『くっ、こいつが狂剣のバルザック・・・』バランはバルザックを見つけたら直ぐにでも襲い掛かるつもりで居た。しかし、本人を目の前にしながら、動けなかった。アリオスも真剣な表情でバルザックを見たまま、身動きが取れない、軽口を言う余裕すらなくなっている。

そこに、兵士達が襲い掛かったのだが、彼らの剣が当たるどころか、彼らは剣を振り下ろす事すらできずに倒されていった。『待て、お前ら止めろ!』バランは叫んだが、兵士達は止まらない。襲い掛かる事で恐怖から逃れようとしていたのだ。彼らの集めた小数の精鋭は、勇敢な兵士達であるがゆえに、止まる事ができなかったのだ。兵士達は次々に倒されていった。

『ひぃ、駄目だ!コイツは無理だ!』アリオスはそう叫んで、その場から逃げ出そうとした。それに気がついたバルザックは周りの兵士を倒しながら、アリオスめがけて突き進み、背を向けたアリオスに、右手の剣で上段から振り下ろした。

その剣は、アリオスに当たる前に、バランの斧に防がれた。バランはアリオスの背後に立ち、斧の刃の部分でバルザックの剣を受け止めたのだが、バランの斧は持ち手の部分を残して砕けてしまった。そこに、すかさずバルザックが左手の剣を振り下ろそうとした時、突然バルザックは動きを止めた。

その後ろで、バルザックに槍を向け、アッシュが立っていたのだ。

『バルザック、そこまでだ!勝負はついている!お前の勝ちだ!』その一言で、その場の全員の動きが止まっていた。20人居たはずの兵士の生き残りは、わずか5人だけだった。もはや、バルザックに切りかかる勇気のある兵士は一人も居ない。アリオスは逃げそこない、バランの武器は使い物にならなくなっていた。こうなっては、話を聞くしかない。

バルザックは、アッシュの槍に驚いていた。いつの間に間合いに入ったのだ?混戦とはいえ、こいつがその気だったら、俺の体を貫かれていた。バルザックもアッシュの話を聞くしかなかったのだ。

『あんたたちは、急ぎすぎなんだ。殺さなきゃ生きれない町の状態を改善してから、討伐なり何なりすればいい。全員殺してから、新しい人を呼び、作り直すなんておかしいと思わないのか?
最後の一人を殺す事に何の意味があるんだ?バルザックが意味も無く復興の邪魔をしたから殺すって言うのならわかるが、おかしいだろう?ここに昔から居るのはバルザックだけだ。バルザックの意見が、この町の意見なんだ。はなから聞く耳持たずに襲い掛かるあんたらこそ悪だ!バルザックに恨みを持っていて、気に入らないのなら、一人で決闘でも申し込めばいいだろう』

そして、一呼吸置いてから、バランとアリオスに向かって言った。

『お前達、城へ帰ったら、メルヴィル様に報告してくれ。バルザックは、自分が生きる為に必要な殺人しかしないと。俺はアッシュだ。俺の名前を言えば、メルヴィル様は聞いてくれる』