リリカはリックの実力を目の当たりにし愕然としていた。
これほどまでに、強いのか・・・。あのルブロが捨て身で攻めても傷一つ付けれないほどに…。試合終了の言葉も忘れ、呆然と見ていると、隣に居たヘレネが慌ててルブロに駆けつけていた。

『ヘレネ様、ご心配には及びません。彼は気を失っているだけです。しばらく安静にしてればすぐに意識を取り戻しますよ。』

それを聞いたヘレネは、安堵のため息をついた。そのヘレネの慌てた様子を見た周りの兵士達は、ざわざわと騒ぎ始めていた。やはり、ヘレネ様とルブロは指揮官と兵士の一線を越えた関係があるに違いない。あれではまるで恋人同士のようだ。

そのざわめきで我に返ったリリカは、慌てて叫んだ。
『ルブロを医務室へ、ヘレネは付き添ってそして、目が覚めたら私の元へ来るように伝えてくれ。2人とも見事な戦いだった。皆の者、勝者のリックを称える拍手を!』

すると、見物していた全員がまばらに拍手をした。兵士達はルブロの実力は前回、目の当たりにしていた。その実力者をいとも容易くあしらったこのリックと言う男の実力に心底驚いていたのだが、それよりも、ヘレネとルブロの関係が気になるらしくざわめきは収まらなかった。

リリカは呆れていた。なんとふがいのない兵士達だ。これほどの戦いを見て、ヘレネの事にしか気が向かないとは・・・。いや、私の力不足だな。私が未熟だからこのような兵士しか周りに居ないのだ。そう考えていたら、一筋の涙が流れていた。それを気づかれない様に慌ててぬぐって全員に向かって叫んだ。

『リック、実に見事だった、お前達もリックに負けないように日々の鍛錬を怠るな!我が国の西の治安を守るのは、お前達だ。ルブロは我が隊では1番の実力者だと私は思っている。そのルブロが全力で戦って全く歯が立たなかったのだ。この事実をしっかりと胸に刻み、日々の鍛錬をしなければ、治安など守れんぞ!』

リリカの気迫のこもった叫びを聴いて、その場だけはざわめきは収まったが、リリカが立ち去った後も兵士達のざわめきは途絶える事はなかった。