①仕事が終わり、彼女に誘われるままバイト先のすぐ近くにある公園に行った。未成年なので2人で話をするには無難な場所だろう。辺りには俺達以外に人の気配はない。そこで彼女は顔を赤らめて、俺を見つめて「好きです。付き合ってください」と言った。表情から見ても、コレからどこかに付き合ってと言う意味ではない事が解る。

②俺は今まで女性と付き合った事はない。好きな女性さえ居たことが無いのだ。初めて俺を好意的に思ってくれている女性と遭遇した訳だ。彼女は外見的には魅力的で、バイトで知る限り、嫌な所もない。そんな女性に告白されて断る理由は何もなかった。気になるのは彼女を好きなあの男だが、元から俺の事をよく思ってないヤツだ。気にする事もないだろう。

③俺は出来るだけ優しい声で「いいよ」と一言だけ言うと、彼女は抱きついてきた。よほど真剣な思いだったのだろう。目には涙まで浮かべていた。俺は彼女を愛おしく感じてしまい、彼女の髪を撫でていた。そして、どちらからともなく流れのままキスをした。その後、一応、彼の事をどう思っているか聞いてみようと思った。すると、明らかな不快感がわかる表情で、「目つきがいやらしくて出来れば関わりたくない」と意外な答えが返ってきた。

④彼に見られていることには気がついていたらしい。だが、ここまで嫌っているとは予想外だった。俺なら、人に好かれていれば、その相手を嫌うなんてあまり想像できないな。などと、過去の自分を考えてみたが、好かれてると気づかずに微笑まれてれば嫌悪感は抱いたかもしれない。と思い当たった。俺の読みが意外な場所で外れた感じだ。

⑤「彼が君の事を好きなのは、俺が見てても解ったけど」と言うと、彼女は「私は貴方が好きなの」と言って抱きついてる手に少し力を込めた。俺としても嫌いな男だが、好きな女にこれほど嫌われる男と言うのは流石に同情して、少し救いの手を差し伸べようと思って言ったのだが、これではどうしようもなさそうだ。

⑥そして、日曜日に一緒に遊びに行く約束をして、もう一度、別れ際にキスをした。俺の性格なので当然、周囲の人の気配は確認済みだ。彼女に不快感を与えないよう配慮しつつ回りの人の気配を確かめていたのだ。万が一にも誰にも目撃されていない。この場を彼に見られてる可能性は0ではないからだ。見られてても問題は無いのだが、それが俺の性格なのだ。

⑦俺は日曜日まで2回バイトに入っているが、彼女は入っていない。そして彼とは今日だけ一緒に入っている。俺としてはかなり気まずい。一応彼女は、バイト先の人に俺達の関係を知られてもいいとは言っていたが、言いふらすつもりも必要もない。彼しだいだなと思っていた。彼は彼女が休みの日はあからさまにやる気がないのだ。

⑧ホールは俺ともう一人の女の子と彼の3人だが、俺はいつものペースで仕事をしてると、もう一人の女の子が擦れ違いざまに「彼、全然仕事しなくて最悪だね」と言ってきた。俺は「キツかったら俺に言ってフォローするから」と彼女に言うと「君が居なかったら辞めてるかも」と呟き忙しそうにオーダーを取りに行った。

⑨俺も、ビールケース運びや、バーカウンターでの作業、接客にレジ打ち、そして厨房が間に合わない際に簡単な料理を作ったりなど、その日は大忙しだった。彼はというと、お客さんに呼ばれたときだけオーダーを取りに行き、それ以外は立っているだけだ。女性のお客さんの方をじろじろ見ている。店長は厨房でなれない刺身を切っている。厨房の人が突発の休みで人が足りない状態なのだ。

⑩そしてピークの時間を過ぎて落ち着いた時、怒った表情で彼に詰め掛けようとした女の子を止めて、俺が彼に言った。「お前、この忙しかった2時間、どんな仕事してたか言ってみろ」普段全く怒らない俺が声を荒げたので、彼女を含め、従業員全員が驚いていた。彼はしどろもどろに、「オーダー取ったりしてたよ」と言った。俺の後ろで女の子が何か言おうとしてたのを感じたので、その声を掻き消しながら俺は、「この仕事をやる気があるのか無いのかハッキリ答えろ!」と彼を睨みながら問いかけていた。

第3部完 今度は何部まで続くのか・・・(((゜Д゜:))ガクガク