①嫌な事があったら新しい服を買おう。そして昨日までの自分に別れを告げる。自分の姿を変えるのは、気分転換に最高だ。俺は真っ黒な服が好きだった。仕事を辞めて横浜駅で服を買い、その場で着替えて、その足で名古屋へ向かう。茶色のズボンにベージュのシャツだ。これからは安定を求めよう。

②茶色は土だ。大地の色、安定、信頼、落ち着き、正直、誠実の色。今度の職場では大地に根を下ろすように、安定を目指そう。これからの俺のカラーは茶色だ。荷造りしたキャリーバックの中には、昔の服はお気に入りの一着とスーツだけで、他は今日買った服だけが入っている。さぁ、新横浜に出て新幹線に乗り込もう。

③エンタメ系の販売の仕事を辞め、自動車工場勤務だ。仕事はきついが給料は高く時間も安定している。土日休みで、残業も最高で2時間だ。サービス残業8時間を毎日やってたんだから、体力面さえ乗り切れば天国だ。そして会社は違うが自分には自動車工場で働いた経験がある。心配事は何も無かった。

④新幹線の発車まで時間がある。俺は本屋で小説を一冊買った。東野圭吾の「変身」だ。変身したばかりの自分にピッタリだろう。母の影響で東野圭吾の小説はよく読んだのだが、女性が強すぎる印象を受けて実は余り共感は出来ない。彼の小説は10冊くらい読んだのだが、今ひとつ軟弱な男に共感ができないのだ。恐らく作者は女性ファンを意識して書いてるのではないだろうか?

⑤俺は新幹線に乗り込んだ。横浜ともお別れだ。俺はここで今まで何をしてきたんだろうな…。ふと浮かんだその思いを振り払い新幹線に乗り込む。空いていて右の窓際の席だ。ついている。前回名古屋へ向かった際は、中学生の旅行か何かと重なったのか、自分以外全員が騒がしい学生で、本もおちおち読めず、すごく居心地が悪かったのだ。

⑥まぁ、あれほどついてない座席など考えられないだろうなぁ。一クラス丸まるの学生占領車両に自分だけとか、一体どうしろというのだ。学生とトランプでもするべきだったのか?思い出したら腹が立ってきた。まぁ、それと今回が同じ金額なのだから素直に今回の幸運を喜ぶ事にしよう。そして右座席だと静岡で富士山が見れる。

⑦俺はキャリーバックを上に載せて席に座り本を読んだ。俺は読書スピードが異様に早いとよく言われる。静岡周辺でお茶を買い、景色を眺めたりもしていたのだが、かなり前の駅で読み終えてしまっていたが、内容には満足していた。面白い小説で、フランケンシュタインを思い出してしまった。

⑧ただ、今の自分の変身とはまるで共感は出来ない。この本は、銃で撃たれた主人公が脳移植をして自分じゃなくなっていくと言う内容なのだ。自分が望まない変身の話だ。これでは共感できようが無い。フランケンシュタインを思い出したのは、脳のドナーのせいだ。それを除いても、頭を撃ちぬかれて、そこから復活とはフランケンシュタインを考えてしまうだろう。

⑨自然の摂理と言えば良いのか、自分はどうにも、この手の技術の進歩で自然を捻じ曲げる感じの話は、話で終わってる分には良いのだが、実際に実現させられると嫌悪感を抱いてしまう。そしてこの作者の話にそれは多いのだ。「分身」と言う体外受精の話しを最近読んだからかもしれないが、おかげで東野圭吾と聞くと、そういう印象を受けてしまう。

⑩そして名古屋駅に着いた。どうやらパルコが新しく出来たらしい。前回来た時は無かった。とりあえず、寮に入るのが先だ。俺は昔の景色と今の違いを比べながら寮へと向かった。無駄に高い建物が増え、緑が減った。土も減りアスファルトが敷き詰められた。俺の感じた印象はそれだけだった。「自然が減り、不自然が増えた」一言で言うとコレだろう。

そして寮について、一通りの説明を聞き部屋に案内された。一人部屋だ。以前は3LDKで5人と言う形だったからかなり嬉しい。さて、コレでもう自由な時間だ。ここが新しい人生のスタートとなる俺の城だ。俺の過去を知る人間は誰も居ない。1からのスタートだ。仕事は3日後からなのでとりあえず、荷物を置いて、俺は新天地を探索する事にした。

第一部完 ( ̄▽ ̄;)長くなりすぎたので隙を見て第二部書くかも…。