翌日の事だった。まだ出航しないとの事で、オルガが一人で町を散策していると『あれは、クレア王女!』と言う、女の叫び声が聞こえた。

クレア王女?王女様がこの町に居るって言うのか?面白い。攫ってくれば色々と利用価値がありそうだ。国で、一番の美女って話も聞いた事があるしな。俺は声の主を探した。

それはカストールの娘で弓使いのヘレネだった。

ほう、アイツもいい女じゃないか。これは面白い。しばらく成り行きを見るとするか。

クレア王女らしき美女は、男女の護衛に船に乗せられて逃げていた。それを一人で追いかける若い女。ん、仲間の男が居やがるのか?さっきの叫び声を聞いて駆けつけてる感じだな。これは逃げ切ったかな?と俺が思ったとき、若い女は弓を構えていた。そのまま『止まりなさい!』と叫びながら放たれた矢は、船の旗を射抜いていた。そしてすぐさま『次は当てますよ!』と叫んで再び弓を構えている。

『ほう、あの女いい腕してやがる』そう思った俺だったが、次の瞬間、更に驚くことになった。

王女の護衛の男が、弓を構え迎え撃ったからだ。その矢の軌道が信じられなかった。全然的外れの左側に飛んでいったと思った矢が、まるでブーメランを投げたかのように曲がり、女に当たると思いきや女の目の前で丸を描くように飛び、女が弓を捨てて横を向いて、伏せた目の前の床に矢が刺さりやがった。

こりゃすげぇわ。バルザックの剣以来の衝撃だった。女は腰を抜かして漏らしてやがる。こりゃ傑作だな。あの駆けつけてる男を倒してこっちの女を攫っちまうか。

そう思い少し近づいた所で、その男に見覚えがあることに気がついた。西のスラムで俺を追ってた軍隊のヤツだ。ちっ、全員殺して置けばよかった。騒がれて、俺がこの町に居るのがバレるのも面倒だ。仕方が無いな。まぁ今日は面白いものが見れたことだし、おとなしくしておくか。

しかし、王女が本物だったとしても、あの護衛は、ヤバ過ぎるな。バルザックとは違う意味で人間業じゃない。俺が狙われたとして、逃げ切る自信がないなんて、こんな事は初めてだ。アイツとは戦いたくねぇわ。

瞬殺のオルガは、サキの技を見て、凄さに呆れるように笑いながら、その船の行方を眺めていた。