が例のごとく聞こえていた。

 

正直、隣のテーブルの女子2人に声かけたらどうなるかな~?などと考えていたのだが、小淵は小淵で、周辺を眺めていた。小淵には、俺に聞こえる噂が聞こえているのだろうか?「俺の事をあの人カッコよくない?」と言う噂と、「もう一人がチョットね~」と言う噂だ。俺が声かければとりあえず、男女4人のペアになれるかもしれなかったが、一人ハブられる小淵の姿が想像できて、声をかけれなかった。

 

とりあえず、コーヒーを飲んで、由紀ちゃんに別れの挨拶をして、その他にもいろいろ回ったのだが、特に男女の進展と言うものは無く、それなりに文化祭を楽しめた。小淵的には、ある程度満足だったらしい。まぁ、女子高の文化祭と言う貴重な体験ができた訳だし。これで良しというべきだろうか?俺は「正直な話、声かければ付いてきそうな女子5人は居たよ」と言ってみたら小淵は驚いていた。

 

「何でわかるの?」と聞いてきたので、「俺の事、カッコいいって言ってた女子、数えてた」と言ったら、「全然気が付かなかった。それなら声かければ良かったのに」と言ったので、「だけど、小淵の事、微妙って言ってたからちょっとね」と正直に説明すると、小淵はかなりへこんでいた。「MA1意味なかったじゃん」と小淵が言ったので、

 

「いや、MA1は意味があった。だから微妙ですんだんだよ。正直3種の神器装備で来てたとしたら、微妙じゃなくてキモイって言われてたはずだからね。俺の服装は正直、今流行りのブランド物で固めてて、美容室で髪切ってもらってて、これで微妙とか言われてたら、終わってるからね。応急処置的な安値のアメカジで微妙なら、もっとファッションにこだわれば、カッコいいって言われるようになるよ・・・たぶん・・・自信ないけど」

 

俺がそういうと、小淵は考え込んでしまった。「元が悪ければ何着ても無駄って事?」と小淵が言ったので、「そんな事はない。少なくとも3種の神器装備の人間だったら、俺は文化祭に誘いすらしないよ。例えば、小淵が全身、今流行りのブランド物で固めてて、美容室で髪切ってもらってたとしたら、俺は女子に声かけてたよ」まぁ、その後は分からないけどね。

 

「うん、一回現実を知るために、女子2人に声かけるべきだったかなぁ?」と俺が言うと「現実って」と小淵が聞いてきた。「俺だけが女子2人に色々質問攻めされて、小淵がまったく相手にされないと言う状態」と俺が言うと「いや、その現実は嫌すぎる。その説明だけで良く分かった」と小淵が言った。

 

「とりあえず、話術もあればいいんだけどね。小淵ってバイク以外の話題で会話できる?」と聞くと、「無理だなぁ」と答えた。「それが問題なんだよ。ファッションは第一印象で、微妙なら挽回のチャンスはあるんだけど、話題がないんじゃ正にお話にならない。その話題の為の知識の引き出しとしてファッション雑誌を俺なんかは読んでるんだけど」

 

愛読書「バリバリマシン」の小淵君には厳しいよなぁ…。そうして、文化祭も終わり、季節も過ぎた訳だが、小淵のファッションセンスは一向に向上されずに、話題も増えずに、俺とは疎遠になっていったのだった。個人的には今のユニクロって昔で言う、安物ジーンズショップと大差がないように思うのだが、まだマシなのだろうか?