サーシャとアッシュは、サキの小屋で2人で1日休む事にしたのだが・・・。
『あっ、あの、この小屋ってベット一つしかないよな。俺、床で寝るからサーシャが使えよ。』アッシュが顔を赤らめながら、私と目を合わせないように言った。そのアッシュの態度を見た私は可笑しくてたまらないのを堪えていた。『アッシュは私と一緒にベットで寝るのは嫌なんだ。』私は下を向きながら口を尖らせて言ってみた。

『いや、俺は一緒に寝たいけど、サーシャが嫌がるんじゃないかと思って、あの・・・』アッシュの顔は今まで見た中で一番赤くなってる。サーシャは堪えきれなくなり笑い出してしまった。『アハハハハハ、アッシュ照れすぎだよ。ふふふ』私は右手で口を押さえて左手でベットを叩きながら笑い続けた。

するとアッシュは強い口調で話し出した。『その気でもないのにからかうなよ!俺を馬鹿にするのがそんなに面白いのか?サーシャはここに居ればいい、俺は宿屋に泊まるよ。』そう言って荷物を持って立ち上がった。

私は後悔した。軽い気持ちでアッシュを傷つけてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。途端に先程までの愉快な気持ちが消え、悲しみが広がってくる。
『待って!アッシュ、ごめんなさい。』その後にも言葉を続けようとしたのだが、言葉が浮かばずに代わりに涙が流れてきた。『うぅ・・・。アッシュ、ごめんなさい。』私は両手で頭を押さえながら同じ言葉を繰り返す事しかできなかった。

どれくらいの時間だったのだろう、実際には、ほんの少しの時間なのだが、私の中ではその言葉が聞こえるまで、とても長い悲しみの時間だった。『いや、俺も悪かったよ。怒るほどの事じゃなかった。ごめんサーシャ泣かないでくれ。』そう言ってアッシュは、荷物を戻して、ベットに座っている私の横で、私の肩に手を掛けながら、心配そうに私を見ていた。それを聞いた私は、先ほどまでの悲しい気持ちとは正反対の、嬉しい気持ちで涙が止まらなくなっていた。


翌朝、初めての喧嘩から仲直りした2人は、これから西の町へ向かうことを町の人に告げようとしたところで、慌てた様子のエトおじさんに呼び止められた。『アッシュ、待つんだ。間に合ってよかった。先日、西のスラムでカストール様が狂剣のバルザックに殺されたそうだ。今の西の町は危険だよ。サキが居るとも思えない。西の町は通らずに、そのまま港町オーウェンに向かうルートをとるべきだよ。』

カストール様が殺された!?西のスラムの噂は聞いた事があるけど、そんな事になるなんて。サキとクレア王女がそんな目立つ事件のある町に居るとは思えない。私とアッシュはエトおじさんにお礼を言ってサッズの町を後にした。