町での買出しも終わり、出航するとのことで俺は海賊船【黒い風】に乗った。乗組員は20人だ。俺の見た感じでは、船長のギムはそれなりに強そうだが、他のメンバーは俺の敵ではないなと内心思っていた。俺が酒場で倒したガラムは、メンバーの中ではそこそこ強いらしいが、力自慢で動きが鈍すぎる。そんな感じで、メンバーを眺めていたら、気になる男が一人居た。海賊にしては、身なりが綺麗過ぎる。黒い帽子が印象的な男だ。

俺の目線に気がつき向こうから話しかけてきた。『おう、新入りのオルガだったな。仲間の実力が気になるのかい?獲物を探すような目で仲間を見るもんじゃないよ。ははは、うちの船長は、戦いとなったら人が変わるぞ。黒い風のギムの名前を聞いたら、この辺じゃみんな荷物を捨てて逃げ出すからな。』男はそう言って笑いながら名前を言った。

『俺の名はヨルグだ。まぁこの船で一番の剣使いだな。船長は斧だからな、ははは、そしてあんたが酒場でこらしめたガラムはうちで一番の力自慢だ。他にめぼしいところは、あそこの小柄な男、アイツが弓使いのザックだ。あんたの実力なら、気になるところはそんなもんだろう。他は残念ながら、自慢できるほどの強さではないな。大抵の強敵は、今名前を挙げたメンバーで倒してるな。俺の実力を確かめたいかい?』

そう言って、ヨルグは腰に差した剣に手を当てた。それだけで只者ではない雰囲気を感じた俺は、『いや、あんたが実力があるのは解る。あんたが言うのなら、他のメンバーもそれなりなのだろう。』と告げると、ヨルグは大きく笑った。

『さすが、瞬殺のオルガと呼ばれるだけの事はある。本当に強いヤツは対峙するだけで相手の実力がある程度解るものだ。その点がガラムの残念なところでもあるんだがな。まぁ、あんたが戦力に加わって、俺は素直に嬉しいよ。宜しくなオルガ』ヨルグはそう言って俺に微笑んだ。俺の直感がこのヨルグと名乗る男の実力を感じたので、俺は素直に『あぁ、あんたには逆らわない方がよさそうだ。こちらこそよろしく頼む』と答えた。

船に乗ってるやつらは、先ほど名前を聞いた船長ギム、ヨルグ、ザック、そして俺は特別扱いらしい。戦闘優先って事だそうだ。船上での主な雑用は他のメンバーがやってくれている。ガラムは力自慢なので船上の仕事もやっているみたいだ。

そして出航して、オーウェンから離れしばらくすると見張りの一人が声を上げた。『獲物がいるぞ商船だ!』それを聞いた船員達は慌てて動き出した。そして驚くべきスピードで、その船の真横につけた。商船に逃げる隙など与えない、見事な操舵だった。相手の商船は黒い風の名を聞いて抵抗する気は失せたらしい。俺達、戦闘優先組が出るまでもなく、荷物を差し出して命乞いをした。俺達は、酒と食料と金目の物を奪い黒い風に運びこんだ。そこにヨルグが話しかけてきた。
『なんだ、戦えなくて残念か?まぁ商船ならこんな物だよ。俺達の出番は、海賊か海軍が相手の時だ。まぁ、何もしてないような物だが、初仕事の成功をこの酒で祝おうじゃないか。ははは』

そう言って、ヨルグは商船から奪った酒樽を叩きながら笑った。弱いやつから奪う生活、西のスラムの生活が海に変わっただけだ。俺にうってつけの仕事だな。と内心思いながら、ヨルグの笑いにつられて、俺も笑っていた。