リリカの話が途切れたとき、リックがやってきて部屋に通された。『リリカ様、私は一旦城へ戻りたいのですが宜しいでしょうか?私の後を直ぐについてくると思っていたリリーが来ないので心配で、確認できればまた直ぐにでもこちらに戻るのですが…。』

それを聞いたリリカは少し考えながら答えた。
『そうか、いや、リックよ。お主は好きなように動いてよいぞ。南からフレッド殿とガザン殿が応援に来てくださったので、もう大丈夫だ。ルブロとの戦いは、まことに見事だった。うむ、そうだな。褒美にこの剣をやろう。我が父カストールが名のある海賊から取り上げた物なのだが、私の魔法属性と相性が悪くてな。眠らせておくには余りにももったいないのでな。氷の刃、お主なら使いこなせるやもしれん』

それを聞いてリックはリリカの物腰の変化に驚いていた。そうか、リリカ様もご無理をなされていたのだろう。と、納得して『有難う御座いますリリカ様。大切に使わせて頂きます』と、頭を下げてその剣を受け取った。

その時、ガザンがリックに話しかけた。『氷の刃…気力を込めて使えば相手を凍らせる吹雪を放つと言われる魔剣だ。おぬしのような普通の剣士が使ってもそれなりに凄い剣だが、リリカ様のような魔法剣士が使えば恐るべき武器になる代物だ。魔法の修行をしてみるのも良いかも知れんぞリック君』

それを聞いてリリカがリックに伝えた。
『おぉ、そうだ、リックよ。そこのガザン殿は、南の町で鍛冶屋をしていたそうで、おぬしの仲間とかかわりのある方だぞ、サーシャの父親と言えば解り易いかな?』

リックは驚いてガザンを見た
『貴方が、サーシャに剣を教えた父君か!彼女とも木刀で戦ったが、彼女の技は見事だった。特にトルネードスラッシュ・・・。あの技は並みの剣士ではかわせないでしょう』

『なんと、サーシャはあの技を使ったのか!木刀とはいえ、それをお主はかわしたという事か、なるほどな。確かにお主は並の剣士ではない。サーシャとルブロにも勝った訳だな。それなら、ワシからも褒美をやらんとな。リリカ様、リックへの用はお済かな?』突然質問され少し戸惑いながらもリリカが頷くと『リック君、では一緒に広場に来てくれんか?本物のトルネードスラッシュを見せてあげよう』

そして、その場の全員が広場へと移動した。全員ガザンの実力に興味があったのだ。『なんだ、全員来るのか?はっはっは』とガザンは大きく笑っていた。

『では、木刀で対戦しますか、ガザン殿?』リックがそう言うとガザンは首を横に振った。『いやいや、そうだな、そこの空き小屋が解り易いかな?』そう言ってガザンは2本の剣を抜いて両手を伸ばしきった状態で、漢字の十の字のように構えた。『では、いくぞ!』そう叫んでガザンは小屋の手前で右回転するように軽やかなステップで回った。それを見ていたリックはサーシャの技と比べていた。サーシャは1本の木刀で回転している際に隙があったが、ガザンの動きにはそれが無かった。

そして前触れも無く回転方向が切り替わっている。これには実際対峙していたら防ぎようが無いだろう。右から斬られると思っていると左から刃が放たれてるのだ。そして、辺りを風の渦が包んでいた。小屋の前を回転してるだけなのに、風圧で小屋が左右にきしんでいるのだ。『トルネードスラッシュ!』そう叫んでガザンは回転しながら飛んだ。そしてそのまま地面に叩きつけるように剣を振り下ろしていた。すると小屋は左右からの風で中央にきしみ、そこへ上段から凄まじい風圧で押しつぶされるかのように吹き飛んでいた。小屋があったはずの場所には何も残っていない。

『ハッハッ、見物人が多かったので、ちょっと張り切りすぎたな』
見物していた全員は言葉を失っていた。
『これが本当のトルネードスラッシュだよリック君。サーシャの技はこれを真似てサーシャが編み出したサーシャだけのオリジナルだよ。それでも十分危険なのだがね。

『こ、こんな事が魔法も使わずに可能なのか?まるで風の神の怒りのようだ』リリカはガザンの技をそう例えた。