リリーは不思議な場所に居た。あたりは薄暗く、星の光もないのだが、前が見える。周囲を見渡すと光が全く無いように思われるのに前が見えるのだ。真っ暗な部屋に光が差し込んだ位の明るさなのだが、光源が無い。そんな不可解な明るさだ。

周囲には、少し離れた場所に今まで見たことの無い、植物らしき物が、奇妙に蠢きながら生い茂っていて、2~3匹の奇妙な鳥が、瞬間移動をするように不規則に飛んでいた。余りにも不規則に飛んでいるので2匹か3匹か解らない。

『ここは何処なの?』私は声に出して呟いていた。すると、『ここは何処なの?』と自分と同じ声で返事が返ってきた。『誰か居るの?』と震えた声でもう一度私が言うと、『誰か居るの?』と、また私の声で、震えた声で返ってきた。私は怖くなって、声を出すのを止めた。すると辺りの物音だけしか聞こえなくなった。深夜の森の中を一人で歩いているような、生き物の鳴き声だけが聞こえてくる。だけど、その生き物が普通の姿をしてるとは、私には思えなかった。不規則に飛ぶ鳥と、怪しく蠢く植物を見てしまったからだ。鳥はともかく、あの植物は気持ち悪すぎる。私には気持ち悪く伸縮する枝が、まるで血管のように見えた。枝が折れたら液体が噴出すに違いない。

私は、植物には絶対近寄るのはよそうと思いながら、両手を胸の前に×印に組みながら『怖いよリック。』と声に出さずに口だけ動かして震えていた。とてもじゃないけど、ここから動けそうに無い。

どれくらいそうしていただろう。この場所では時間の感覚がわからなかった。怖くて動けなくてじっとしていた筈なのに、なるべく見ないようにしていた気持ち悪い植物が、私に近づいている事に気がついた。

やだっ!あの植物近づいてきてる!私は叫びだしたいのを堪えて、口を押さえた。そして逃げ出したくなり、走り出そうとした事で、前にあったはずの道がふさがっている事に気がついた。さっきまでは、前に道があったはずだ。私には植物が横に動いて道をふさいだとしか思えなかった。植物に囲まれて逃げ道が無い。一番近い植物はもう、直ぐそこまで迫っている。近くで見るとその動きの気持ちの悪さが際立っていた。『リック!助けて!!』私は耐え切れずに目をつぶって大声で叫んだ。すると、『リック!助けて!!』と私の声で返ってきたのだけど、最後の助けての部分だけ歪んで聞こえた。恐る恐る目を開けると、目の前におばあさんが立っていた。

『やっぱり、リリーお譲ちゃんの声だったのかい。駆けつけて良かったよ。気がつくのが遅かったら、危なかったよ。怖がらせたくないから詳しくは説明しないが、あれは危険な植物だからね。ほら、お譲ちゃん涙を吹いて、寺院に戻るよ』おばあさんはそう言って呪文を唱えた。

そして私とおばあさんは、寺院に戻っていた。『リリー!大丈夫か?!』リックが私の横に駆けつけてきた。『リック・・・』私は最後の気力で、それだけ言うとすっかり安心してしまいその場で意識を失ってしまった。


『お譲ちゃんは、疲れたみたいだね。無理も無い。一人であんな場所に居たら普通の人間じゃすぐに気が狂ってしまうからねぇ。しばらく休ませて上げなさい。しかし何でまた、リリーお譲ちゃんは幻魔の森に居たんだい?リックや、教えてくれんか?』

それを聞いたリックは事情を説明した。

『なんと、私の後を追って来たって?恐ろしい才能だね。幻覚の事といい、私以上の素質があるよ。教えても居ないのに、異界の扉を抜けるなんて信じられないよ。』おばあさんは目を見開いて驚きながら言った。

『おばあさん、魔法の才能はともかく、リリーは幻覚を見るのがつらいんです。何とか見ないように出来ませんか?リリーを助けてやりたいんです。お願いします。』

『リリーお譲ちゃんは、出来る事なら何でもするから魔法を教えてくれって言ったから私の魔法を教えたんだ。幻覚ぐらいで済むなら安いもんじゃろ。と言いたい所だが、わたしゃ、リリーお譲ちゃんを気に入っちまったからね。よし、この首飾りをやろう。』そう言っておばあさんは、眠っているリリーの首にかけた。

『これには、魔力をある程度抑える力があるんだ。私とおそろいだよ。フフフ。強すぎる魔力は抑えないと世界が破滅しちまうからねぇ。お前さんは、幻覚と言ったが正確には先読みの力だね。私が相手の目を見ると未来が見えちまうって言ったのを覚えてるかい?それと同じ物だよ。リリーお譲ちゃんは、素質がありすぎるんだ。とりあえず、今はコントロールもきかないで、危険だね。この首飾りは絶対に外さないように、言っておいてくれ。それと、お前さんにこの指輪をやろう。』リックはお礼をいい、その指輪を右手の人差し指にはめた。

『お譲ちゃんは、西の町のことまで知ってたんだろう?つまり、あんたの身の危険を感じ取ったんじゃろうて。その指輪は、気力が強くなる指輪だよ。お前さんの剣の腕前なら、相手の手足を切断しちまうほどの強敵の剣でも、その指輪をはめてれば、剣に気力を込めれば受けれる様になるじゃろう。まぁ、そんなおっかない敵とは、戦わないのが一番だけどねぇ。フフフ』

西の町で沢山の人が死ぬのが見えた。手足を切断され助けを呼ぶ姿が見えたってリリーは言っていた。それが幻覚ではなく、未来を見る力だとしたら、これから現実にそんな事が起こるのか?

そして、リックには、それよりも気になっている事があった。アッシュ達がサキを追って旅立つ時にリリーが言った言葉だ。『また会えるよね。』あの言葉をどんな未来を見てリリーが言ったのか?『アッシュ、サーシャ、お前達2人なら、どんな未来も跳ね返せるって俺は信じてるぞ。』リックは両手を組んで祈っていた。