バルザックは、町の中心の広場に穴を掘り、死体をそこへ運んでいた。死体を放置する事によって病気が広がったりしては困るからだ。自分がやらなければ、恐らく放置され続ける事だろう。しかし、やり方はかなり雑だった。槍で突き刺して投げつける。そんな方法で集められた死体は、すぐに山のように積まれていった。その周りには燃えやすいように、藁や木片も投げこまれている。町中の死体を集め終えたバルザックは、そこへ火のついた松明を投げ込んだ。松明の火は、すぐに藁に燃え移り、死体の山を燃やしていった。

流石に疲れたので、その場で少し休んでいたら、凄まじい異臭に耐えられなくなってきた。そんな時に、背後から声が聞こえた。

『この異臭は、人を火葬してるのか?』

少し離れた場所でこちらを見ながら槍を持った男と剣を装備した女が話しかけてきた。『この町でカストール様が、バルザックに殺されたって聞いてね。危険だから通らないほうがいいとも言われたんだけど、通り道で困ってる人は、放置できない性格でね。兵達の火葬をあんた一人でやったのか?』槍を持った男の方が言った。

こいつ等はそれなりに強そうだな。ひと仕事終えた後でも、負ける気はしないが、襲ってくる気は無いみたいだ。女の方は臭いで気分悪くて話す余裕もなさそうだ。俺もこれ以上耐えられそうもないので、場所を変えようと言って、3人で石つくりの小屋の中に入った。

『お前ら2人がいれば、スラムで生き残った2人のうち、一人は倒せたかもな』俺がそう言うと、女が話しかけてきた。『貴方一人だけ生き残ったの?貴方はかなり強そうね。一人で火葬するなんて大変だったでしょう』俺はこの勘違いしてる2人の相手が楽しくなり、話を合わせる事にした。

『もう一人生き残ったんだが逃げちまった。こんな死体だらけの町に居たら、病気になっちまうからね。ところでお前達は何者なんだい?』

『名乗るのが遅かったね、ごめんなさい。私はサーシャで、彼はアッシュ。友人を探して北のサッズから港町オーウェンに向かおうとしてたところで、カストール様の話を聞いて、この町に寄ってみたのよ』

『ちょっと遅かったな。この町でお前ら2人に出来る事はない。それともバルザックに殺されたいのか?お前ら2人じゃ勝てないぞ』

俺がそう言うと、今度はアッシュが答えた。『あんたがそう言うのなら、バルザックってのは相当強いんだな。あんたは並の強さじゃなさそうだ。だが、あんたも入れて俺達3人ならどうだ?』それを聞いて俺は笑いが堪えきれなくなった。『くくく、それは無理だ』

『そんなに強いんだ、それなら貴方は生き残れて良かったね。もう少し早く来れば火葬を手伝えたのに、何も役に立てなくてごめんなさい』

『あははははは、俺は死なないよ。まだ気がつかないのかい?俺がバルザックだよ』それを聞いたアッシュとサーシャは驚いて立ち上がった。

『迷惑な軍人は全滅して、スラム住人も俺だけだよ、アッシュ、サーシャ。お前ら2人は俺の首をとりに来たのか?俺達スラムの住人は、自分が生きる為に必要なら人も殺すが、軍人どもは、町の治安だなんだと理由をつけて必要のない大量殺戮を平気でしやがる。邪魔だって理由だけで殺すんだ。ガキの頃からここで育ったが、ここでは、力のない奴は死ぬんだ。スラムの奴らも弱いから死んだ、軍隊も弱いから死んだ。俺は何も気にしないし、ここも変わらない。アッシュ、サーシャ、もう一度聞こう。俺に殺されたいのか?俺が生きる為に必要なら2人まとめて相手をしてやるよ』

そう言って、俺は両手で2本の剣を鞘から抜いた。