もう言ってしまおう。
頭のいい人は、誰も傷つけないやり方で人を笑わせることができる。そして人を見るとき、本当に見なくてはいけないのは、その人の品なのだと思う。
さて。
ずっと手をつけられずにいた祖母の遺品整理に行ってきた。
古い家というのは不思議な場所だ。押し入れを一つ開けるたびに、時間が薄い埃と一緒に舞い上がる。忘れていたはずの景色や匂いが、何気なくそこに残っている。
思い出というものは、案外、物の隙間にしまわれているらしい。
僕自身にまつわるものは、もちろんほとんど出てこない。そんなことは最初からわかっていた。
それでもアルバムを開く手は、自然と止まらなくなった。
最初に見つけた写真は、誰が写っているのかも、いつ撮られたものなのかもわからない。
でも、その一枚を眺めていると、「本当にこんな時代があったんだな」と、妙に静かな実感だけが胸に残った。
それは会ったこともない曾祖父の写真だった。
思っていたよりずっと背が高く見える。そしてどこか、日本人離れした輪郭をしている。
これは八十歳の頃の写真だと聞いた。
不思議なことに、その表情には年齢よりも、長い時間そのものが写っているように見えた。
古い写真だから、もっとぼやけているものだと思っていた。
ところが驚くほど鮮明だった。
まるで、その時代だけが丁寧に保存されていたみたいに。
次に出てきたのは祖父の写真だった。
もちろん祖父にも会ったことはない。
たぶん伊勢神宮へ初詣に出かけたときの一枚なのだろう。
祖父もまた、背の高い人に見えた。
同じ場所で、自分も一枚撮ってみようかと思う。
できればロングコートなんか羽織って。
そういう余計なことを考えているから、片づけはまったく進まない。
まあ、それも悪くない一日だった。
では。


