驚くほどPV数が伸びていたことに感謝をこめ、、、
本気でぼちぼち更新を始めようかと思い立ちました。
ひとまず、このお話を終わらせないと。。。ですね💦
SIDE S
大理石の床を歩く俺たちの足音が誰もいない夜の教会に、殊更大きく響いている。
光より陰の部分が圧倒的に多い空間は、まるで深い海の底のようだ。
窓から差し込む月の光が身廊の床のモザイク模様に、不規則な陰影を作っている。
ポケットの中に手を入れ、確かめるように金属の硬質な感触を指先でゆっくりなぞってみた。
特に場所にこだわりがあるわけじゃないが、目まぐるしい環境の変化の中、婚姻届けを出したものの、宙ぶらりんのままの俺たちの関係。
俺は誓いの言葉なんてものに特別な思い入れがあるロマンチストじゃない。
だが、後で振り返った時、よすがとなるターニングポイントがあるのとないのでは、心の持ちようが変わってくるのではないかと思う。
左右に袖廊がひらけた中央ドームの部分に立ち、内陣へと続く階段に目を向けたあと、つくしの横顔に視線を移す。
責任やけじめなんて言葉は使いたくないが、茶道に限らずどんな世界でも節目というものは軽視できないだろう。
迷いを断ち切るようにジャケットのポケットから指輪を取り出し、口を開きかけるが、なかなか声にならない。
ほーっと深い息を吐き、意を決した瞬間、つくしの声が場違いな能天気さで静まり返った教会に響く。
『夜の教会で二人っきりって、結構ベタなシチュエーションじゃない?
これで、結婚式の真似事でもしたら、その辺の三文小説も顔負けよねっ。
まぁ、総に限ってそんなイタい真似は絶対しないだろうけど…』
のんびりした口調で、そう言い放った彼女をぎょっと見つめた。
俺は指輪を持った手に全神経を集中させ、彼女に気づかれないようポケットへと戻す。
これじゃ、まるでいたずらを見つかった小さなガキみたいじゃないか。
『あっ当たり前だろっ…俺もそこまで落ちちゃいねーよっ。』
自分の陳腐な計画を見事言い当てられた気まずさをひた隠し、表面上はなんとか平静を装って取り繕った。
いえ。。。実はその三文小説顔負けのベタな計画を、僕、まさに今、実行する一歩手前だったんですけどね。。。
すみませんねぇ。。。最近、いろんなことがありすぎて、つくしさんがおっしゃるイタ~イプランがめちゃ魅力的に思えたわけですよ。
いやぁ、でも考えてみたら、そもそも僕のガラじゃあないですよね…ははは。はぁ。
色んな意味で疲れがどっと押し寄せてきて虚脱状態になった俺は、なんんとなく祭壇の上の十字架にかけられたキリスト像を見上げた。
そういや、俺のご先祖様はクリスチャンだったっなんていわれてたっけ。
現実逃避も甚だしいが、祭壇をぼーっと眺めつつ、ふとそんなことを思った。
人生の最大の責任だと信じていた西門流を全て人に押し付けて我を通した俺が、今更、自分以外の人間への責任云々なんておこがましい。
だいたい、つくしがそんなことを望んでいないのは何より明確じゃないか。
ここ最近の葛藤を思い返すにつけ、何て下らないことをうじうじ悩んでいたのかと、腹立たしさを通り越しおかしさがこみあげてきた。
同時に、日本を出国して以来、心の奥にしつこく留まり続けていた小さなしこりがすっと消えていくのを感じる。
これから全てが良い方向に進んでいく、そんな確信にも似た強い想いが湧き上がってきた。
『折角だから、お参りしとこっかぁ。』
相変わらずのんびりした口調で、祭壇の上のキリストを見上げて、つくしが言った。
お参りって、寺や神社じゃねーんだから。教会なら礼拝とかお祈りとかだろ?
昔と変わらぬ斜め上をいってるつくしの発想がツボで、笑いがこみあげてきた。
どうにも笑いが止まらず声を押し殺して笑い続ける俺をつくしがにらみつけてくる。
『なに一人で笑ってんのよー。感じ悪いわねーもうっ。』
『いや、だって、お参りじゃねーだろ?それを言うなら、礼拝?お祈り??
まぁ、確かに、どんな文化でも、どこの国でも、神さんも仏さんも似たり寄ったりのもんだろうけど、お参りって…』
そんな細かい事、別にどっちでもいいでしょとつくしは全く意に介していない様子だ。
楽し気に手を合わせて、お祈りというか、お参りをしているが、柏手を打たなかっただけ、まだましという事にしておこう。
そんなことを考えていると、ますます可笑しさがこみあげてきて、俺は教会の中で声を立てて笑った。
『ねえ、ちょっと笑いすぎだよっ!誰かに見つかったらどうするのよ、もうっ。』
笑い続ける俺の肩を必死でゆさぶりながら、つくしは本気で焦っているが、そんなことは気にも留めず笑い続けていた。
その時、祭壇の裏の方から、ガタリという大きな音が突然聞こえ、音のした方向を一瞥したあと、俺たちは互いに顔を見合わせた。
『そっ総、誰かいるんじゃない?』
『つくし、逃げるぞっ!』
小声で話しかけてきたつくしにそっと返事をして、静かに教会の入口へと向かう。
重い扉を開けて外に出た途端、俺はつくしの手を引き、走り出した。
あの物音はおそらく、風の音か、古い建物の軋みだったのかもしれない。
だが、そんなことは大した問題じゃない。
夜の街を二人で、走って、走って、どれくらいたっただろう。
息を切らしながら、石畳が続く道の傍らで足を止め、俺とつくしはどちらからともなく笑い始めた。
一息ついて、街灯に照らされた古い街並みを歩きながら、また笑いがこみあげてくる。
『もうっ信じらんない。総のせいだからねっ。』
『いや、お前が変な間違いするからだろ?』
二人でそんな言い合いをしながら、海沿いのプロムナードを歩き、ホテルへと戻った。
大した量のワインを飲んだわけでもないのに、酔いが回ってきた俺は、その夜、泥のように眠った。
夢も見ず、夜中に目覚める事もなく、翌朝、つくしの叫び声で目が覚めるまで、久しぶりに俺は深く眠ることができた。
⑥最終話に続く
久々の更新、お付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m
2年ほど前、これを書いていた時は、シリアス路線で最後まで行くつもりだったような気もするのですが、悲壮な雰囲気で再スタートというのもちょっと。。。(^_^;)
という事で、相変わらずなお二人をテーマ?に少々お話進めてみました。
あーるぐれい