Prospect Fighter〜UFCライト級編(2020)〜 | 銀玉戦士のアトリエ

銀玉戦士のアトリエ

一応UFC、MMA、海外キックを語るブログ。ゆるーく家庭菜園や食べ物エントリーもあります。

Instagram ID:notoriousginchang

 

🇩🇪オトマン・アザイタール🇲🇦(UFCライト級)

生年月日  1990年2月20日(30歳)

プロMMA戦績  12勝0敗

 

 

モロッコ系移民の両親の下、ドイツで生まれ育ったというオトマン・アザイタールは、12歳の頃からムエタイ、柔術を習い始め、2014年、24歳の時にドイツでプロMMAデビューする。

プロ入りから7連勝した後、バーレーンを拠点とする新興MMA団体「BRAVE CF(ブレイブコンバットフェデレーション)」に移籍。

BRAVE CFの2戦目となったチャーリー・ライリー戦では、初回にいきなりダウンを奪われ窮地に陥るも、そこからアッパーでダウンを奪い返し、ギロチンチョークでサブミッションアテンプトを取った上で、スタンドでラッシュを仕掛けて再びダウンを奪っての大逆転勝利を納めている。

 

⚜️オトマン・アザイタールVSチャーリー・ライリー  試合動画🔜https://youtu.be/aoXtnTSqvC0 ⚜️

 

この試合での劇的勝利が自分のルーツでもあるモロッコのファンの心を掴み、プロモーターに認められたアザイタールは、2017年11月にBRAVE CFライト級王座決定戦に挑戦。

アレハンドロ・マルチネスを相手に、相手のレスリングに苦しみながらも2Rに得意のフックでダウンを奪って盛り返し、3Rに左右のフックから前蹴りを鳩尾に突き刺して相手を悶絶させ、3RTKO勝利でBRAVE CFライト級王者に戴冠する。

 

⚜️オトマン・アザイタールVSアレハンドロ・マルチネス  試合動画🔜https://youtu.be/ZAG_i0xnsMM ⚜️

 

初の防衛戦となったダニエル・ココラ戦では、1Rにいきなり左フックでダウンを奪い、パウンド連打でココラを32秒で葬り、この試合の後にアザイタールはUFCとの正式契約を結ぶ。

2019年9月にアブダビで開催されたUFC242でUFCデビューしたアザイタールは、テーム・パッカレンを相手に、右オーバーハンドの一撃をアンダー・ジ・イヤー(耳の裏)に当てて1RKO失神させ、ファンを大いに驚かせた。

 

⚜️オトマン・アザイタール  ハイライト動画🔜https://youtu.be/quguqJYHFaY ⚜️

 

写真を見るとアッと思う格闘技ファンも居るだろうが、アザイタールはモロッコ人の血筋に生を受けている事もあり、旧K-1末期にスター選手として人気を博していたあのバダ・ハリに容姿が似ているのである。

ピリピリするような威圧感を醸し出しながら、一転してケージを降りると見せる優しく穏やかな笑顔の表情は、特にバダ・ハリと瓜二つだ。

容姿だけでなく、ファイトスタイルも往年のバダ・ハリを髣髴させる部分があり、キレのある豪快な左右のフック系パンチと、膝蹴りを織り交ぜたラッシュ力に定評のあるストライカーで、特にフェイントを掛けながら体重移動で一気に距離を詰めて打ち込む左フックと、相手のリードジャブにクロスカウンター気味に被せていく右のオーバーハンドは、相手を一撃でKOできる破壊力を秘めており、キャリア12戦のうち7戦が1RKO勝利という実績に裏打ちされている。

反面、持ち前のアグレッシブさが裏目に出て、打ち合いの最中に相手にカウンターを奪われてダウンを喫する脆さも見せる事もあるが、そこから試合を盛り返して逆転勝利でファンを沸かせる試合を演じてのけるのも、まさしく在りし日のバダ・ハリの姿そのものだ。

ちなみに兄のアブ・アザイタールもUFCファイターとして活躍している。

 

日本の旧K-1ファンも彼の試合を観れば想いを馳せる事であろう「モロッコのブルドーザー」は、中東MMAからUFCへと戦いの舞台を移し、世界的スーパースターへの座へと駆け上がれるのか。

 

 

🇰🇬ラファエル・フィジエフ🇰🇬(UFCライト級)

生年月日  1993年3月5日(27歳)

プロMMA戦績  8勝1敗

 

 

キルギスタン出身のラファエル・フィジエフは、元々はアゼルバイジャン人の父親と同じく警察官になる事を夢見ていたが、その道を半ば断念し、格闘家への道を志し単身タイへと渡る。

ムエタイの本場タイで練習を積んだフィジエフは、アマチュアムエタイにおいて通算200戦もの試合をこなし、プロムエタイのリングでもタイで毎年行われているムエタイトーナメント、ムエマラソンに出場するなど、輝かしい実績を納め、2017年にはルンピニースタジアム王者だったヨードパヤックを右クロスで2RKOで葬っている。

 

ムエタイと並行して、2015年にMMAデビューしたフィジエフ。

初期の頃は主に韓国のMMA団体、ROAD FCで、ルーキークラスの選手達を戦わせる「YOUNG GUNS」という育成試合に出場していたが、その頃すでに立ち技の激戦区70kg級(旧K-1MAXで魔裟斗が活躍していた階級)で世界トップクラスの実力を誇っていたフィジエフは、MMAの試合でも、MMAでは同キャリアとはいえ相手選手との格の違いを見せ付けて豪快なKO勝利を飾っている。

 

⚜️試合動画🔜https://youtu.be/cyNGedM09BA ⚜️

 

ハイレベルな立ち技を武器に、MMA戦績6勝無敗でUFCと正式契約を結んだフィジエフ。

だがUFCデビュー戦となった2019年4月に行われたマゴメッド・ムスタファエフ戦にて、初回から動きが固かったフィジエフはムスタファエフのバックスピンキックを喰らい、1RKO負けでプロ初黒星を喫している。

続くアレックス・ホワイト戦では、両者被弾しながらも打撃を出し合う攻防を制し、フィジエフはUFC初勝利を上げる。

この勝利をキッカケに、UFCという舞台でも自身の得意武器であるムエタイの打撃が通用できる感触を掴んだフィジエフは、先日行われたUFCファイトアイランドでのマーク・ディアケイシー戦において、前回の試合とはまるで違うキレのある左右のミドル・ローキックを主軸の武器として試合を支配。

近距離では首相撲、更にはテイクダウンを決めてからのパウンドと、グラウンドの攻防においても優勢に立ち、ディアケイシーを圧倒した。

フィジエフはUFC2勝目を挙げると同時に、ファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞。

更にはこの試合でフィジエフが魅せた、相手のハイキックを大きくスウェーで避ける「マトリックスディフェンス」が、海外のUFCファンの間で、まるで映画のワンシーンを見ているようだと絶賛された。

 

従来のMMAファイターとは一線を画す、重くキレ味のあるミドル、ローキックを左右に蹴り分ける事ができ、ミドルレンジの牽制技として使用する事で、相手のボディや脚にじわじわと効かせて試合を支配できる技術は、まさしくムエタイのバックボーンがあってこその為せる技だ。

キックのみならずパンチでも回転の速いコンビネーションを纏める事ができ、接近戦では首相撲からの膝、肘、バックハンドブロー、ハイキックを織り交ぜる事によって、相手をフィニッシュする。

それでいて、筋骨隆々の肉体とムエタイの首相撲の練習で培われた体幹の強さから繰り出される左フック、右ストレートは威力抜群で、ムエタイの試合でも数々のタイ人の強豪を一撃失神KOに追い込んでいる。

パワーのある打撃で相手を押していく「剛」のファイトスタイルを持ちながら、同時に股関節や身体の使い方が柔らかく、特に抜群の反応から見せる大きく上体を仰け反って相手のハイキックを避けるスウェーは、往年のK-1ヘビー級で体格差のハンデを乗り越えて活躍したムエタイファイター、ガオグライ・ゲーンノラシンの姿を彷彿とさせる。

 

当面はグラウンドの攻防が課題となってくるが、スタンド技術においてはすでに階級トップレベルの実力があるだけに、UFCライト級でも近い将来に台風の目となる存在になってくれるに違いない。

 

 

🇦🇲アーマン・ツァルキアン🇦🇲(UFCライト級)

生年月日  1996年10月11日(23歳)

プロMMA戦績  15勝2敗

 

 

グルジア生まれのツァルキアンは、生後間もなく家族と共にロシアに移住、そこで幼少期からレスリングの練習に打ち込むようになる。

レスリングと並行してホッケーもやっていたというツァルキアンは、18歳の時にプロのホッケー選手になる事を目指していたが、夢叶わず、元々のレスリングのバックボーンを生かして、MMAファイターへの道を志す。

2015年にMMAデビューし、ロシアのMFPという団体を拠点として勝ち星を積み重ねていったツァルキアンは、13勝1敗という戦績で2018年にUFCとの正式契約を結ぶ。

 

UFCデビュー戦の相手は、イスラム・マカチェフ。

現在UFCライト級ランキング11位で、現ライト級王者ハビブ・ヌルマゴメドフのチームメイトでもあり、ランキング以上の実力があると目されているコンバットサンボベースのグラップラーだ。

UFCデビュー戦ながらもこの危険な強豪を相手に、ツァルキアンは何と相手の土俵であるレスリングで真っ向勝負に挑み、 スクランブルゲームで互角に近い白熱した攻防を演じてのけた。

結果は判定負けで、UFCデビュー戦を勝利で飾れなかったものの、ランカークラスでもマカチェフとグラウンド勝負に挑む事が難しいと言われている中で、ルーキーながらも相手の土俵に果敢に飛び込んで挑んだ勇気とひたむきさが称賛され、ファイト・オブ・ザ・ナイトを受賞。ツァルキアンは期待のルーキーとして早くもUFCファンの間で注目される選手の一人となった。

続くオリビア・オーヴィン・メルシエ戦ではタックル+トップキープというレスリングの攻防で優勢に立ち、UFC初勝利を納めると、先日のUFCファイトアイランド大会で行われたダヴィ・ハモス戦では、散打ベースの卓越した打撃スキルを披露。

常に絶え間なくフットワークで動きつつも、軸のブレないパンチとキックのコンビネーション、そして下がりながら相手の出入りに狙い済まして当ててゆくカウンター打撃で試合を支配し、新たな引き出しを見せての勝利を上げた。

 

⚜️アーマン・ツァルキアン  ハイライト動画🔜https://youtu.be/VyzSNQiZTtQ ⚜️

 

幼少期から習っていたレスリング技術を駆使した、打撃のフェイントを見せてのタックルが最大の武器で、例え即座にテイクダウンを奪えなくても、シングルレッグ、ダブルレッグへと移行し、相手を持ち上げて強引にでもテイクダウンを成功させる豪快さとしつこさは、まさしくロシアンMMAの系譜を辿っている。

そして例に漏れず石のように固い拳から繰り出されるパウンドも強烈で、バックのポジションを奪って組み伏せてのパウンド、リアネイキドチョークへと移行するグラウンドスキルも一流だ。

スタンドでは散打ベースの打撃が猛威を振るい、バックスピンキックのような大技から、右クロスから左ハイキックへと繋げるコンビネーションなど、身体能力の高さと体幹の強さを感じさせる強烈な打撃で、相手をKOする。

 

まだ23歳という年齢でありながら、既にMMAファイターとしての完成度が高く、早くも未来のUFC王者との呼び声も高いアーマン・ツァルキアンは、今からでもチェックしておくべき逸材だ。

 

 

🇺🇸カーマ・ワーシー🇺🇸(UFCライト級)

生年月日  1986年10月15日(33歳)

プロMMA戦績  16勝6敗

 

2011年にアマチュアMMAを4試合経験し、2012年にプロデビューしたというカーマ・ワーシー。

主にpinnacle FCというローカルMMA団体を中心に戦績を積み重ねてきた選手だったが、14勝6敗という何ともムラっ気のある戦績だったという事もあってか、中々メジャー団体から声が掛かる事が無かった。

そんなワーシーに、突然降って湧いたようなチャンスが訪れる。

2019年8月に行われたUFC241で、デヴォンテイ・スミスの対戦相手だった選手が直前で欠場した事により、その代役としてUFCから声が掛かったのが、カーマ・ワーシーだった。

試合4日前という超ショートノーティスでのオファーでありながら、ワーシーはこれを承諾。

迎えた試合当日、UFCで既に2戦2KO勝利を上げているスミスを相手に、ワーシーの圧倒的不利が囁かれる中、スミスの得意技である伸びるワンツーの打ち終わりに合わせたクリンチアッパーのカウンターでダウンを奪い、KOするという大アップセットを起こした。

今年6月に行われたルイス・ペーニャ戦では、AKA所属のプロスペクトグラップラーであるペーニャの寝技に苦しみつつも、サウスポー構えの相手選手に対しスタンドでは右ミドル、インロー主体に試合を組み立て、3Rにタックルに合わせてのカウンターのギロチンチョークで、見事な一本勝ちを決めている。

 

⚜️カーマ・ワーシー  ハイライト動画🔜https://youtu.be/sAHlXHjC3-g ⚜️

 

身長180cmという恵まれた体型、優れた身体能力を併せ持っており、身体のバネを生かした強烈な左右のパンチ、瞬発力と反応の速さから成るタックルディフェンスの俊敏性は特筆できる部分で、加えてベテラン選手ならではの相手選手の特性に応じて戦術を変えていくクレバーな一面も持っている。

年齢は33歳と、決して若くは無いのだが、勢いだけではないこの未知なるポテンシャルは、UFCライト級という激戦区においても大きな波乱を起こせる可能性に満ちている。

遅咲きの大器は、世界最高峰の舞台で最後の大輪の花を咲かせられるか。