リリーたちはおばあさんに会いに城下町に来ていた。

おばあさんが、リリーが魔法を使った結果を知りたいと言っていたのと、サキがおばあさんが何者なのか知りたいという事もあって全員で会いに行こうという事になったのだ。毎日寺院に通っているとリリーが言っていたので、寺院で待っているとおばあさんはやってきた。

『おやおや、リリーお譲ちゃんじゃないか。どうやら魔法は役に立ったようだね。そちらが例のお仲間さんだね。ほう、こいつは驚いた。全員お譲ちゃんに負けない凄い波動を感じるよ・・・。』

そう言いながら、全員を見比べるように眺めていた目がサーシャで留まった。

『なんと!まさか・・・そんなはずは・・・。』
そう言って、目をアッシュの槍に向けたところでリックがおばあさんに話しかけた。

『おばあさん初めまして、リリーがお世話になったようで、私はリックといいます。あなたの魔法のおかげで、アルフォンス家から開放されましたので、お礼に伺いました。』
リックがそう言うと、おばあさんは槍から目を戻してリックの方を向いた。
『なあに、お譲ちゃんの運がよかっただけさね。しかしお前さん達は並の人間じゃないね。あたしには波動が強すぎて恐ろしいよ。』

すると今度はサキがおばあさんに話しかけた。
『どうも、おばあさん私はサキと言います。おばあさんに興味があって同行しました。リリーが教わった魔法・・・あの魔法はロストスペルです。おばあさん、あなたはかなり有名な魔法使いだと思うのですが、宜しかったらお名前を教えていただけませんか?』

するとおばあさんは、サキの目をじっと見ながら語りだした。
魂まで見透かされるような恐怖を感じる・・・。

『私は大昔に死んでるはずの人間さ。今の人間とはかかわらない様にひっそりと生きている。お譲ちゃんに魔法を教えたのは単なる気まぐれだよ。あんた達みたいに強力な波動を持った人間に関わっちまうと、世界がおかしくなっちまうね。それでもあたしの名前が知りたいかね?』

『いえ、この会話とあなたの眼光であなたが何者か想像できました。リックとリリーの恩人に無理に名を聞こうとは思いませんよ。おばあさん。』サキはそう言って頭を下げた。

『お前さん、サキと言ったね・・・。私は人の目を見るとそいつの運命が見えちまうんだが、お前さんには3つの道が見える。どの道を選んでも間違いじゃないが、どれも悲しい道だよ。選んだ道を悔やまない事だね。お前さんの信じる道が、この世界の進むべき道だよ。あぁ・・・なんて悲しい道だ。こんな世捨て人のあたしが、こんな道を見ることになるなんて、やはり人と関わるのは恐ろしい事だね・・・。』そう言うとおばあさんはサキから目をそらした。

サキはおばあさんの言葉を噛み締める様に心に刻んでいた。『3つの悲しい道か・・・』

そこにリリーが話しかけた。
『おばあさん、本当にありがとう。おかげでリックを助ける事ができたよ。』
そう言ってから、魔法を使ったいきさつを詳しく説明した・・・。


『あっはっはっは・・やはりお譲ちゃんは思ったとおり面白いね。そしてこちらのお仲間さん達も並じゃないね・・・。今後は、お前さん達の行く末を見守るのも面白そうだ。それとそちらのお嬢さん・・・。名前を聞かせてもらってもいいかい?』

『私ですか?私はサーシャと言います。』サーシャは少しおびえた様子で答えた。隣でアッシュがサーシャを守るように肩に手をかけている。

『サーシャ・・・』おばあさんはそう言いながら涙を流していた。

『おばあさん?』
『おぁ、すまないね。昔を思い出しちまってね。その槍はあたしが若い頃に私の仲間が持っていた物でね。また出会えるとは思ってもいなかった。サーシャ・・・。』そう言って深く目を閉じた。

『しかし、まさかお譲ちゃんの仲間がこれほどのメンバーとは・・・申し訳ないが、これ以上私が関わると世界の命運が変わっちまうよ。リリーや、私のことは忘れて運命と戦っておいで、私は遠くから見守らせてもらうよ。』
全員で最後にもう一度、おばあさんにお礼を言って、その場を離れた。

おばあさんと別れた後、サキは考えていた。古の魔女ゾーラ、実在してるとは思わなかった。ゾーラの仲間が持っていた槍、サーシャを見たときの反応、後で調べてみるか・・・。
アッシュがそんなサキに話しかけた。
『おい、サキあのおばあさんの名前がわかったとか言ってたけどいったい、何者なんだ?』

サキは、少しためらいながら、全員に聞こえるように言った。
『古の魔女ゾーラだよ。伝説の世界一の魔法使いだよリリーの魔法の先生はね。』

『まさか!』リックたちはサキの言葉に驚きを隠せなかった。
世界を滅ぼす力を持つ500年を生き、様々な伝説に語られる古の魔女ゾーラは、この世界で恐怖の代名詞としてあまりにも有名だったからだ。