これも昔の体験談である。自衛隊あがりの旧友の岩本と、その仲間、佐々木、横山との4人のお話しである・・。岩本の4WDの車で静岡まで行き、短期のアルバイトをするとの話で私は同行したのだ。岩本を含む3人とは正直、一緒に歩くのが恥ずかしかった。と言うのも見た目だ。俺から見て、3人の服装のセンスは終わっている。全員頭には似合わない時代遅れのバンダナを巻き、その当時は完全に廃れきっていた汚れたスリムジーンズを穿いて、だらしないネルシャツを着ていた。
因みに当時の俺は、ほかの仲間内でもファッションリーダーとも言うべき存在だった。ファッション雑誌を毎月5冊購入し、友人にファッションの話をするのが大好きで、一部では、「お前って、いつもスーパーモデルみたいなカッコしてるよなぁ」などと言われてたりもしていた。だが、この日は、仕事との事だったので、若干抑えた服装をしていた。パッと見、普通だが、見る人が見れば違いが判る服装と言えばいいのだろうか、俺のズボン一着の値段で、こいつら三人分の上から下までが、全て揃うお値段だったりするのは秘密であるが、一応これでも俺の仕事用に抑えた服装だった。
そして、会ってすぐに、「えっと、その服装で行くの?一応せめてバンダナだけはやめた方がいいかも?」と言ったのだが、「俺たちのポリシーだ」的な言葉を言われたので、まぁ、どうせ仕事に行くだけだ。と自分を納得させ車に乗り込んだ。そして4人を乗せ車は静岡に向かい出発した。車の道中は、俺が用意したカセットテープを聞いていた。その当時の人気のポップスを俺が集めた自信作のカセットだった。だが、3人は「知らない曲ばっかだなぁ」と呟いていた。
「なんでこのカセットの曲、全然知らないんだよ!」俺は思わず吹き出していた。「とりあえず、このカセットの曲、どれでも今、女子にウケるから、一曲だけでもカラオケで歌えるように覚えろ!」俺がそういうと、納得したように、3人は呟き、小声でみんなで口ずさんでいた。そして静岡周辺まで来ると、さんざんリピートされた事もあり、みんな多少歌えるようになっていたのだが、突然、佐々木が、ここからすぐ行ったところに、静岡で有名なナンパスポットがあると言い出した。
俺は思わず頭を抱えた。おいおい、その服装でナンパするつもりなのか?正直な話、俺でさえ一緒に歩くのにかなりの抵抗を感じるというのに・・・。だが3人はかなり乗り気で「行こう行こう」と言い出した。「はんた~い。絶対反対~。早く仕事行こうぜ~」と俺は言ったのだが、他の3人が行く気満々だったので、俺一人の力ではどうにもならなかった。そして、目的地に到着し、車を降りて、歩いて女の子の探索が始まった。
3人は通りかかる女に片っ端から声をかけてはスルーされていた。当然俺はやる気なしモードで、一人で突っ立っていた。そして、あたりの人間観察をしていたのだが、そのすぐそばにいた3人組の男が「なんだあの時代遅れな4人組。気持ちわり~」と呟いてるのが聞こえてしまった。まぁ、他にも数組が同じような目つきで俺たちを見ていたのだが、俺は少しキレてしまった。
思わず思った事を周り全員に聞こえるように言ってしまった。「なんで、俺までセンスのないカスに馬鹿にされなきゃいけないんだ?あの3人組はまともなの一人だけだし、顔に似合わないモード系着てるカスもいるし、小汚いアメカジ野郎に俺の仕事着でさえ馬鹿にされる言われないだろ!」俺が、かなり通る声でそう言うと、先ほど「気持ちわり~」と言っていた俺と目の合った奴が、「まぁ、あの人だけはまともか」と、俺のほうを見て俺に聞こえるように言い直していた。
しかし、俺が見直されたところで、俺の仲間の気持ち悪いと言われてる3人組がナンパに成功することは当然ながらなかった。あれだけ強烈に拒絶されるナンパというのは、人生で初めて見たかもしれない。そこに佐々木が、「ダダも頼むよ。お前の顔なら絶対成功するって」と懇願した。俺は正直4人組をナンパしたとして、ほかの3人に彼らを紹介するのはある種の詐欺のようだと思っていた。そこで、「どんなのでも良ければ、女一人ならナンパしてきてもいいけど」と言った。
すると、3人は「ダダに任せた」と言ったので、「とりあえずお前らはバンダナ外すように」と俺が言うと、3人は仕方なさそうにバンダナを外した。そして俺は、先ほどから少し離れた場所で、ずっと動かずにボーっと景色を眺めている、一人の女性に声をかけた。正直俺の好みではない「ねぇ、何してるの?」俺がそう言うと、その女性は「ん~、暇つぶし」と言った。「へぇ~暇なんだ。もし良かったら、俺の友達の車で音楽でも聞かない?最新のJポップばかり集めた自慢のカセットがあるんだけどどうかな?」
そう言ったら、その女性は俺についてきて他の3人を見たら驚いていた。「えっと、この3人とあなたってどんな関係なの?」と言われたので、俺は「これから一緒に仕事をする予定の友人」と答えた。因みに他の3人はすぐに女を一人連れてきた事に驚いているようだった。浮足立ってると言ってもよかったかもしれない。佐々木は「おい、あの乳やばくね」と俺に小声でつぶやいた。俺は正直その一言で気分が悪くなった。その見た目でそういうセリフが出てくる時点でお前には一生ナンパは無理だ。と言いたくてたまらない気分になった。
とりあえず、全員で車に乗ってカセットテープを流した。すると、その女性は「あ、これ、この曲、さっき一人の時に口ずさんでたんだよね」と言った。さすが俺が厳選したテープだ。やはり女性に人気があるというのは正しかったと証明された瞬間だった。「いやぁ、知ってる人で良かった~。俺が、かなりの手間と時間をかけて厳選したカセットテープなのに、こいつら誰も一曲も知らなくて参ってたんだよね」俺がそう言うと「この曲すごく良い曲だよね」と同意してくれた。岩本と横山は、女性に緊張してるのか、何も言わない。まぁ、初見の印象が「あの乳やばくね」の佐々木よりはマシだが・・・。
正直、俺は好みの女性ではない。岩本と横山は緊張してあまりしゃべらない。佐々木はエロモード全開だ。さて、ここからどう立ち回るべきか?「とりあえず、ドライブしよう」佐々木がそう言って、女性も納得したので、車を走らせた。正直、俺はどうでもいいから早く仕事がしたかったのだが・・・。