俺たちは高校の修学旅行で、長野のスキー場に来ていた。俺が通っていた高校は、共学だが、いわゆるヤンキー高校と言われる、周りの高校生にその学校に通っていると言うだけで恐れられるような学校だった。制服は学ランなのだが、標準服を着ているとオタク扱いされ、蔑みの目で見られるのだ。

 

なので、その当時は、下に着ているYシャツが見えるくらいの短ランに、カボチャみたいなボンタンと言われるズボンをはいていた。モモのあたりだけ異様に広がっているズボンだ。そして、ほとんど全員が、改造したバイクで通学していて、走り屋と言われる集団がクラスに沢山あった。

 

俺は一応、電車通学で、当然、走り屋には入っていなかった。その学校はとてもひどい学校で、突然雨が降ってきたりすると、近所の住民からカサが盗まれる苦情が大量に来るような学校だった。因みに今は廃校している。まぁ、おかげで俺はその高校出身でも今はホッとできるのだが。

 

俺は、学校と普段着で完全に仕分けしていた。学校に居る時は、ヤンキーに合った服装で、日常では、ファッション雑誌に載っているような服装だった。一応、原付の免許も持っていたので、普通のスクーターに軽く目立たないステッカーを張る程度で、スクーターの改造費に回すくらいなら、普段着る洋服を増やす性格をしていた。

 

そんな俺が修学旅行と言う事で、学ランではない普段着を他のクラスの仲間に見せることになった訳だが、やはりと言うか、かなり浮いていた。当時の俺は、アメカジの汚れた感じのカッコよりも、ショップ店員のようなアニエス・ベーの方がカッコいいな。などと思っていたこともあり、モノトーンなスタイルだった。

 

周りの仲間は、バイクの改造費にお金をかけているので、当然私服にはお金をかけない。修学旅行だというのに俺は、明らかに場違いだった。まぁ、女子には、「その服カッコいいね」とか言われたりしていたのだが、その女子も髪の毛が青かったり、真っ赤だったりと、普通じゃない女子だったりするのだが。

 

とりあえず、長野に着いて旅館に入って持ち物検査にひっかかりその場で強制送還される奴も5~6人居た。タバコ程度なら、黙認されてしまう恐ろしい学校なのだが、シンナーの瓶を持ってきてるやつらがここでは強制送還された。着いて早々、地元民とカツアゲ目的で、喧嘩を始める奴らもいた。

 

俺は、オタクではなく、それでいてなるべく派手な行動をしない仲間とつるんでいた。おかげで、服以外ではあまり目立つことはなかった。「ダダ君、センスいいね」と通りかかるヤンキー女に声をかけまくられたりもしたのだが。俺は内心、お前らも服に気を遣えば可愛くなるのになぁ。などと考えていた。とても、怖くて口には出せなかったが。

 

そして旅館の部屋に着くと、2階からごみを捨ててる奴らがいた。俺が上を覗くと、さっき「ダダ君、センスいいね」と言っていた女子メンバーだった。俺は「コラー!ゴミ捨てんな~!それよりお菓子くれ、お菓子」と言うと、2階からお菓子が降ってきた。俺がそれを空中キャッチで口に入れ食べていると、他の同室男子メンバーも仲間に加わり「鯉に餌上げてるみたい」と女子が大笑いしていた。

 

そして、「ご馳走様~ありがとね~」と女子に礼を言って、スキーの準備に取り掛かった。スキー服さえ来てしまえば、全員一緒だ。俺は周りから浮く事もなく少し安心していたのだが、リフトに乗る際に、人数の都合で自分だけ外れてしまった。自分の横には他校の、かなり可愛い女子生徒が乗っていた。

 

俺は「どうも~よろしくね。横浜から修学旅行で来たダダって言います~。良かったら名前聞いてもいいかな?」とつい声をかけてしまった。すると彼女は「私は大阪から修学旅行で来た飯島 真由です」と答えた。「真由ちゃんか~スキーって上手なの?」と俺が聞くと、「ん~、なんとかハの字で滑れる程度ですよ」と照れながら答えた。

 

「じゃあ、俺教えるから一緒に滑らない?まぁ、俺も教えられるほど上手いかって言われると微妙なんだけど~」と言うと、彼女は笑って「じゃあ一緒に滑ろう」と言った。そして、うちの高校は本来、団体行動の時間だったのだが、俺一人外れて、別の場所で滑っていた。「おぉ~真由ちゃん滑れるじゃん、上手、上手」と言った感じで2人で滑っていてとても楽しかった。

 

2時間くらい2人で話しながら滑っていただろうか?だが、お互いの学校の捜索部隊に発見され、俺も真由ちゃんも、強制連行されてしまった。その後、真由ちゃんとは出会っていないがどうなった事か…。俺は先生に軽く説教された程度で済んだのだが。未だに覚えている楽しいひと時だった。25年くらい前の話だけど、今だったら、メアドくらいは聞けてただろうなぁ。

 

果たしてネットの進化はいい事なのだろうか(笑)