ナンパスポットから離れた際、岩本が疲れ気味だった事もあり、佐々木と運転を交代していた。そして、全員をなごませることも念頭に置き、一応の自己紹介をさせた。彼女は佐藤瞳と名乗った。カラオケが好きらしい。「じゃあ、下の名前で呼んでいいかな?瞳ちゃんよろしくね」俺がそういうと、彼女は微笑みながら頷いた。そして、ドライブも大体行く当てもなく、俺と瞳ちゃん以外の会話がなかった事もあったので、「よし、今からカラオケ行かない?お前らも、もう、カセットの曲歌えるだろ」


俺がそう言うと、全員一致でカラオケに向かうことになった。「とりあえず、運転手が可哀想なので、酒は禁止の方向で」と俺が言うと、「瞳ちゃんは飲んでも良くない?」と佐々木が言い出した。こいつは一体、瞳ちゃんだけ酔わせて何をするつもりなんだ?俺は、半ば呆れていたのだが、瞳ちゃんは、「私もお酒は遠慮しようかな~?」と俺の意見のほうに賛同した。なるほど、男4人に平気でついてきた割には、多少ガードは堅いらしい。俺は少し見直していた。


そして、車で聞いていたカセットの曲を俺が片っ端から入れまくり、みんなで交代で歌いまくった。俺が思っていたよりは、全員ちゃんと歌えていたので内心ホッとしていた。カセットの曲を全て歌い尽したので、「よし、ここからは点数バトルしよう!曲は何でもありで、得点の低かった2人でここのお代割り勘って事でどう?」俺は瞳ちゃんがそこそこ上手だった事もあり、俺自身、絶対負けない自信があったのでそう提案してみた。


すると佐々木が、「よし、面白そうだ!それでいこう」と乗ってきて、他の2人も同意した。この時点で俺は、こいつ等の上下関係がわかった気がしていた。佐々木の言うことに2人とも従うのだ。そして歌う順番は、じゃんけんで決めた。順番は、岩本、瞳ちゃん、佐々木、横山、俺の順になった。と言う訳で岩本から順番に曲を入れていった。俺は皆が入れていった曲を見て、ホッとしていた。


よし、あまり変な曲は入ってないな。3人は多少古めの曲ばかりだったが、瞳ちゃんが嫌がるような怪しげな曲が無い事に、心底ほっとしてる自分がいた。瞳ちゃんが入れた最近の女性のバラード曲はたぶん俺以外知らないだろうな~。とは思ったのだが。そして、岩本が歌い始めた。正直あまり上手ではない。そして採点結果は74点だった。俺は内心、よし、まず岩本のおごりは確定か。と少し笑ってしまった。


次に瞳ちゃんが歌いだした。ん、上手いな。これは90点台いくかも?しかも俺が結構好きな曲だったので、ちょっと聞き惚れてしまった。しかし、ほかの3人はやはり知らない曲のようだった。そして採点結果が出た。90点だった。「おぉースゲー!」3人は驚きの声を上げていた。「俺、この曲好きなんだ。すごく良かったよ」俺がそう言うと、瞳ちゃんは、笑いながらガッツポーズをした。次は佐々木の番だ。


90点を出した瞳ちゃんの後だ。佐々木は「瞳ちゃんの後、歌いずらいな~」と、ぼやいていた。「下位2名にならなきゃいいんだよ~。気楽にいけ~!」俺が内心、心にもないことを言ってやったら、佐々木は少し笑っていた。そして佐々木の曲が終わり、採点が出た。80点だった。「ん~、まぁまぁかな?」正直俺は、これで100%俺のおごりの線は無くなったな。と心の中で笑いながら、「瞳ちゃん、タダ確定おめでとう~!」と賛辞の声を上げた。そして次は横山の番だ。これで誰のおごりかが決まるな。と思っていた。


曲の中盤まで俺が聞いていて、横山も、2人と大体同レベルな感じだった。ん、微妙だな。誰のおごりになるのかな~?全員、採点に注目していたら、82点だった。「うぉー!2点負けた!」と、佐々木は叫んでいた。「接戦だったね~」俺と瞳ちゃんが2人でそう言った。さぁ、ラストは俺の番か。俺は正直、選曲に本気出しすぎたな~。と、この時点で少し後悔していた。こいつらは知らないが、俺はほかの仲間には、歩くジュークボックスやら、カラオケマスターやらと、巷では言われてたりする人間だった。


俺はカセットには入れていなかった、最近流行の男性バラード曲を歌った。間奏シーンの時点で佐々木が、「おいおい、上手過ぎだろ、なんかもう確定した気がするんだが」とぼやいていた。そして、瞳ちゃんの方を見ると、無言でじっと俺のことを見ていた。そして採点が出た。97点だった。

「おいおい、ふざけんなよ~。本気出しすぎだろ~!どうやったらそんな点出るんだよ!」3人が同時にぼやいた。俺は3人に「まぁ、これが俺の実力だな」と笑いながら言った。瞳ちゃんも「すごい上手だった。めちゃめちゃカッコ良かったよ」と賛辞の声をあげてくれた。そして今回のカラオケは岩本と佐々木のおごりになった。