リリーは戸惑っていた。サキと王女は駆け落ちし、アッシュとサーシャはサキを追いかけていった。私とリックだけになってしまった。リックは私が不安な気持ちになるとすぐに元気づけてくれる。そう、昔のリックが居なかった頃の一人で不安で泣いていた頃に比べれば凄く幸せなはずだ。それなのに、心の中では常に不安な気持ちが押し寄せている。

今も直ぐ隣にリックが居るのに、目を閉じると不安に押し殺されそうになる。そんな私を心配そうにリックが見つめながら、『サキたちも、アッシュたちも大丈夫だよ。リリー、俺はお前の傍にいつでも居るから。』と言ってくれた。凄く嬉しい。嬉しいはずなのにリックに微笑みながらも、何故か涙が頬を伝っていた。もうこれ以上、国の為に忙しいリックに負担をかけれない・・・。

私は正直にリックに話す事にした。

『夢を見るの。起きているのに嫌な夢を見ちゃうの。おばあさんに魔法を教わった後から、おかしな事が続いてるの。毒で苦しむ貴族を私が助けたのも偶然なんかじゃない!夢で見た場所に行ったらそのとおりになったの。メルヴィル様の前で指輪をはめてリックの事を願ってリックが帰ってくる夢を見たら、そのとうりになったの。私、今も目を閉じると、西の町で沢山の人が殺されていく夢を見るの。手足を切断されて、助けてって叫びながら死んでいく人が、閉じているはずの目に映るの。』そう言って私はその夢を思い出し、堪えきれずに大声で泣いた。

それを聞いたリックは、私の肩を抱き寄せ私の髪を優しく撫でながら言った。『リリー、今すぐ古の魔女に会いに行こう。そうすれば直ぐに解決するよ。魔法の影響でおかしな幻覚が見えるんだよ。だって、リリーが覚えた魔法はロストスペルだ。今の世界で【失われた毒の治療】なんて魔法を使えるのは、古の魔女と、リリーくらいだろう?副作用があってもおかしくないよ。危険で禁止されてるからロストスペルなんだよ。もしそのせいだったとしたら、俺のせいだ。俺の為にリリーが必死で覚えた魔法なんだから、俺は何よりも優先してリリーの幻覚を直す責任がある。国の事よりも最優先だ!』

そうして、私とリックは城下町までやってきた。寺院に来れば会えると思っていたからだ。ところが、いつもなら来ている時間になってもおばあさんは現れなかった。『くっ、なんで居ないんだ!』リックは、私が今まで見た事も無いほどあせった様子で周囲を見渡していた。その姿を見た私は、私の為に一生懸命になってくれてるんだと思ってしまい。嬉しくて涙がこぼれた。

そんな私を見たリックが『心配するな、直ぐに見つかる。もう少しの辛抱だから幻覚に耐えてくれ』と言ったので、余計に涙がこぼれてしまった。『ありがとうリック。』そう言って私は涙を拭いて瞳を閉じた。すると寺院の祭壇の裏で呪文を唱えるおばあさんとそれを追いかける私の姿が見えた。『リック!おばあさんの居場所がわかったよ。私しか行けない場所にいる!ありがとうリック!私行って来るね。』そう言って祭壇の裏に行き、先ほど見た幻覚が唱えていた呪文をまねて唱えた。その瞬間リリーの姿は寺院から消え去っていた。