映画には "未知体験" って必要なんだな、ってこの作品を観て思いました。


僕は医療福祉関係の仕事をしているんですが、この作品に出てくるような疾患の方と何度も接したことがあります。

ですので、こういう疾患が回復する見込みが低いことも経験から理解しています。

この映画のポイントのひとつとして、こういう疾患が回復しにくいという現実を知ることがあると思うんですが、僕はこのポイントを現実体験から既に知っていたわけなんです。

これで僕は "未知体験" のひとつを失ったわけです。

僕はこの現実を知っているので、レナードたちが一度回復したけどまた悪化してしまった姿を見ても、驚きはあまりありませんでした。

こういう疾患のことを詳しく知らない人はこの悲しい現実に心揺さぶられたでしょうね。

冷たい言い方ですが、僕は「まぁそうなるでしょうね」って冷静に観てしまいました。


共感してくれる方がいると嬉しいのですが、この映画『アルジャーノンに花束を』に似ていません?

僕が好きな小説なんですが、生まれつき知能が低い青年が手術を受けて一般的な知能を得るけど、また徐々に元に戻ってしまう、って話なんです。

この小説の再び知能が低下していく描写が切なくて、「あぁこういう体験をする人ってこんな気持ちになるんだな」って心を揺さぶられました。

それがこの映画にも描かれています。

"身体が動かなくなる" "知能が低下する" という違いはありますが、一度得たものを失う人たちの心理描写をもう僕は見たことがあったわけです。

これがふたつめの "未知体験" の消失です。

僕はこの話の流れを、新鮮な気持ちになれず『アルジャーノンに花束を』に似てるな、って思いながら観ていたわけです。

こんなこと考えながら映画を観ている僕を、誰も楽しんで観てるな、とは思わないでしょう?


そういうわけで、世界中で名作と言われるこの作品を、"未知体験" を失ってしまったせいで僕はあまり楽しめませんでした。

いい作品というのは分かります。

辛いことが起こったときにそれを受け入れること、またそれに負けずまた挑戦することを教えてくれる教材的な作品です。

ただ、個人的なエンターテイメントととして捉えると、僕はちょっと物足りなく感じてしまいました。

自分の置かれている環境に似ている映画には、この点に気をつけなければいけませんね。