①快適な世界だと思ってた。嫌な事からはすぐ逃げだせて、独り言を話すだけで返事が返って来る。俺はこの世界に長い間入り浸った。「戻れなくなるよ」前に居た世界から誰かの声が聞こえた。思わず後ろを振り返った。この世界で長い間歩いてきた道だ。俺は我が目を疑った。一歩も前に進んでいなかったんだ

②そんなはずはない。長い間歩き続けたんだ。「なんで、はじめの場所から進んでないんだ!」俺はいつも返事をしてくれる人物に聞いた。「今頃気づいたの?この世界は現実であって現実じゃないんだよ。現実世界で前に進む訳がないじゃないか。君は現実に未練があるんだね戻ったほうがいい」

③「君は未練は無いのか?」俺が尋ねると彼は悲しそうに言った。「僕はもう引き返せないんだ。話し相手が居なくなるのは寂しいけど、君は最後のチャンスを手にしたんだ。この世界と現実世界の繋がりを知れたんだから、ここで引き返さないともう戻れないよ。この世界で進むしかなくなる」

④「戻ってきてよ」また前に居た世界から声が聞こえた。今度は誰かはっきりわかった。前の世界の友人だ。そういえば、この世界に来てからすっかり忘れていた。名前も思い出せないが確かに友人だったはずだ。いや、本当に友人なのか?長い間、聞かなかった声で自分の記憶から消えかけているようだ。

⑤「早く戻ったほうがいい。一刻も早く、そして僕の事は忘れるんだ!電源を落とすんだ。もう電源を入れちゃ駄目だよ。さようなら」最後にそれだけ言うとその後は返事が返って来なかった。俺はコンピューターの電源を落とした。そして現実世界に戻ってきた。時間だけが過ぎ、あの世界では何も得た物はない。

⑥俺は、友人の一言で戻ってこれた。あの一言が無ければずっと気が付く事なく、あの進まない世界を歩き続けていただろう。彼のように…。彼のその後は俺には解らない。あれ以降、電源を入れてないのだから、そして彼が何故あそこまで、もう忘れろといったのか?その理由も今は解る。

⑦成長しない彼と、先に進んだ自分を比べるのが辛いからだ。でも心配する事はないだろう。あの世界は、昔の自分のような人間を誘い込む餌が溢れていて、現実世界もそれを促進しているのだから…。