彼女は快くOKしてくれた。正直、サイトだけの関係でお互い顔も知らない関係だった。映画は無難な流行りものと言う事で、ミッションインポッシブル2にした。一応、男たちの挽歌の監督のジョン・ウーが制作とのこともあり、アクション映画なら会話も弾むだろうと思ったのだ。

 

そして東京駅での待ち合わせで、2人は困ることになった。お互い携帯で、「どこ~?居ないよ~」と10分ほどやり取りする事になったのだ。おかげで出会えた時は嬉しかった。しかし、俺は服装失敗したかな~?と少し後悔していた。彼女は普通の地味なファッションだったのだが、俺は、いわゆる綺麗目なフレカジっぽいスタイルだった。

 

一応、自分では地味に抑えたつもりだったのだが、全身アニエスで固めたモノトーンで、ファッションショップの店員さんみたいなスタイルだった。その為か解からないが、彼女はめちゃくちゃ緊張していた。「あ、あの?ダダさんですよね?こ、こんなカッコいい服着てて、わ、私、こ、こんな普段着で来ちゃって、あ、あの・・・」といった具合だった。

 

「いや、湖さん(サイトでの彼女のハンドルネーム)十分可愛いよ。俺がちょっと気合入れすぎちゃったみたいだね」俺は普段はもっと派手だったりするのだが、言い出せずに、そして、「えっと、まずは喫茶店でお茶でもしよう」そう言って湖さんを喫茶店に誘った。そして、俺はコーヒーを頼み、湖さんは紅茶を頼んだ。

 

湖さんは真っ赤な顔をして、あまり俺と目を合わせようとはしなかった。うん、これは緊張を解かないと会話すら出来ないな。俺はそう思い、「これ、フェイスオフって小説なんだけど、俺が大好きな映画でつい、小説も買っちゃったんだけど、湖さんを待ってる間に、読み終えちゃったんだよね。よかったらあげるよ」俺がそう言って小説を渡すと、「あ、あの、あ、ありがとう、あの、よ、読んでみます」とぎこちなく答えた。相変わらず顔は真っ赤だ。

 

そこで、湖さんの好きな話をしようと思いたった。「えっと、ゴットギャンブラーってあるでしょ。あれのチョウ・ユンファって大変そうだったよね。チョコ食べるの。あのチョコって東京で買えるのかなぁ?」俺がそういうと、多少は反応したものの、うつむいた感じで「え、えっと、解らないです」と答えた。

 

そこに、注文したコーヒーと紅茶がきて、事態がさらに悪化しだした。俺は普通にブラックで飲んでいたのだが、湖さんの緊張はピークだったらしい。「あ、あ、あの、わ、私、あま、甘党だから・・・」と言って紅茶に砂糖を入れまくっていた。その量が尋常じゃなかった。一般の6gシュガーで換算したら10本分くらい入れてただろうか。

 

すると、周りにいた女性客の一人が、友人らしき女性と、「何、あの女のあの砂糖の量、ありえなくね」と呟いてるのが聞こえてしまった。そこで、俺は「湖さん、そろそろ映画見に行こうか」と湖さんの手を引き、呟いていた女性とすれ違いざま、湖さんには聞こえないように、「悪口は聞こえない場所で言え」と、一言だけ忠告して喫茶店を後にして、映画館へ向かった。