2021年7月のMVP | 銀玉戦士のアトリエ

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☆2021年7月 月間MVP☆

 

🇺🇸TJ・ディラショー🇺🇸(元UFCバンタム級王者)

 

【UFC FIGHT NIGHT VS コーリー・サンドハーゲン戦 dif5R判定勝利】

 

 

一昨年の1月にUFCバンタム級王者としてフライ級タイトルマッチに挑むも、当時のフライ級王者ヘンリー・セフードにTKO負けを喫し、直後に薬物違反が発覚して2年間の出場停止処分が下され、バンタム級王座を返上する事となったTJ・ディラショー。

2年半のブランクを経て、王座返り咲きを狙うディラショーの復帰戦の相手は、UFCバンタム級2位、コーリー・サンドハーゲン。

かつてUFCバンタム級3強の一角と言われていた元王者が、新時代のシフティング・ストライカーに挑む。

 

 

1R、まずはサウスポーに構え、プレッシャーを掛けてサンドハーゲンを下がらせるディラショー。

ディラショーの左ミドルをキャッチしたサンドハーゲンが強烈なインローをヒットさせる。

スイッチからの伸びのある右ストレートを出鼻に当てたサンドハーゲンが、前に出るディラショーに飛び膝蹴りを当てる。

フランキー・エドガーを一発でKOした危険な飛び膝をヒットさせた次の瞬間、ディラショーはサンドハーゲンを抱え上げるが、そこへすかさずグラウンドに移行しての三角締めへと繋げてゆくサンドハーゲン。 サンドハーゲンらしい打から極へと繋げる切り返しの速い連携技だ。

https://twitter.com/ufc_jp/status/1419108075718447104

 

だがディラショーは三角から首を外して脱出すると、ハーフポジションからパウンドを打ち下ろし、そこからバックを取る。

立ち上がるサンドハーゲンに、ディラショーはバッククリンチの状態から再度テイクダウンを狙おうとするが、サンドハーゲンはクリンチを解きスタンドへと戻る。

サンドハーゲンはバックスピンキックを狙うが、前進しながらサイドステップで蹴りを避けたディラショーが、ボディ打ちから胴タックルによるテイクダウンに成功する。

直進系のフットワークの選手に当てるとKO出来るのがバックスピンキックだが、横のフットワークも交えて避けられると隙が大きいのも特徴であり、ディラショーはそこを上手く突いてレベルチェンジに成功した形だ。

初のUFC王者戴冠後は打撃中心の試合が多かったディラショーだが、元々はカレッジレスラーであり、グラウンド技術にも長けるという強みからサンドハーゲン相手には組みを織り交ぜたレベルチェンジの戦術を実行している。

対するキックボクシング出身のサンドハーゲンも、長い手足と柔術が得意であるという強みから、ボトムポジションでも三角締めから足関節を狙っていくが、ディラショーもそれをディフェンスしつつパウンドを打ち込む。

1Rはややディラショーのラウンドか。

 

2R、ディラショーがサウスポーからオーソドックスにスイッチして左ストレートを当て、金網に相手を押し付ける。

脇を差し、テイクダウンを狙おうとするディラショー。しかしサンドハーゲンもリストコントロールで腕を取って脱出に成功し、右ボディ、右ストレートとヒットさせる。

ディラショーもウィービングで上体や頭を振りながらパンチを避けようとするも、間に合わず被弾する場面が目立つようになる。

スイッチフェイントとフットワークを巧みに使い、サウスポースタイルからの左フックでフラッシュダウンを奪ったサンドハーゲン。

https://twitter.com/ufc_jp/status/1419109702034771971

 

ディラショーはすかさずタックルを仕掛けるも、右目蓋からは出血が見られている。

ディラショーはなおもウィービングしながら前に出続けるが、パンチは空を切り、逆にサンドハーゲンの飛び膝や左フックが当たる。

サンドハーゲンのパンチはいわゆる手打ちだが、ボクシング的なその場で打ち込むパンチと違いフットワークとの連動性も高く、ノーモーションで繰り出されるがために、バックやサイドステップから角度を付けて「見えない一撃」をヒットさせるのが特徴だ。

タイミングが合えばダウンも奪えるし、飛び膝蹴りなどの大技も織り交ぜる事によって攻撃の強弱を付ける事も出来る。

ストライキングのスピードで勝るサンドハーゲンに、元々のディラショーステップにプラスして、組みを織り交ぜ泥臭くTDを奪ってゆくディラショー。

バックテイクの攻防で金網に押し付けたディラショーがエルボーを放ち、第2ラウンドが終了する。

このラウンドはサンドハーゲンが取っただろう。

 

3Rもサンドハーゲンがパンチからバック肘を繰り出すなど、ストライキングでの攻勢が続くが、ディラショーはここで内、外へと蹴り分けるカーフキックをふくらはぎに当て、フットワークに長けたサンドハーゲンの脚にダメージを与える作戦に切り替える。

サンドハーゲンは回し蹴りを繰り出すも、その瞬間距離を詰めて相手の股を抱えたディラショーがテイクダウンに成功し、バックを取る。

ディラショーのカーフキックが当たり出した事で、スイッチからの顔面へのパンチもヒットするようになり、今度はディラショーがリズムに乗り始めたか。

サンドハーゲンは流れを変えようと自らタックルを仕掛けるも、ディラショーはこれを切ってバックに回り、金網際のクリンチの攻防で右のショートの連打から左フックを当てたところでラウンドが終了する。

サンドハーゲンも効果的な打撃をヒットさせていたが、ディラショーもカーフキックを効かせ、サンドハーゲンの奇襲技もきっちりと読んだ上で的確に対処している。

このラウンドはほぼ互角に見えたか。

 

4Rもディラショーの右ストレートカウンター、サンドハーゲンの下がりながらのバックハンドブローと、互いに印象の強い攻撃をヒットさせ、イーブンのポイントに持ち込んだ最終5R、ディラショーは目蓋の上をカットし顔面血まみれになりながらも、視界が見にくい状態でサンドハーゲンのパンチをウィービングしながら避けつつ前に出てパンチを繰り出してゆく。

これだけダメージがあっても運動量が衰えず、最後の5分間でもハイレベルな攻防を繰り広げる両者。

ディラショーはサンドハーゲンのパンチにタックルを合わせTDを奪い、組み際に肘を当てるも、サンドハーゲンもここで強烈な左ボディブローをヒットさせる。

並の選手ならばこの局面での左ボディ攻めは心を折られる攻撃ではあるのだが、ディラショーは満身創痍の中でも前に出続け、相手がボディを打ったタイミングで組み付いてテイクダウンを奪い、逆ワンツーを当てる。

互いに持ち味を出し尽くした上での死闘は判定にもつれ込み、ダメージを与えていたのはサンドハーゲンだが、前に出続けたアグレッシブとテイクダウンを織り交ぜた MMA的なゲームメイクではディラショー・・・どちらが勝者でもおかしくない珠玉の攻防は、TJ・ディラショーがスプリット判定で勝利をもぎ取り、謹慎期間中も含めて3年振りにオクタゴンで勝ち名乗りを上げて完全復活をアピールした。

 

 

カレッジレスリングからMMAに転向。UFC登竜門番組『TUF』に出演した当初は、堅実なグラウンド&パウンド主体の選手であり、打撃技術に関してはあまり注目されていなかった。

しかしUFCデビュー後、ドゥエイン・ラドウィックの指導により、打撃技術が飛躍的に向上。相手の反応の裏を突くフェイントを交えた変則的な打撃スタイルをモノにしたことにより、ストライカーとしても結果を残すようになり、2014年5月、当時UFCバンタム級王者だったヘナン・バラオンを5RTKOで沈め、王者に戴冠する。

その後は2度の王座防衛に成功するも、2016年1月に行われたドミニク・クルーズとの防衛戦に僅差で敗れ、王座から陥落。

だが、その後のコンテンダーマッチでハファエル・アスンサオ、ジョン・リネカーという曲者2人をテクニックで撃破するという立ち回りを見せ、再びタイトルマッチへの切符を手に入れる。

迎えた王者コディ・ガーブラントとの一戦。古巣のコーチでもあり、かつてはディラショーの王座戴冠劇を共に喜び合ったユライア・フェイバーとの、可愛さ余って憎さ100倍の激しい因縁物語が展開されていたが、ユライアの愛弟子ガーブラントをKOで沈め、リマッチでもKOで退けた事で、一応の終止符を打つ。

2019年1月に当時フライ級王者だったヘンリー・セフードにフライ級契約で挑み、2階級同時制覇を目論むも、1RTKO負けを喫し、直後にフライ級への減量苦のために使用してしまった薬物の陽性反応が発覚し、2年間の試合出場停止処分を受けると共に、バンタム級王座を返上する事となる。

そしてサスペンド明けとなった今回の復帰戦で、ブランクを感じさせない動きで強敵サンドハーゲンを僅差の判定で破り、自身通算3度目となるタイトル挑戦権に王手を掛けた。

構えをスイッチングしながら、ボクシング、ムエタイ、そしてレスリングの要素を融合させた、多種多様なMMA打撃と、それを使い分けるセンスは天性の素質がある。

相手の出方に応じて、手数を多く出したり、逆に無駄打ちをしない戦い方に徹する事で相手に手を出させて、そこにカウンターを合わせる等、試合に応じて様々な戦略で相手を打ち崩すMMAテクニシャンへの道を歩み始めている。

当初は課題だったディフェンスも、ステップワークやハンドリングディフェンス、ヘッドスリップを磨いてきた事により改善。攻守共に相手に的を絞らせないスタイルに変貌を遂げた。

名コーチであるドゥエイン・ラドウィックによって授けられた多彩な打撃技術を武器に、イマジネーション溢れるムーブで対戦相手を翻弄し、KOを狙っていくディラショー。

強さを極めるための姿勢も貪欲で、ボクシング世界王者でPFP候補と呼び声の高いワシル・ロマチェンコや、K-1 3階級王者である武尊ともスパーリングを行う事で、他の打撃競技の技術やエッセンスも積極的に自分の中で採り入れている。

汚名返上とタイトル挑戦を賭けた復帰戦で、気迫のこもったファイトで見事に勝利を飾った34歳のベテランは、キャリア最終章の総仕上げとしてUFCバンタム級王座の奪還を目指す。