一人の伝令がメルヴィルの下へ駆けつけた。
『メルヴィル様!カストール様が西のスラム街にて、狂剣のバルザックに討ち取られました。軍隊は壊滅し、死者の数は100名に上るそうです。スラムの住人は、例のバルザックとオルガが生き残ったそうです。』

『なんだと!スラムの奴らはそこまで強いのか!?くっ、この慌しい時に西側を治めるカストールまで居なくなられては・・・それで現在の西の状態は?』

『西側の現在の戦力は、港町の守備にあたっていた、カストール様の娘のリリカお嬢様とヘレネお嬢様の部隊と、アルフォンス様の代わりに北へ向かう予定だった、斧使いのバラン様と、剣術のアリオス様の部隊ですが、この状態ですのでリリカお嬢様が西側を父上に代わり引き継ぐ形になると思われます。』

リリカか、彼女は若すぎる。カストールの代わりを背負わせるのは酷だな。バランも力任せなヤツだし、アリオスの軽い性格は大将の器じゃない。西側は現在荒れすぎていると言うのに、なんということだ。いっそ、私が西に向かうべきなのか・・・。いや、今私が動けなくなったら国が終わる。かといって、そこまでの強敵バルザックを倒せるほどの部隊長を任せられる人間はこの国では・・・リックくらいしか思い浮かばん。北が全員死亡で、南は大将が重傷、そして西の大将も死亡、東の私の部下リターも傷が癒えていない。王女はサキと駆け落ち。一体私にどうしろと言うのだ。王は何をお考えなのだ!こんな状態で何故カストールにスラムの平定など命じたのだ!サキさえいれば北は安泰だったと言うのに、このタイミングで王女と駆け落ちなどと・・・。アッシュまでサキを追ったと聞いている。リック一人でバルザックの相手をさせるのは危険だ。メルヴィルの悩みは尽きなかった。

一方、港町オーウェンではリリカとヘレネが父親の死を聞いて愕然としていた。
『お父様がバルザックに殺された・・・。』ヘレネは、がくりと膝を落として涙を流した。
『くっ!お父様の敵は私がとる!私が西のスラムでバルザックを仕留めてやる!』そう言ってリリカは右手のこぶしを握りながら涙を流した。

『いけません!リリカ様。私は最後にバルザックと一騎打ちをした最後まで戦場に居た生き残りです。ヤツは私が見た限り、メルヴィル様でも苦戦する相手だと思います。100人以上の兵士を一人で倒し、一瞬で人間を4等分にする化け物です。私は殺しても面白くない、腕を磨いてきたら殺してやると言われ生かされました。リリカ様に殺されるのを覚悟で、リリカ様の為に、部隊の生き残りとして言わせて頂きます。今のリリカ様では万に一つも勝ち目はありません。』

リリカは怒りで剣を振り上げ男を睨みながらも、その男の真剣な決してそらさぬ瞳を見て剣を下ろした。『お前、今後は私の部隊に加われ。名前を教えろ。』

『私はルブロと申します。今後はカストール様に代わり、リリカ様に忠誠を誓います』ルブロはそう言って頭を下げた。